CORE Reference News 2024年2月28日号

CORE Reference Newsとは】
治験総括報告書(CSR)のユーザーマニュアル『CORE Reference』を作成・公開している欧米のメディカルライターらから成るCORE Reference Teamが、無料配信しているニュースレター(英語)。メディカルライティングに役立つ医薬業界情報を欧米・アジアなどから集めて月1~2回配信。

※本ブログ記事は、クリノスがCORE Reference Teamの許諾を得て参考用として日本語に翻訳したものです。正確な内容や解釈は英語原文と各ニュース中のリンク先でご確認下さい。本ブログ記事の無断転載・転用は堅く禁止いたします。

【略語リスト】(アルファベット順)

  • CDER:Center for Drug Evaluation and Research(米国医薬品評価研究センター)
  • CIOMS:Council for International Organizations of Medical Sciences(国際医学団体協議会)
  • CTIS:Clinical Trials Information System(臨床試験情報システム)
  • CTR:Clinical Trials Regulation(臨床試験規則)
  • EMA:European Medicines Agency(欧州医薬品庁)
  • EU/EEA:European Union/European Economic Area(欧州連合/欧州経済領域)
  • EudraCT:European Union Drug Regulating Authorities Clinical Trials
  • FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
  • HMA:Heads of Medicines Agencies(欧州医薬品規制当局首脳会議)
  • ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)
  • MHRA:Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(英国医薬品医療製品規制庁)
  • RWD:real-world data(リアルワールドデータ)
  • RWE:real-world evidence(リアルワールドエビデンス)

 

1. EU CTRCTIS

1.1 CTISのショート説明会「How to submit a transitional trial in CTIS」(移行中の臨床試験の提出方法)が2024年2月29日に開催されます。ビデオ録画が後日公開される予定です。

1.2 CTISに関する公開ウェビナー「Last Year of Transition」(移行期間最後の年)が2024年3月25日13時(アムステルダム時間)に開催されます。本ウェビナーではCTRの実装や、移行期間中の臨床試験とCTISでの更新方法、CTISの現状などについて説明される予定です。参加申込の詳細はこちらをご覧下さい。参加者は事前の質問を3月4日から18日まで、Slidoのサイト経由でイベントコード「#infomarch2024」を使用して提出できます。

1.3 オランダのCentral Committee on Research Involving Human Subjects (CCMO)(ヒトを対象とする研究に関する中央委員会)は、医薬品臨床試験の「substantial modification (SM)」(大幅な変更)専用に、カバーレターと変更説明書の各テンプレートを新たに発表しました。「substantial modification」では、提出書類と変更内容の概要を審査担当者が十分に把握することが重要です。そのため、CTISでは「substantial modification」ごとにカバーレターと変更説明書の提出が求められています。これにより、明確さの欠如による審査の遅延がなくなり、審査プロセスの迅速化が期待されます。

1.4 EMAは2024年2月に2つのCTIS研修資料の最新版を公開しました。
・「CTIS Training materials — Latest updates, Version 1.3」(CTIS研修資料―最新アップデート、バージョン1.3):本資料は、EMAのサイト上で研修資料のどのバージョンが最新版なのか、ユーザーが最後に参照してからどの研修資料が新たに作成されたのかを、ユーザーにわかりやすくすることを目的としています。
・「CTIS Evaluation Timelines, Version 2.0」(CTIS評価タイムライン、バージョン2.0):本資料は、臨床試験申請プロセス全体のタイムラインと各種期限の概要をEU加盟国と治験依頼者に示すことを目的としています。

2. 欧州医療データスペースのニュース

2.1 欧州製薬団体連合会(EFPIA)のデジタルデータ担当ディレクターAneta Tyszkiewicz氏は、インタビューの中で、EUが提案している医療データ共有法に関するEFPIAのフィードバックについて語っています。詳細はインタビュー記事「A Maze of Rules: EFPIA on EU’s Proposed Health Data Sharing Law」(規則の迷路:EU提案の医療データ共有法についてEFPIAが語る)でご覧頂けます。

2.2 EUやEU加盟国の大規模な患者団体、医療団体、医学会など30団体が、欧州医療データスペース(EHDS)規則案に関する最近の協議について、団体共通の懸念を表明しました。これらの団体はプレスリリースで「EU理事会、欧州議会、欧州委員会の三者協議(トリローグ)の基礎をなす立法的な立場で、10件の基本的な問題が満足に対処されていない」と述べています。プレスリリース「The draft text of the European Health Data Space (EHDS) in trilogues sparks deep concerns in the European healthcare ecosystem」(トリローグでの欧州医療データスペース(EHDS)規則案が欧州の医療エコシステムに深い懸念を呼び起こす)の全文はこちらをご覧下さい。欧州議会とEU理事会の欧州医療データスペース規則案に関する報告書A9-0395/2023はこちらでご覧頂けます。

3. 英国とMHRAのニュース

DeVitoらは論文「Barriers and Best Practices to Improvement Clinical Trials Transparency at UK Public Research Institutions: A Qualitative Interview Study」(英国の公的研究機関における臨床試験の透明性向上の障壁と最善の方法:定性的インタビュー研究)を発表しました。この研究は、英国の公的研究機関(大学とNHSトラスト)で臨床研究のガバナンスや運営、臨床試験の管理に携わる職員への半構造化インタビュー調査によって行われました。その結果、「治験責任医師が臨床試験の透明性確保の責任を確実に認識して支援を受けられるよう、研究機関内で新たな方針や手続きがほぼ例外なく確立されてきている。しかし、まだ課題が複数残っている」などの重要な知見が得られています。
訳注)NHSトラスト:英国の国民保険サービス(National Health Service: NHS)の一部として、地域別または種類別(例:精神医療)に医療サービスを提供する機関。公的な位置づけとしては、日本の地方独立行政法人に類似。英国内に約200のNHSトラストが存在。

4. 米国FDAのガイダンスとニュース

4.1 ClinicalTrials.govの治験プロトコル登録・結果提出システム(PRS:Protocol Registration and Results System)ベータ版の最新バージョンがPRSのサイトにリリースされました。これにより、ユーザーは「Record Summary」ページから直接、治験プロトコルのPRS品質保証(QA)・品質管理(QC)コメントを閲覧できるようになりました。詳細は最新のリリースノートをご覧下さい。

4.2 FDAは「臨床試験の登録や結果報告を怠って規則に従わない治験依頼者や治験責任医師に対して、今より厳しい立場を取るつもりはない」と権利擁護団体に対して述べました。STAT Newsサイトの記事「FDA gives a mixed response to a petition seeking greater clinical trial transparency」(臨床試験の透明性向上を求める嘆願書にFDAが複雑な反応)によると、FDAは開示違反の罰則を検討する際に規制当局の裁量権を行使する権利を保有していますが、治験依頼者らが自発的に規則に従って臨床試験を登録・報告することを望んでいます。

