CSRマニュアル「CORE Reference」を読む3つのメリット(2016年AMWA年次総会の参加報告)

昨年(2016年)も米国メディカルライター協会(AMWA)年次総会に参加して来ましたので、遅ればせながら報告いたします。2016年の総会は10月5~8日にコロラド州デンバーで開催され、名称が「annual conference」から「Medical Writing & Communication Conference」に変わりました。

日本からの参加者は今年も約15名で、大部分は国内製薬企業のメディカルライターの方でしたが、フリーランスのライターや医薬翻訳者の方も数名いらっしゃいました。参加者名簿を見る限り、国内のアカデミアやCRO、翻訳会社からの参加はなかったようです。

会期中には、毎年恒例の日本人参加者の夕食会を開催しました。医薬分野の英訳を手掛けるネイティブ翻訳者の方も数名参加して下さり、医学英語の勉強法からアメリカ大統領選まで幅広い話題で盛り上がり、今回も楽しく有意義な時間を過ごすことができました。

AMWAオープン・セッションで個人的に最も期待していたのは、2015年同様、治験総括報告書(CSR)の作成マニュアル「CORE Reference」の説明会で、今回も多くの参加者が集まり盛況でした。欧州メディカルライター協会(EMWA)とAMWAが共同で「CORE Reference」を作成した経緯などは、本ブログの第15回「製薬業界のメディカルライター必見!EMWAとAMWAがCSRマニュアル『CORE Reference』を共同作成中」にまとめてありますので、背景を知りたい方はそちらをご覧頂きたいと思いますが、ついに2016年5月に「CORE Reference」がネット上で公開され、利用が始まりました「CORE Reference」公式サイト

CSRの作成に関しては、ご存知のとおり「ICH E3ガイドライン」という国際的な指針があり、製薬企業はこのガイドラインに基づきながら、各々工夫を凝らしてCSRを長年作成しているので、すでに作成方針やテンプレートなどが確立されている企業が多いと思います。そのため、「CORE Reference」公開前から「何を今さら・・・」という疑問の声も聞かれます。

「CSRのマニュアルなど新たに必要ない」と考える製薬企業が多いかもしれませんが、AMWAのオープン・セッションでの説明を聞き、「CORE Reference」を読む限り、CORE Reference」はICH E3ガイドラインに基づいているだけでなく、欧米の規制当局の最近のガイダンスも考慮して作成されているので、CORE Reference」を利用すると海外の規制を遵守しやすくなると思います。また、「CORE Reference」は申請のためだけではなく、臨床試験データの公開も視野に入れて作成されているようです。

ご存知のとおりヨーロッパの規制当局(EMA)が新薬の臨床試験データの公開を義務付けたことから、薬剤の開発国・地域に関わらず、ヨーロッパで申請するすべての医薬品の臨床試験データを誰でも見られるようになりました。つまり、アメリカやアジアなどで書かれた臨床試験データもEMAを通じて公開されるということです。このような状況を踏まえ、いかにCSRに手を加えずにそのまま公開できるかということにも、「CORE Reference」は配慮して作られている印象を受けます。

そのため、「CORE Reference」のオープン・セッションでは、臨床試験データの公開時に規制当局が求める「透明性」(transparency)や「データの利用しやすさ」(data utility)と、被験者・開発側の個人情報(protected personal data [PPD])や医薬品の機密情報(commercially confident information [CCI])の保護とを、どのように両立させるかという説明に多くの時間が割かれていました。

別のオープン・セッション「Public Access to Clinical Documents — The New Transparency Policies in Europe」でも、「PPD」と「CCI」という略語が頻繁に使われ、これらの詳しい内容や保護方法に関する説明がありました。臨床試験データの公開におけるキーワードとして、この2つの用語は覚えておいたほうが良さそうです。

なお、「CORE Reference」は規制やガイドラインではないので、強制力はありません。また、CSRのテンプレートでもありません。欧米の各メディカルライター協会の会員で医薬品の申請資料作成に携わるメディカルライター(regulatory writer)らが意見をまとめた提案に過ぎません。作成に際しては日米欧3極とカナダの規制当局に相談したそうですが、関与を公式に表明しているのはカナダ当局のみです。また、欧米での利用度や普及範囲は、しばらく様子を見ないとわからないのが現状です。