4.3 FDAは2024年2月22日に最終ガイダンス「Assessing COVID-19-Related Symptoms in Outpatient Adult and Adolescent Subjects in Clinical Trials of Drugs and Biological Products for COVID-19 Prevention or Treatment」(新型コロナ感染症の予防用または治療用の医薬品・生物学的製剤の臨床試験の思春期・成人期外来被験者における新型コロナ関連症状の評価)を発出しました。本ガイダンスの目的は、「新型コロナ感染症の予防または治療のための医薬品や生物学的製剤について、思春期・成人期の外来被験者を対象にした臨床試験で、一般的な新型コロナ関連症状をどのように評価・分析できるかという課題へのアプローチに関する留意事項を、治験依頼者と治験責任医師に示すこと」にあります。今後は、2020年9月29日発出の同名ガイダンスに代わって本最終ガイダンスが有効になります。

5. 欧州EMAのガイダンスとニュース

EMAは、臨床試験で新薬の安全性と有効性を確認するための非劣性デザインの利用に関するコンセプトペーパー「Concept Paper for the Development of a Guideline on Non-Inferiority and Equivalence Comparisons in Clinical Trials」(臨床試験における非劣性および同等性の比較に関するガイドライン作成のコンセプトペーパー)を発表しました。この提案は、臨床試験におけるestimandと感度分析に関するICHガイドラインを取り入れ、劣性試験に関する既存の2つのEMAガイダンスを統合することを目的としています。新たに作成されるガイドラインは、CPMP/EWP/482/99「Points to consider on Switching between Superiority and Non-Inferiority」(優越性と非劣性の切り替えの留意点)と、CPMP/EWP/2158/99「Guideline on the Choice of Non-Inferiority Margin」(非劣性マージンの設定に関するガイドライン)に代わるものとなります。本コンセプトペーパーに関するパブリックコメントは、こちらで2024年5月31日まで受け付けています。

6. リアルワールドデータ

6.1 Toaderらは論文「The use of healthcare systems data for RCTs」(ランダム化比較試験[RCT]における医療システムデータの利用)を発表し、研究のデータソースとしての医療システムデータ(HSD)の利用状況について報告しています。英国のデータベースでのスクリーニングで適格と判断したランダム化比較試験84件のうち、28件では少なくとも1つのアウトカムにHSDを利用する予定であり、24件では少なくとも1つのアウトカムにHSDを唯一のデータソースとして利用していました。また、HSDから収集された主なアウトカムは、死亡関連アウトカム、入院、有害事象、コスト関連アウトカムでした。

6.2 EMAとHMAは、リアルワールドデータ(RWD)ソースに関するカタログと、RWD研究に関するカタログを新たに発表しました。これらのカタログは、規制当局や研究者、企業が医薬品の使用、安全性、有効性を検討する際にRWDを特定・利用するのに役立ちます。そして、透明性を促進し、質の高い方法論の使用を奨励し、RWDに基づく研究に対する信頼を築きます。2つのカタログは、ENCePPリソースデータベースとEU PAS Registerに各々代わるものであり、利用者のために様々な改善が施されています。
訳注1)ENCePP:European Network of Centres for Pharmacoepidemiology and Pharmacovigilance(薬剤疫学・ファーマコビジランスセンターの欧州研究ネットワーク)。EMAが2006年に欧州での市販後の医薬品安全性モニタリング強化を目的として開始。
訳注2)EU PAS Register:EU post-authorisation study register(欧州市販後安全性研究登録)。欧州での市販後の医薬品安全性研究に関する情報を登録・公開するデータベース。

6.3 EMAとHMAが新たに発表したRWDソースに関するカタログと、RWD研究に関するカタログについて、EMAがウェビナー「Multi-stakeholder webinar on the HMA-EMA Catalogues of real-world data sources and studies」を2024年3月4日10時~12時(中央ヨーロッパ時間)に開催します。リアルタイムでご覧になるか、開催後にビデオ録画をご覧下さい(スライドはこちら)。本ウェビナーでは、規制実務におけるカタログの利点や重要性など、両カタログの概要を説明します。カタログの使用方法の説明や、主な機能のデモンストレーション、補足資料の紹介、質疑応答なども予定されています。

7. 透明性・情報開示のリソースとニュース

7.1 AllTrialsキャンペーン、コクラン・デンマーク、コクラン・ノルウェー、コクラン・スウェーデン、Dam財団、Melanomföreningen、TranspariMEDが共同で報告書「Medical research in waste in Nordic countries: Unreported clinical trials in Denmark, Iceland, Finland, Norway and Sweden」(北欧諸国の無駄な医学研究:デンマーク、アイスランド、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンにおける未報告の臨床試験)を発表しました。本報告書によると、北欧諸国で実施された臨床試験のうち、結果が公表されていない試験が475件も確認されました(参加した被験者の総数:約84,000名)。本報告書の詳細は、2024年3月15日10時(中央ヨーロッパ時間)開催のウェビナーで発表されます。(訳注:報告書がこちらのウェブ記事からダウンロード可能です)

7.2 2024年3月14日14時(英国時間)に無料の公開ウェビナー「Clinical Trial Transparency – CTR Transition Studies: What you need to know and how to meet the 30 Jan 2025 deadline」(臨床試験の透明性 ― CTRへの臨床試験の移行:知っておくべきことと、2025年1月30日の移行期限に間に合わせる方法)が開催されます。

8. 開発戦略ニュース

8.1 Babaらは、「Guidelines for reporting pediatric and child health clinical trial protocols and reports: study protocol for SPIRIT-Children and CONSORT-Children」(小児および小児の健康に関する臨床試験のプロトコルと報告書の報告ガイドライン:SPIRIT-ChildrenとCONSORT-Childrenの作成計画書)を発表しました。本計画書は、小児臨床試験に関するSPIRIT Extension(SPIRIT声明の拡張版)の作成を目指しています。
訳注1)SPIRIT-Children:Standard Protocol Items: Recommendations for Interventional Trials – Children。小児臨床試験のプロトコルに関するガイドライン。
訳注2)CONSORT-Children:Consolidated Standards of Reporting Trials – Children。小児臨床試験の報告に関するガイドライン。

8.2 欧州の非営利組織Ecraid(European Clinical Research Alliance for Infectious Diseases:感染症の欧州臨床研究ネットワーク)は、臨床試験のアダプティブデザインについて、6部構成の研修シリーズ「Ecraid Training Modules on Adaptive Clinical Trial Designs」の提供を開始しました。本シリーズは無料のアダプティブデザイン入門講座で、受講者はCME(医学生涯教育)の履修証明書の取得が可能です。

8.3 TransCelerate Biopharma社は、臨床試験プロトコルのテンプレート「Clinical Content & Reuse (CC&R) Initiative」(旧Common Protocol Template [CPT])の最新版「Clinical Template Suite (CTS)」を発表しました。CTSは最新の研究トレンドやガイダンスを反映しながら、①プロトコルの構成と内容の共通化、②プロトコルの内容の作成自動化と再利用の価値の証明、③プロトコルと試験デザイン要素のデジタル化の基盤作りの支援を可能にしています。最新版リリースの発表全文はこちらをご覧下さい。同社のウェブサイトによると、今回のアップデートは、進化したベスト・プラクティス(マスタープロトコル、妊娠と授乳、性別特有の表現の削減、肝臓の安全性)のみならず、プロトコルの内容に関する他のトピック(患者報告アウトカム、EU-CTRとの整合性、統計解析アプローチ、CTIS)も反映しています。また、「MCTC (Modernization of Clinical Trial Conduct) Data Return Plan」(臨床試験実施の近代化:被験者への治験データ返却計画)と「Patient Experience Study Participation Feedback Questionnaire」(治験参加に関する患者フィードバックの質問票)をCPTに組み込んだことにより、同社の他のイニシアチブをサポートしています。CPT更新版のダウンロードはこちらから可能です。変更箇所をリストアップしたスライドがこちらからダウンロード可能です。特に、新たなCPTは、プロトコルの内容とEU-CTRの要件との整合性を確実にすることと、プロトコルの項目とCTISシステムの要件との整合性を反映することを目的としてアップデートされています。
訳注)同社の各種テンプレートの中には、日本語版が参考用として無料で提供されているものもあります。詳細はこちらをご覧下さい。