しかし、「CORE Reference」は一読の価値があると思います。その理由は主に3つあります。

  1. 欧米のベテランの製薬専門ライターらの知識や経験などが色濃く反映されているので、欧米のCSR作成の考え方などを窺い知ることができる上に、ICH E3ガイドラインの欠点を補う形で作られているので、CSR改善のヒントが得られます。
  2. 臨床試験データの公開にCSRを利用する際に注意すべき点や、公開を前提に効率よくCSRを作成するコツなどがわかります。
  3. 欧米のベテランの製薬専門ライターらが質の高い英語で書いているので、正確かつ適切な英語表現を知ることができ、CSRの英文ライティングや和文英訳の参考になります。

このような利点がありますので、CSRの作成・翻訳に携わる方は、「CORE Reference」の利用の有無に関わらず、お手すきの折にでも一度ご覧になってみて下さい。公式サイトからどなたでも無料でダウンロードできます。また、メーリングリストに申し込むと、関連する最新情報が「CORE Rerference email」として随時無料で届くので、公式サイトから申し込んでおくと便利だと思います(申込ページはこちら)。

臨床試験データ公開のキーワード
・protected personal data (PPD)
・commercially confident information (CCI)

追記1:クリノス代表・内山雪枝が「CORE Reference」に送ったメールの一部が、「CORE Reference」公式サイトの「Adoption and Use」(利用者の声)に掲載されました。興味のある方はこちらをご覧下さい。

追記2:2018年7月にクリノスは、「CORE Reference email」の和訳とその配信に関する許諾を「CORE Reference」より取得しました。詳しいことはこちらをご覧下さい。

関連サイト・記事
CORE Reference公式サイト
製薬業界のメディカルライター必見!EMWAとAMWAがCSRマニュアル『CORE Reference』を共同作成中

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AMWA総会参加ガイド2:自費参加者必見!航空券・ホテル代ゼロで参加する方法

前回、米国メディカルライター協会(AMWA)年次総会の参加ガイドを本ブログに掲載したところ、予想以上に好評で大変嬉しく思っています。過去の参加者の方々からは「こういう情報が欲しかった」「もっと早く知っていれば・・・」などの感想を頂きました。また、今年の総会に最近申し込んだ方によるとconference hotelがすでに満室で、「クリノスのブログどおり、まずホテルを予約すべきだった」とおっしゃっていました。総会参加申込のキャンセル期限が近づくとconference hotelの予約キャンセルが出ることもあるので、諦めずにconference hotelの予約サイトを時々チェックしてみて下さい。

前置きが長くなりましたが、ご好評にお応えしてAMWA年次総会参加ガイドの続編を掲載します。第2弾は、自費で参加する方のための「参加費用削減法」です。ここ数年、フリーランスの医薬翻訳者・メディカルライターで総会に参加される方が毎年1~数人いますし、企業に属していても自費で参加される方もいますので、出来るだけお金を掛けずに参加する方法を私自身の経験に基づいてご紹介します。

AMWA年次総会の参加に必要な費用の主な内訳は総会参加費渡航費宿泊費の3つです。これらをいかに減らすかが鍵になるので、この3つを中心に説明します。

1. 総会参加費
総会参加費(conference registration fee)をゼロにする方法は1つだけあります。それはワークショップの講師になることです。講師はボランティアで、AMWAから講演料などは支払われませんが、総会参加費が免除になるそうです。しかし、この方法は私達日本人にはハードルが高すぎるので、残念ながら総会参加費をゼロにする方法はないと考えたほうが良いでしょう。

その一方で、総会参加費を削減する方法が今年初めて出来ました。それは「早期割引料金」です。6月末までに申し込むと100ドル割引になりました。来年以降も早期割引料金が設定されるかわかりませんが、早期割引を利用すれば総会参加費を若干削減できます

総会参加費は全日程参加以外に1日のみの参加費も通例設定されますが、ワークショップは1回の総会当たり4つまで申し込めるので、certificateの取得を目指すなら全日程参加するほうがお得だと思います。

なお、ワークショップに参加するには、総会参加費以外にワークショップ参加費(workshop registration fee)が必要になります。ワークショップ1つ当たりの参加費(2016年は200ドル)が総会参加費に加算されるので、申し込むワークショップの数が多ければ、それだけ費用が増えます。残念ながら今のところワークショップ参加費を減らす方法はありません

2. 渡航費

航空会社のマイレージ・プログラムの会員になってマイルを貯め、無料往復航空券を取得すれば渡航費をゼロにできます。飛行機に乗らずに効率良くマイルを貯めるには、航空会社の提携クレジットカードを日常の支払いに多用するのがお薦めです。

 