9. 人工知能・機械学習

Goodmanらは論文「AI-Generated Clinical Summaries Require More Than Accuracy」(AI生成臨床サマリーに必要なのは正確さだけではない)を発表し、電子健康記録(EHR: electronic health record)から臨床記録や投薬情報などの患者データを要約する生成AIと大規模言語モデル(LLM)の臨床応用について見解を述べています。「LLMは、電子健康記録からの情報収集を合理化する強力な機会を約束すると同時に、FDAの既存の規制による予防策では明確にカバーされない特異なリスクももたらす」と著者らは指摘し、生成AI/LLMによる患者データの要約が日常診療の一部になる前に、FDAが規制の未整備を明らかにすることを強く求めています。

10. アジア規制当局のニュース

タイ臨床試験レジストリ(TCTR)は、試験完了日から11ヶ月が経過している試験の登録者と、最終更新日から180日以上情報が更新されていない試験の登録者に対して、リマインダーのメールを自動送信するシステムを2024年1月24日から導入しています。TCTRの登録者は試験情報を随時更新して下さい。情報が更新されないと、試験状況が「unknown」と表示されます。本システム導入に関する公式発表は、TCTRのサイトの「Announcement」セクションをご覧下さい。

 

翻訳:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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CORE Reference News 2024年2月15日号

CORE Reference Newsとは】
治験総括報告書(CSR)のユーザーマニュアル『CORE Reference』を作成・公開している欧米のメディカルライターらから成るCORE Reference Teamが、無料配信しているニュースレター(英語)。メディカルライティングに役立つ医薬業界情報を欧米・アジアなどから集めて月1~2回配信。

※本ブログ記事は、クリノスがCORE Reference Teamの許諾を得て参考用として日本語に翻訳したものです。正確な内容や解釈は英語原文と各ニュース中のリンク先でご確認下さい。本ブログ記事の無断転載・転用は堅く禁止いたします。

【略語リスト】(アルファベット順)

  • CDER:Center for Drug Evaluation and Research(米国医薬品評価研究センター)
  • CIOMS:Council for International Organizations of Medical Sciences(国際医学団体協議会)
  • CTIS:Clinical Trials Information System(臨床試験情報システム)
  • CTR:Clinical Trials Regulation(臨床試験規則)
  • EMA:European Medicines Agency(欧州医薬品庁)
  • EU/EEA:European Union/European Economic Area(欧州連合/欧州経済領域)
  • EudraCT:European Union Drug Regulating Authorities Clinical Trials
  • FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
  • HMA:Heads of Medicines Agencies(欧州医薬品規制当局首脳会議)
  • ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)
  • MHRA:Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(英国医薬品医療製品規制庁)
  • RWD:real-world data(リアルワールドデータ)
  • RWE:real-world evidence(リアルワールドエビデンス)

 

1. ICH

CIOMSはICH用語集「Glossary of ICH terms and definitions」の第5版(2024年2月7日)を発行しました。本書は、各種ICHガイドラインで使用されている用語とその定義を組み合わせて提示しています。こちらからダウンロード可能です。

2. EU CTRCTIS

2.1 CTISのデータ保護に関するQ&A集「Q&A on the protection of Commercially Confidential Information and Personal Data while using CTIS」(CTIS利用時の営業秘密情報 [CCI] と個人情報の保護に関するQ&A)の改訂版が発表されました(バージョン1.4、2024年1月31日)。今回の改訂では、Q&A 3.4「Is it possible not to disclose patient facing documents publicly?」(患者用文書を開示しないことは可能ですか?)の追加などが行われています。

2.2 EudraCTおよびEU Clinical Trials Register(EU-CTR)の「Frequently asked questions」(よくある質問)が改訂されました(バージョン2.3)。改訂箇所の多くは、CTISへの臨床試験の移行に関するQ&Aです。

2.3 今後開催が予定されているCTISイベントの日時は以下の通りです。
2024年4月8日~11日14:00~18:30(アムステルダム時間)
2024年6月10日~13日9:00~13:30(アムステルダム時間)

2.4 2024年1月23日、EMAは「CTIS: How to get started and how to transition a trial」(CTIS:利用開始方法と臨床試験の移行方法)を公開しました。

3. 欧州医療データスペースのニュース

欧州製薬団体連合会(European Federation of Pharmaceutical Industries and Associations:EFPIA)は、欧州医療データスペース(European Health Data Space:EHDS)に関する医療データ共有法案の主な留意事項に焦点を当てた声明「European Health Data Space: key aspects to be considered in the trilogue discussions」を発表しました。本声明では、二次利用の範囲内のデータや、知的財産と企業秘密の保護などが強調・考察されています。

4. 米国FDAのガイダンスとニュース

4.1 FDAはガイダンス案「Collection of Race and Ethnicity Data in Clinical Trials and Clinical Studies for FDA-Regulated Medical Products」(FDA規制医療製品の臨床試験と臨床研究における人種・民族データの収集)を公開しました。本案は、FDA規制医療製品の臨床試験や臨床研究から収集・報告された情報を含む申請資料において、人種・民族データの収集・報告に一貫性を持たせるために、FDAが推奨する標準化アプローチ・用語を提示しています。なお、本案は、2016年発表のFDA最終ガイダンス「Collection of Race and Ethnicity Data in Clinical Trials」(臨床試験における人種・民族データの収集)を改訂したものです。

4.2 FDAは米国デューク大学のデューク・マーゴリス医療政策センターと共同で、公開ワークショップ「Enhancing Adoption of Innovative Clinical Trial Approaches」(革新的な臨床試験アプローチの導入強化)を2024年3月19~20日に開催します。本ワークショップでは、臨床試験のデザインと実施の革新を進める取り組みについて議論する予定で、対面式(会場:ワシントンDCのケロッグ・カンファレンス・ホテル)とオンラインとのハイブリッド形式で開催されます。参加申込は同センターのイベントサイトで受け付けています。

4.3 FDAは公開ワークショップ「Advancing the Use of Complex Innovative Designs in Clinical Trials: From Pilot to Practice」(臨床試験の複雑で革新的なデザインの利用促進:試みから実装まで)を2024年3月5日に開催し、複雑なアダプティブデザインやベイズ流アプローチなど、新しい試験デザインについて議論します。本ワークショップは二部構成になっており、前半では、複雑で革新的なデザインとその実装の多様な側面を例示するケーススタディに焦点を当てます。後半では、ケーススタディに基づいてパネルディスカッションが行われる予定です。対面式とオンラインのハイブリッド形式で開催されますが、参加申込の詳細はこちらをご覧下さい。