航空会社とカードの選び方、カード申込のタイミング、カード年会費削減の裏技、効果的なカード利用法などについては、ネット上にたくさん情報があるので、いろいろ調べて、自分の好みやライフスタイルなどに合う方法でマイルを貯めると良いでしょう。

3. 宿泊費

(1)ホテルのポイント利用
渡航費の削減方法同様に、外資系大手ホテルチェーンの会員になってポイントを貯めて、無料宿泊特典を利用すれば宿泊費をゼロにできます。ポイントが足りなくて全日程を無料にできなくても、1泊からポイント利用が可能なので、宿泊費を削減することはできます。宿泊時に提携航空会社のマイルも、ポイントと一緒にもらえるホテルチェーンもあり、航空会社のマイルも貯めたい方にとっては「一石二鳥」です。

ちなみにAMWAのconference hotelはシェラトン、ハイアット、ヒルトンのどれか1つ、または2つが指定されることが多いので、スターウッド、ハイアット、ヒルトンのいずれかまたは複数の会員になると良いと思います。

たとえこれら3系列からconference hotelが指定されなくても、年次総会が開催されるような比較的大きな都市では会場近くにいずれかの系列のホテルがあることが多いので、自分がポイントを貯めている系列のホテルにポイント利用で泊まって宿泊費を削減・無料化できます。例えば2015年のconference hotelはハイアットでしたが、私は主にヒルトンのポイントを貯めているので、1ブロック隣のヒルトンに泊まってポイントを利用しました。

AMWAのサイトでは、今後数年間の年次総会の開催日・開催地・conference hotelが発表されているので、予定を確認しながら戦略を立てると良いでしょう。<http://www.amwa.org/future_meetings>

ホテルに泊まらずにポイントを貯めるには、航空会社のマイルの貯め方と同様に、ホテルの提携クレジットカードを利用するのがお薦めです。ホテルチェーンとカードの選び方や、効果的なカード利用法など詳しいことはネットでお調べ下さい。

(2)ルームシェア
他の参加者と一緒に泊まるのも宿泊費削減法の1つです。アメリカのホテルの料金設定は「1人当たり」ではなく「1室当たり」なので、2人で同じ部屋に泊まれば宿泊費が半額になります。

私はフリーランス時代に、友人のフリーランス医薬通訳・翻訳者と毎回一緒に泊まっていましたが、どこのconference hotelでもチェックアウト時に宿泊費を割り勘にしてもらい、各々のクレジットカードで半額ずつ支払い、1人ずつ領収書を発行してもらうことは可能でした。気が合いそうな自費参加者がいたら、思い切って誘って一緒に泊まってみましょう。寝起きを共にすることで、有益な業界情報や深い友情など、嬉しい「おまけ」も得られるかもしれません。

4. その他
フリーランス・個人事業主の場合は節税のために、上記3つの費用以外の出費についても「領収書」を必ずもらっておくことをお薦めします。

例えば現地の空港・ホテル間の移動費用(例:シャトルバスやタクシーの乗車代)は「交通費」として経費に計上できるので、料金の支払い時に領収書をもらっておきましょう。

また、現地では1人での食事は出来るだけ避け、(たとえファストフードでも)他の参加者らと一緒に食べて領収書をもらっておきましょう。仕事の関係者(同業者やクライアントなど)との会食代は「接待交際費」として経費に計上できます。

現金で支払ったドル建ての領収書は、支払日の為替レートで日本円に換算すれば経費処理が可能です。カード払いの場合は必ずカード伝票をもらい、後日届くカード利用明細書で日本円に換算されている金額で処理し、カード利用明細書も証拠として保存しておきます。

このような工夫をすれば、多少なりとも節税が可能です。経費計上の可否や処理方法など詳しいことは税理士にご確認下さい。

 

ここまでしてAMWA年次総会に参加したいという方はまれかもしれませんが、経済的な理由で参加を諦めている方の背中を少しでも押したくて、私のAMWA経費削減法を公開しました。

特に、有望な若手メディカルライター・医薬翻訳者の方に1人でも多くAMWAで学んで頂き、今後のメディカルライティング業界や医薬翻訳業界を牽引して頂きたいと願っています。日本からのAMWA参加者は年齢が高めですが、「先行投資」は早いほうが、投資したお金と時間と労力を回収しやすいですから、「いつかAMWAに行ってみたい!」と考えている若手の方には、本ブログを参考に1日も早くAMWA年次総会参加を実現して頂ければ幸いです。

「内山先生は元お医者さんでお金持ちだから、頻繁にAMWAに行ける」とよく誤解されますが、大学病院の月給は手取り8万円弱でしたし、医薬翻訳は儲かる仕事ではないので、全然お金持ちではありません。上記の経費削減法を今も実行しながら、どうにかAMWAでの勉強を続けています。「Where there is a will, there is a way.」(為せば成る)です。本気でやりたいことは諦めず、「強い意志」と「賢い知恵」を持って実現・継続させましょう!