4.4 「Top Questions and Answers about the Transition to the Modernized ClinicalTrials.gov and Modernized PRS」(ClinicalTrials.govとプロトコル登録・結果提出システム [PRS:Protocol Registration and Results System] の最新化に関するQ&A)が改訂され、ClinicalTrials.govとPRS各々の従来バージョンの廃止に関する情報が追加されました。

4.5 FDAはガイダンス案「Use of Data Monitoring Committees in Clinical Trials」(臨床試験におけるデータモニタリング委員会の活用)を公開しました。本案は、①データモニタリング委員会(DMC)(別名:データ・安全性モニタリング委員会[DSMB]、データ・安全性モニタリング委員会[DSMC]、独立データモニタリング委員会[IDMC])が臨床試験のモニタリングに有用な場合の見極めや、②データモニタリング委員会の運営指導で考慮すべき手順や内容の決定に関して、治験依頼者を支援するための推奨事項を示しています。本案が最終決定されると、2006年3月発行の治験依頼者向け最終ガイダンス「Establishment and Operation of Clinical Trial Data Monitoring Committees」(臨床試験データモニタリング委員会の設置と運営)から置き換わります。パブリックコメントは2024年4月15日まで受け付けています。

4.6 CDERのジェネリック医薬品部(OGD)とEMAは、ジェネリック医薬品の申請者とFDAとEMAとの同時協議を促進するため、任意のパイロットプログラム「FDA-EMA Parallel Scientific Advice Pilot Program for Complex Generic/Hybrid Products」(複雑なジェネリック/ハイブリッド製品に対するFDA-EMA並行科学的助言パイロットプログラム)を開始しました。本プログラムにより、申請者は「複雑なジェネリック医薬品」(EMAの「ハイブリッド医薬品」に相当)の開発に関して具体的な科学的質問を照会するために、FDAとEMAとの三者合同会議の開催を要請することができます。

5. 欧州EMAのガイダンスとニュース

5.1 EMAはニュース記事「Clinical trials’ transition to new EU system — one year left」(臨床試験の新EUシステムへの移行 ― 残り1年)を発表しました。本記事は、2025年1月30日以降も継続が予想される臨床試験の依頼者に対し、EU加盟国が承認手続き完了までに最大3カ月要する場合があることを考慮する必要性について改めて注意喚起しています。本記事には、過去に紹介された臨床試験移行ガイダンスのリンクも貼られています。また、EMAは「Getting started with CTIS: Sponsor quick guide」(CTISの利用開始方法:治験依頼者用クイックガイド)も発表しています。

5.2 EMAは、ヒトの特定の細菌感染症または感染症の治療や予防を目的としたバクテリオファージ医薬品の開発・製造に関する科学的ガイドラインの作成を提案するコンセプトペーパー「Concept paper on the establishment of a Guideline on the development and manufacture of human medicinal products specifically designed for phage therapy」(ファージセラピー用ヒト医薬品の開発・製造ガイドラインの作成に関するコンセプトペーパー)を発表しました。現在EUでは、動物用のバクテリオファージ医薬品についてはEMAのガイドラインが存在しますが、ヒト用はありません。本コンセプトペーパーに関するパブリックコメントは2024年3月31日まで受け付けています。

5.3 2024年1月25~26日の2日間、EMA主催の臨床試験分析ワークショップが開催され、200人を超える参加者が出席しました。主なディスカッションは、詳細かつ最新の臨床試験データへのアクセス改善の要望や、患者参加の重要性、標準化、適切なデータソースの特定などでした。当日のスライドとビデオ録画がこちらで公開されています。

6. 透明性・情報開示のリソースとニュース

6.1 TransCelerate Biopharma社は2024年3月28日にウェビナー「Enabling Individual Participant Data Return (iPDR): An Overview of TransCelerate’s Individual Participant Data Return Package」(臨床試験の被験者へ各自の治験データを提供する方法:TransCelerate Biopharma社の被験者個人データ提供パッケージの概要)を開催します。参加申込の詳細はこちらをご覧下さい。

6.2 Real Life Sciences社は2024年2月22日にウェビナー「Commercially Confidential Information: Why It’s So Hard and What You Can Do To Streamline CCI In Your Organization」(医薬品の営業秘密 [CCI]:CCIの簡素化はなぜ難しいのか、組織内で何が出来るか)を開催します。参加申込の詳細はこちらをご覧下さい。

7. 開発戦略ニュース

7.1 EMAは、バイオシミラーの開発におけるテーラーメイド臨床アプローチのリフレクションペーパー作成に関するコンセプトペーパー「Concept paper for the development of a reflection paper on a tailored clinical approach in biosimilar development」を発表しました。本コンセプトペーパーについて、2024年4月30日までの3ヶ月間に渡りパブリックコメントを募集しています。コメントはこちらのアンケートフォームから提出可能です。

7.2 Kahanらは論文「The estimands framework: a primer on the ICH E9(R1) addendum」(estimandのフレームワーク:ICH E9(R1)ガイドライン補遺の手引き)を発表しました。estimandを検討する際、チームのインプットが必要であるにもかかわらず、生物統計担当者に任せきりになるという、よく見られる問題が本論文で指摘されています。本論文は主題が簡潔に要約されており、estimandに馴染みのない人にとって優れた手引書となっています。

8. 人工知能・機械学習

Shickらは論文「Transparency of artificial intelligence/machine learning-enabled medical devices」(人工知能/機械学習を利用した医療機器の透明性)を発表しました。2021年10月にFDAが開催した同名のワークショップで、ステークホルダーにとっての透明性の意味と役割や、医療機器に該当するすべての人工知能/機械学習利用ソフトウェアの透明性を促す方法について議論された成果が本論文で報告されています。

 

翻訳:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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CORE Reference News 2024年1月31日号

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治験総括報告書(CSR)のユーザーマニュアル『CORE Reference』を作成・公開している欧米のメディカルライターらから成るCORE Reference Teamが、無料配信しているニュースレター(英語)。メディカルライティングに役立つ医薬業界情報を欧米・アジアなどから集めて月1~2回配信。

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【略語リスト】(アルファベット順)

  • CDER:Center for Drug Evaluation and Research(米国医薬品評価研究センター)
  • CIOMS:Council for International Organizations of Medical Sciences(国際医学団体協議会)
  • CTIS:Clinical Trials Information System(臨床試験情報システム)
  • CTR:Clinical Trials Regulation(臨床試験規則)
  • EMA:European Medicines Agency(欧州医薬品庁)
  • EU/EEA:European Union/European Economic Area(欧州連合/欧州経済領域)
  • EudraCT:European Union Drug Regulating Authorities Clinical Trials
  • FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
  • HMA:Heads of Medicines Agencies(欧州医薬品規制当局首脳会議)
  • ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)
  • MHRA:Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(英国医薬品医療製品規制庁)
  • RWD:real-world data(リアルワールドデータ)
  • RWE:real-world evidence(リアルワールドエビデンス)

1. EU CTRCTIS

1.1 EMAは、2024年2月4月6月に各々開催予定の「CTIS治験依頼者エンドユーザー研修プログラム」の日程と情報を発表しました。

1.2 EMAは、非営利目的の治験依頼者が臨床試験をCTISに移行させることを支援するため、研修イベントを2024年2月9日に開催します。参加者は事前の質問を、Slidoのサイト経由でイベントコード「#Transitioningtrials」を使用して提出できます。アジェンダはこちらからダウンロード可能です。本イベントでEU加盟国の代表者とEMAは、治験をCTISに移行する非営利目的治験依頼者をサポートするためのガイダンスとリソースを提供します。

1.3 EU CTR施行に関する報告書(2023年12月号)がダウンロード可能になりました。本報告書には、2022年1月31日以降に提出された初回臨床試験申請の累積件数の概要が含まれています。

1.4 「CTIS newsflash」2024年1月26日号によると、EMAは改正CTIS透明性規則の技術的実装に取り組んでおり、2024年第2四半期の実装を見込んでいます。それまでの間、初回臨床試験申請について、治験依頼者は改正CTIS透明性規則の原則に従うことが可能です。そのため、治験依頼者は治験文書の公開を保留せず、改正透明性規則の適用範囲内にある文書に限って「公開用」と「非公開用」の両バージョンを提供することが認められます(改正CTIS透明性規則の付録I参照)。

2. 英国とMHRAのニュース

英国保健研究機構(Health Research Authority:HRA)の「HRA Now」最新号で、医薬品臨床試験のEU CTIS登録に関するHRAの指針が明示されました。国際共同試験の一部として英国で実施される臨床試験の情報はEUのCTISに登録できないため、EU/EEAと英国の両地域で臨床試験を行う場合は、EU CTISに臨床試験を登録するだけでなく、ISRCTNレジストリClinicalTrials.govなどの臨床試験レジストリにも登録が必要です。

3. 米国FDAのガイダンスとニュース

3.1 FDAは「Conducting Remote Regulatory Assessments – Questions & Answers」(リモート規制評価の実施:Q&A)の改訂ガイダンス案を業界向けに公開しました。FDAは、FDA規制製品の監視やリスク軽減、公衆衛生上の重要なニーズへの対応、コンプライアンス向上支援のため、「リモート規制評価」(RRA)を利用してきました。本ガイダンス案では、RRAの定義や実施時期・理由・方法などがQ&A形式で説明されています。パブリックコメントはこちらで2024年3月27日まで受け付けています。

3.2 FDAは「Collection of Race and Ethnicity Data in Clinical Trials and Clinical Studies for FDA-Regulated Medical Products」(FDA規制医療製品の臨床試験と臨床研究における人種・民族データの収集)と題されたガイダンス案を公開しました。本ガイダンス案は、臨床試験での人種・民族データの収集・報告について標準化アプローチを提示しています。パブリックコメントはこちらで2024年4月29日まで受け付けています。

4. 欧州EMAのガイダンスとニュース

4.1 EMAと欧州がん研究治療機関(EORTC)は、患者報告アウトカム(PRO)と健康関連QOL(HRQoL)データが規制上の決定にどのように影響するかについて、ワークショップを2024年2月29日に共催します。オンライン参加の申込はこちらで2024年2月16日まで受け付けています。

4.2 EMAは、製薬分野の中小企業(SME)向けユーザーガイド「User guide for micro, small and medium-sized enterprises」の大幅な改訂版を発表しました。本ガイドには、EUの医薬品規制の枠組みに関する情報が包括的に掲載されており、ヒト用医薬品および動物用医薬品の開発と承認の要件が示されています。今回の主な改訂は、①動物用医薬品に関する全面改訂(動物用医薬品規則に準拠)、②CTRとCTISの概要の記載(新規セクション4.4)、③ヒト用の医療機器規則に関する知見の提示(新規セクション4.8)の3点です。

4.3 EMAの臨床試験データ公開サイトに「Resumption of clinical data publication for all medicines」(全医薬品の臨床データ公開の再開)というセクションが追加されました。EMAは新薬臨床試験のデータ公開について、新型コロナ感染症医薬品を除き一時中断していましたが、2023年9月以降にEMAのヒト用医薬品委員会(CHMP)から意見を得た医薬品の臨床試験データ公開を再開しました。新型コロナ感染症医薬品以外で再開後に公開された医薬品の臨床データパッケージは、2024年1月からEMAの臨床試験データ公開サイトで入手可能になります。

5. リアルワールドデータ

HMA/EMA共同ビッグデータ運営グループは、最新のビッグデータ作業計画2023-2025(バージョン1.2、2024年1月)を発表しました。本計画には各作業のタイムラインの概略が示されています。本計画の発表スライドがこちらからダウンロード可能です。

6. 透明性・情報開示のリソースとニュース

6.1 DeVitoらは、EU Clinical Trials Register(EU-CTR)に登録された臨床試験のデータ開示状況について、横断的監査調査を実施しました。その結果、調査した臨床試験500件のうち53.2%で試験結果がEU-CTRで開示されていました。これは、比較可能な記録がある他の臨床試験レジストリの臨床データ開示率を上回っていました。また、試験結果の報告までに要した時間(中央値)も、EU-CTRが1142日で最も短く、ClinicalTrials.gov(3321日)より結果報告が速いことが示されました。詳細は論文「Availability of results of clinical trials registered on EU Clinical Trials Register: cross sectional audit study」をご覧下さい。

6.2 米国のClinical Trials Transformation Initiative(CTTI)の調査報告書「Improving Timely, Accurate, and Complete Registration and Reporting of Summary Results Information on ClinicalTrials.gov」(ClinicalTrials.govへのタイムリーで正確かつ完全な試験登録と試験結果報告の改善)が発表されたことを受け、臨床試験ニュースサイトClinical Trial Vanguardのブログ記事「FDA Needs To Release ClinicalTrials.gov Guidance Now」では、CTTIの報告書の主な内容とメッセージが詳述されています。
訳注)CTTI:Clinical Trials Transformation Initiative。2007年に米国デューク大学とFDAが共同で設立した、臨床試験の品質・効率の向上を目指す産学官連携組織。

6.3 Gattrellらは、専門家らの合意に基づく生物医学研究に特化した初の報告ガイドライン「ACCORD (ACcurate COnsensus Reporting Document): A reporting guideline for consensus methods in biomedicine developed via a modified Delphi」(デルファイ変法により開発された生物医学における合意形成法の報告ガイドライン)を発表しました。本ガイドラインは、論文で合意形成法を報告する際に、著者が完全かつ透明性のある方法で正確かつ詳細な論文を執筆できるよう支援することを目的としています。

7. 開発戦略ニュース

7.1 Heyらはオープンアクセス論文「A Future European Scientific Dialogue Regulatory Framework: Connecting the Dots」(欧州における今後の科学的対話の枠組み:プロセスの統合と最適化)を発表しました。本論文は、EMAが製薬企業に提供している「科学的助言」(SA)(訳注:PMDAの対面助言に相当)にアクセスするための複数のオプションが直面している課題を示しています。また、医薬品開発の科学的ニーズに応えるために、現在のSAのオプションを統合・最適化できる方法を考察しています。

7.2 マスタープロトコル試験は、従来の試験デザインの課題に対処する方法として実施が増えつつあります。Laura C. Collada Aliのウェブ記事「Navigating the Future of Clinical Research: Master Studies and Crafting a Comprehensive Protocol」(今後の臨床研究の針路:マスタープロトコル試験と包括的プロトコルの作成)では、マスタープロトコル試験の概念を探り、関連する臨床試験プロトコルを作成する際に重要となるコンテンツをまとめています。

7.3 世界医師会(WMA)の「ヘルシンキ宣言」2024年改訂に向け、最後の定期的な見直しが、新たな作業部会によって2023年に実施されました。すべてのステークホルダーと一般からの意見を最大限に反映するため、世界医師会は作業部会が作成した改訂案を公開してパブリックコメントを募集します。現在、募集の第1期中であり、コメントは世界医師会の公式サイトの指示に従って2024年2月7日まで提出可能です。第2期募集は、追加のトピックが公表される春に実施される予定です。

8. 人工知能・機械学習

2024年1月24日、欧州委員会は、EUの価値観とルールを尊重する信頼可能な人工知能(AI)の開発において、欧州のスタートアップ企業と中小企業を支援するための一連の施策を開始しました。これは、EUにおいて信頼可能なAIの開発、展開、導入を支援する、世界初の包括的な欧州AI規制法案に関して、政治的合意が2023年12月に得られたことによります。詳しい情報とプレスリリースはこちらでご覧頂けます。

9. アジアの規制当局のニュース

2024年1月16日、マレーシアの国立医学研究登録レジストリ(NMRR)は、下記の文書の改訂版などを始め、最新の開発情報を発表しました。
・「Data Elements and Parameters for NMRR Submission (V2.1)」(NMRR提出用のデータ項目とパラメーター、バージョン2.1)
・「User Guideline for Investigator/CRA – New Research Registration & Other Submission Purposes, NMRR v2.0」(研究者・CRA用ユーザーガイドライン:新規研究登録および他の提出目的、NMRRバージョン2.0)

 

翻訳:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
→ 詳しいプロフィールはこちら

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CORE Reference News 2024年1月15日号

【CORE Reference Newsとは】
治験総括報告書(CSR)のユーザーマニュアル『CORE Reference』を作成・公開している欧米のメディカルライターらから成るCORE Reference Teamが、無料配信しているニュースレター(英語)。メディカルライティングに役立つ医薬業界情報を欧米・アジアから集めて月1~2回配信。

※本ブログ記事は、クリノスがCORE Reference Teamの許諾を得て参考用に和訳したものです。正確な内容や解釈は英語原文と各ニュース中のリンク先でご確認下さい。本ブログ記事の無断転載・転用は堅く禁止いたします。

【略語リスト】(アルファベット順)

  • CDER:Center for Drug Evaluation and Research(米国医薬品評価研究センター)
  • CIOMS:Council for International Organizations of Medical Sciences(国際医学団体協議会)
  • CTIS:Clinical Trials Information System(臨床試験情報システム)
  • CTR:Clinical Trials Regulation(臨床試験規則)
  • EMA:European Medicines Agency(欧州医薬品庁)
  • EU/EEA:European Union/European Economic Area(欧州連合/欧州経済領域)
  • EudraCT:European Union Drug Regulating Authorities Clinical Trials
  • FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
  • HMA:Heads of Medicines Agencies(欧州医薬品規制当局首脳会議)
  • ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)
  • MHRA:Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(英国医薬品医療製品規制庁)
  • RWD:real-world data(リアルワールドデータ)
  • RWE:real-world evidence(リアルワールドエビデンス)

 

1. EU CTRとCTIS

1.1 CTISに記録されたEU加盟国の祝日リスト2024年版が、EMAのサイトで公開されました。

1.2 EMAは、CTISの機能に関する「CTISウォークイン・クリニック」を2024年1月24日16時~17時(中央ヨーロッパ時間)に開催します。参加者は事前の質問を、Slidoのサイト経由でイベントコード「#clinic241」を使用して2024年1月15日まで提出できます。

1.3 2023年11月29日に開催されたCTISショート説明会「Training materials, CTIS pre-requisites, and updates on transparency rules」(研修資料、CTIS利用要件、透明性規則の最新情報)のビデオ録画がオンライン公開されました。こちらからダウンロード可能です。

1.4 新型コロナウイルス感染症後遺症(PASC)の治療法と予防法の臨床エビデンス生成に関して、EMAが開催したワークショップのビデオ録画が公開されました。本ワークショップでは、臨床試験での適切な患者集団の選定や、適切な有効性エンドポイントの設定などが取り上げられています。

1.5 臨床試験調整諮問グループ(CTAG)の議事録(2023年11月27日会議開催)と、CTRとCTISに関する第2回調査の結果報告スライドが、こちらからダウンロード可能です。

2. 英国MHRAのニュース

MHRAは、患者のタイムリーな医薬品アクセスをサポートするため、新たな有効成分の医薬品販売承認申請(MAA)や適応拡大申請のバリエーションに関する運用情報を共有するプロセスを開発しました。医療システムパートナーと共有する運用情報の目的や、共有する情報の性質、同意、同意の撤回、情報管理プロセスなどについて、「Operational Information Sharing Guidance」(運用情報共有ガイダンス)に詳しく記されています。

3. 米国FDAのガイダンスとニュース

3.1 次回のICH総会(2024年6月4~5日開催予定)に先立ち、FDAとカナダ保健省は、関係者に情報を提供して意見を募るための公開ミーティングを共同開催する予定です。ミーティングの参加登録はこちら。アジェンダはこちらからダウンロード可能です。

3.2 米国の臨床試験登録サイトClinicalTrials.govは、「Notices of Noncompliance and Civil Money Penalty Actions」(不順守および民事制裁金の措置に関する通知)を改正しました。本通知には、過去に臨床試験の登録・報告義務を怠った組織・個人の名称、試験ID(NCT番号)、FDAからの違反通知、罰金の一覧表が掲載されています。

3.3 ClinicalTrials.govのホームページに、「Submit Studies」というセクションが新設されました。本セクション内の「PRS Help Resources」では、臨床試験の登録方法や試験結果の提出方法などを確認できます。また、「Policy」というセクションも新設され、登録項目やFAQなどが掲載されています。

3.4 ClinicalTrials.govへの臨床試験結果提出の期限延長要請に関して、米国国立衛生研究所(NIH)発出の通知「Clinical Trials Results Information Submission: Good Cause Extension (GCE) Request Process and Criteria」(臨床試験結果情報の提出:正当な理由による延長要請のプロセスと判断基準)が2024年1月に改正されました。本改正では、提出期限延長要請の理由が「正当でない」と判断されるケースに複数の追加がありました。

4. リアルワールドデータ

欧州製薬団体連合会(EFPIA)と欧州共同希少疾患プログラム(EJP RD)は、希少疾患のリアルワールドデータなどに関するウェビナーを2024年1月26日に共同開催します。タイトルは「Real-World data, Machine learning and Deep analytics in rare diseases: Regulatory grade data collection for marketing authorization submissions – what is buzz, what is realistic?」(希少疾患におけるリアルワールドデータ、機械学習、ディープ・アナリティクス:販売承認申請のための規制グレードのデータ収集 ― バズとは何か?現実的とは何か?)。本ワークショップは参加無料ですが、事前登録が必要です(2024年1月25日受付締切)。

5. 透明性・情報開示のリソースとニュース

5.1 2024年2月6~8日にPHUSE(Pharmaceutical Users Software Exchange)が開催する「PHUSE Data Transparency Winter Event」(データの透明性に関する冬季イベント)の参加申込受付が始まりました。本イベントはバーチャル開催で、3日間の各日とも15時~17時30分(グリニッジ標準時)にプレゼンテーションが行われます。また、パネルディスカッションや質疑応答も毎日開催されます。登壇者や抄録、参加申込情報などの詳細はこちらをご覧下さい。

訳注)PHUSE:Pharmaceutical Users Software Exchange。製薬企業やIT企業などのデータマネージメントや生物統計、電子臨床データ、毒性、病理、薬理などの各専門家ボランティアから成る国際的非営利組織。FDAやEMA、CDISCなどの規制当局・標準組織などに対する業界の代弁者。

5.2 欧州メディカルライター協会(EMWA)の季刊誌『Medical Writing』2023年12月号(バイオテクノロジー特集)に、「Overcoming confidential information challenges faced by study sponsors」(治験依頼者が直面する機密情報の課題の克服)という記事が掲載されています(著者:Elliot Zimmerman)。記事全文はこちらからダウンロード可能です。

5.3 米国のClinical Trials Transformation Initiative(CTTI)は、臨床試験の登録と結果報告に関する要因と障壁を調査しました。調査報告書「Improving Timely, Accurate, and Complete Registration and Reporting of Summary Results Information on ClinicalTrials.gov」(ClinicalTrials.govへのタイムリーで正確かつ完全な試験登録と試験結果報告の改善)には、登録・報告の義務を負う臨床試験の改善に関する提言が示されています。報告書の概要はこちらでご覧頂けます。

訳注)CTTI:Clinical Trials Transformation Initiative。2007年に米国デューク大学とFDAが共同で設立した、臨床試験の品質・効率の向上を目指す産学官連携組織。

5.4 臨床試験の重大な違反の最初の2件がEU CTISのサイトで発表されました。この2件の詳細をご覧になりたい方は、EU臨床試験データベースで「Advanced Criteria」をクリックし、「Serious Breach」のチェックボックスにチェックを入れて検索して下さい。

5.5 2024年1月、ClinicalTrials.govはNIH発出の通知「Clinical Trials Results Information Submission: Good Cause Extension (GCE) Request Process and Criteria」(臨床試験結果情報の提出:正当な理由による延長要請のプロセスと判断基準)の改正版をサイトに掲載しました。本通知には、正当な理由によりClinicalTrials.govへの臨床試験結果提出の期限延長要請を提出するプロセスが示されています。本改正では、提出期限延長要請の理由が「正当でない」と判断されるケースに複数の追加がありました。また、新たなFAQも追加されています。

6. 人工知能・機械学習

欧州希少疾患共同プログラム(EJP RD)が2024年1月26日に開催予定のオンライン・トレーニング・ウェビナーの詳細は、前述の「4. リアルワールドデータ」セクションをご覧下さい。

7. アジアの規制当局のニュース

タイ臨床試験レジストリ(TCTR)は、2024年1月1日付でMedical Research FoundationからFoundation for Human Research Promotionに移管されました。登録システムの運用については、追加情報が後日提供される予定となっています。TCTRは、財政支援不足のため、2023年11月より段階的に運営を停止しています。

 

翻訳:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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医薬論文・報告書のIMRAD形式って何?

医薬分野のレポート(学術論文・治験報告書など)の形式として、基本の「き」である「IMRAD形式」をご存知ですか?製薬企業・CROで実施させて頂いている社内英文メディカルライティング研修で、この形式をご存知ない受講者の方が意外に多く、「他にも知らない方が結構いるかもしれない。知らないなんて勿体ない!」と思いましたので、本ブログでご紹介したいと思います。

 

1. IMRAD形式とは

まず、「IMRAD」は「イムラッド」と読みます。これは何かと言いますと、下記の5つの英単語の頭文字をつなげた略語です。

Introduction(緒言・序論)
Methods(方法)
Results(結果)
And
Discussion(考察)

もうお気付きだと思いますが、「IMRAD」は学術論文の代表的な構成を表しています。形式の名称はご存知なくても、「この論文構成は知っている」という方が多いのではないでしょうか。筆者も、論文の構成要素・順序は知っていても、大学病院退職後に医薬翻訳者を目指して英語論文の書き方の勉強を始めるまで、構成に名前が付いているとは知りませんでした。

IMRAD形式は論文本文だけでなく、抄録(abstract)にも採用されていることが多いですし、ポスター発表なども同じ構造・順序の場合が多いです。

2. 製薬文書のIMRAD形式

製薬分野の報告書も「IMRAD」形式と無縁ではありません。例えば治験総括報告書(CSR)の「概要」(synopsis)や本文の構成は概ね「IMRAD」形式になっています。

また、治験薬概要書(IB)に記載する非臨床試験や臨床試験の要約の構成も「IMRAD」形式に則っている場合が多いですし、要約の段落を分ける箇所は、「IMRAD」の区切りと一致している場合が多いです。

したがって、論文の執筆者・校閲者や翻訳者などだけでなく、製薬分野の文書作成・翻訳に携わる方々も「IMRAD」形式と各構成要素の役割などを理解し、この形式で書けるようになっておく必要があると思います。

ちなみに、私が米国シカゴ大学のメディカルライティング・プログラムでCSRの書き方に関する講座を受講した際、最初の演習は、ICH E3ガイドライン「治験総括報告書の構成と内容」の各項を「IMRAD」の各構成要素に分類することでした。「アメリカではこのような演習を通じて、メディカルライターたちにCSRの構成要素と記載順序を理解させるだけでなく、ICH E3ガイドラインの問題点まで気付かせているのか!」と感心しました。興味のある方はこの演習をご自身で実施なさってみて下さい。

3. IMRAD形式を知る3つの利点

(1)医薬分野の論文・報告書の基本的な枠組みを理解して慣れれば、これらの文書を組み立てやすく、書きやすく、訳しやすくなります。

(2)読者も、「IMRAD」形式で書かれていることを前提にしている場合が多いので、「IMRAD」形式で作成すれば、論文を読んでもらえる確率が上がったり、文書の内容を読者に伝えやすくなったりします。

(3)「IMRAD」形式の知識は、医薬分野の論文・報告書を読む際にも役立ちます。例えば、話の流れ・展開や論旨を理解しやすくなったり、欲しい情報を探しやすくなったりします。

4. IMRAD形式の学習法

「IMRAD」形式に関する情報は、論文の書き方に関する本やネット上に豊富に存在しますので、簡単に入手することが出来ます。お好みの媒体でいろいろご覧になってみて下さい。(例:IMRADのWikipedia:英語はこちら、日本語はこちら

5. IMRAD式文書を書くコツ

筆者が過去30年間に数え切れないほどの論文や製薬関連文書を、翻訳業務や英文ライティング教育現場などで見て来た中で、日本人によく見られる間違いや問題点に基づいて、また、米国メディカルライター協会(AMWA)のワークショップなどで学んだ論文や治験関連文書の書き方に基づいて、セクション別にポイントをお示しします。

(1)Introduction(緒言・序論)

  • 総論から各論に移る書き方が一般的
    いきなり自分の研究・治験について書き始めるのではなく、まず総論的な概説から始めて、徐々に対象を狭めていき、最後に自分の研究や治験などにについて書きましょう。
  • 研究・治験等の説明は概要のみで十分
    具体的な方法や結果は各々のセクションに記載するので、イントロに細かく書き過ぎないようにしましょう。

(2)Methods(方法)

  • 英語の場合、原則として方法・手順を命令形で書かない
    方法・手順を書く際も、他のセクションと同様に、主語のあるセンテンスを作りましょう。(例:「Measure blood drug concentrations every hour.」ではなく「Blood drug concentrations were measured every hour.」)
  • 使用した薬剤・実験器具等は「製品名」ではなく「一般名」で書く
    科学研究の報告では「再現性」が重要なので、誰でも同じ研究方法を再現できるように、「製品名」ではなく「一般名」で書くのが原則です。特に英語で書く際は、薬剤・実験器具などの中には日本のみで販売されている製品や、海外では名称が異なる製品などがあることを念頭に置きましょう。製品名を書く必要がある場合は、一般名の後に括弧で括って製品名や製造元などを書き添えます。括弧内に記載すべき項目や書き方は、論文の投稿規定や企業のスタイルガイドなどで確認して下さい。
  • 倫理面についても忘れずに記載する
    研究論文で記載漏れが多く見られますので、研究内容に応じて、「ヘルシンキ宣言」の遵守や倫理委員会による研究承諾、被験者の同意取得(インフォームド・コンセント)などの必要事項を漏れなく記載しましょう。
  • 「Results」に統計解析の結果を記載する場合は、必ず解析方法を「Methods」に記載する
    研究論文で記載漏れが時々見られます。具体的な解析方法や有意水準の設定などを「Methods」のセクションに書きましょう。

(3)Results(結果)

  • 論文は、Methodsと同じ小見出しを同じ順序で使って結果を書くとわかりやすい
    「Results」の章立てを踏まえて「Methods」を構成しておくと、査読者や読者にわかりやすい論文に仕上がります。
  • 事実を淡々と書き、原則として「意見」は書かない
    「意見・考察」は「Discussion」のセクションに書くので、「Results」のセクションでは、原則として「意見」を交えず客観的に「事実」のみを書きましょう。
  • 図表のタイトル・説明を本文中に書く必要なし
    日本語の論文や治験報告書などでは、「有害事象の発現状況を表1に示す」のように、図表の説明が本文中に書かれていることが多々あります。しかし、関連する結果に図表番号を補足的に示すのみで十分です(例:有害事象の発現率は12.3%であった(表1))。日本式の英語文書は外国人に違和感を与えるので注意しましょう。

(4)Discussion(考察)

  • 結果の要約だけではNG!
    「Discussion」の記載内容が結果の要約に過ぎないことが、依然として論文でも治験総括報告書などでも時々見られます。海外の投稿論文でも多いようで、米国メディカルライター協会(AMWA)の論文関連のワークショップでも、多くの講師が「結果のサマリーだけではダメ!」と言っています。「Discussion」の見出しどおり、結果を「考察」して、解釈や意義などを記載しましょう
  • 「Results」のセクションに記載していない結果を、「Discussion」のセクションで新たに提示しない
    「Discussion」で言及するデータは、すべて「Results」に記載しておくのが原則です。読者が戸惑わないよう、「Results」に伏線を張っておきましょう。
  • 「事実」と「意見」を明確に区別して書く
    記載内容が「事実」なのか「意見」なのか、よくわからない文章を時々見掛けます。日本語は主語を省略することが多いので、余計にわかりにくくなりがちです。英訳する際も、原文の意図が「事実」と「意見」のどちらなのかを正確に把握して、読者に区別が明確にわかるような英文を作りましょう。
  • 英語で意見を書く場合、誰の意見なのかを明示する
    日本語の考察では「~と思われる」「~と考えられる」という表現がよく使われるため、日本人の英文ライティングや和文英訳では「It is considered/ thought/ believed that …」構文が多用される傾向があります。しかし、この構文は誰が考えているのかを示していないため、「世間では~と考えられている」という意味であり、「著者は~と考える」という意味ではありません。つまり、「誤訳」です。著者の意見を述べたい場合は、「We consider that …」のように、誰が考えているのかを出来る限り明示しましょう
  • 他人の文献や英文等のパクリ厳禁!
    他人の文書の内容や表現を盗んで、出典を明示せずに使うことは「剽窃」(plagiarism)と呼ばれる不正行為です。投稿論文を剽窃ソフトですべてチェックする医学誌が増えていますが、製薬分野の文書も油断できません。欧米の規制当局に提出する英語の治験総括報告書(CSR)は、規制当局の報告書公開開始により、誰でも無料オンライン剽窃ソフトなどでチェック可能になったからです。英語文書を作成する際は「英借文」が剽窃にならないよう、細心の注意を払いましょう
  • 引用箇所は正しい方法で引用し、出典を必ず明示する
    他人の文書の内容や表現を引用する場合は、「剽窃」と疑われないように、日本語ではカギ括弧で、英語では引用符(quotation marks)で括り、著者の文章と明確に区別するとともに、出典を必ず明示しましょう。
  • ネガティブな面も考察して正直に書く
    誰でもネガティブな面にはあまり触れたくないものですが、良い結果や肯定的な考察だけ書いても、あるいは曖昧な記述でごまかそうとしても、論文の査読者や規制当局の審査官の目は節穴ではありません。問題点を鋭く指摘されたり、質問されたりして、対応が必要になることや、査読や審査が長引くことも珍しくないので、好ましくない結果や、研究・治験の限界・問題点などを先回りして書いておくほうが得策だと思います。

6. IMRAD式文書の英語文例集

メディカルライターや医薬翻訳者、論文執筆者などの方々から、「英語の論文や製薬関連の報告書などでよく使われる文章パターンや例文を教えてほしい」というご要望をよく頂きます。その際に私がいつもお薦めしているのは、「Academic Phrasebank」というサイトです。

これは、英語が母国語でない研究者が英語論文を書く際の参考になるように、英国のマンチェスター大学が作成した構文リストで、米国メディカルライター協会(AMWA)の会員専用メーリングリストで紹介されていました。

IMRAD形式のセクション別だけでなく、「比較」「例示」「分類」等のカテゴリー別でも、よく使われる構文が多数例示されていて大変便利です。例示されている構文の多くは製薬関連文書にも利用可能ですので、医薬分野で「良い英文パターン」が思い付かない場合や、論文調の英語文書にふさわしい構文や定型文を知りたい場合などに、ぜひご活用下さい!ご自身の記憶の中の限られた文章パターンで英文を作ろうとするより、「Academic Phrasebank」を見て、よく使われる構文を知るほうが、英文を適切に、しかも速く作れて効率的だと思います。

7. まとめ

  • IMRAD形式は学術論文の代表的な構成
  • IMRAD形式は製薬分野の報告書等にも採用されている
  • IMRAD形式の詳細やコツは、論文に関する参考書やサイト等で学べる
  • IMRAD形式の知識はライティング・翻訳だけでなくリーディングにも役立つ
  • IMRAD式文書の英語文例集は「Academic Phrasebank」がおススメ

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著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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