 

【まとめ】

  • 総会参加費は、現時点では早期割引を利用する以外に削減法なし。
  • 渡航費と宿泊費は、航空会社のマイルやホテルのポイントを利用すれば無料化や削減が可能。両方ゼロにすれば、総会参加費のみでの年次総会参加が可能
  • フリーランスの場合、現地での支払い時に領収書をもらい、経費に計上すれば節税可能。

参考ページ
AMWA年次総会参加ガイド1:申込~出発後の注意点10個 【初参加でも安心】

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AMWA総会参加ガイド1:申込~出発後の注意点10個 【初参加でも安心】

今年も米国メディカルライター協会(AMWA)年次総会に参加するか否かが話題に上る時期になり、知り合いのメディカルライター数人がすでに「申し込んだ」とおっしゃっていました。私も申し込みましたが、毎年、初参加の方から申込・参加の注意点やコツを聞かれるので、AMWA年次総会の参加に関するアドバイスを、3段階(参加申込、出発前の準備、出発後)に分けて以下にまとめました。年次総会の基本情報はAMWAホームページの「Annual Conference」サイトをご覧下さい。

【参加申込】

1. まず宿の確保

年次総会の参加申込の前に、まずホテルを予約することをお薦めします。毎年、年次総会の会場として利用されるホテル、もしくは会場となるコンベンションセンターに隣接するホテルが「conference hotel」として指定され、AMWA参加者は割引料金で泊まれます。このホテルに泊まるのが便利ですし、日本人参加者の多くが泊まっていて安心です。

しかし、AMWAが確保している部屋数は限られているので、予約が一杯になってしまうことがしばしばあります。その場合、会場周辺の別のホテルも「conference hotel」として追加指定されることがありますが、会場から徒歩数分~10分ほど離れていることもあります。

また、追加の「conference hotel」が用意されない年もあり、その場合は自分でホテルを探すことになります。しかし、ビジネスシティの秋は大きなイベントや学会などの開催が多いので、AMWA年次総会開催間近にホテルを予約しようとしても、会場周辺は軒並み満室だったり、宿泊料が高騰していたりすることが多いです。

ホテルの予約変更・キャンセルはチェックインの1~7日前まで無料で可能な場合が多いので、AMWA年次総会に参加する可能性が出て来たら、とりあえず「conference hotel」の部屋を予約しておくと安心でしょう。予約の時点で宿泊日数が決まっていない場合は、念のため長めに予約しておき、必要に応じて後日調整するのが得策です。

2. ワークショップの申込は早めに
長年定番のワークショップや有名講師のワークショップは人気が高く、早々に申し込みが定員に達して、受付が締め切られることも珍しくありません。お目当てのワークショップがある場合は早めに申し込むと良いでしょう。受付状況はAMWAサイトの年次総会申込ページで確認できます。

3. Golden Apple賞を受賞した講師がお薦め

どのワークショップを選べば良いか迷ったら、教え方が上手な講師のワークショップを選ぶのも1つの手です。その際に参考になるのが、「Golden Apple賞」(Golden Apple Award)の受賞の有無です。「Golden Apple賞」とは、各ワークショップの受講者全員を対象に毎年行われるアンケート調査の結果、高い評価を長年得ている講師に与えられる賞で、授与される講師は毎年1人だけです。日本でも有名なTom Lang氏らが過去に受賞しています。

年次総会の申込プログラム(registration brochure)やワークショップのリストを見て、講師名に金色のリンゴのマークが付いていたら、その講師は「Golden Apple賞」を受賞しています。プログラムやリストにマークが表示されていない年もあるので、その場合はAMWAホームページのこちらで過去の受賞者をご確認下さい。

【出発前の準備】

1. ワークショップ事前課題提出後の確認

ワークショップには必ず事前課題(assignment/homework)があります。certificate取得に必要な単位を取得するには、事前課題の解答を締切までに提出しなければなりません。メールで講師に提出するのが通例ですが、先方のサーバーにブロックされてメールが戻って来たり、迷惑メールのフォルダに振り分けられて講師が気付かなかったりすることがあります。念のため、事前課題の解答提出時に講師に受領確認の返信を要請すると良いでしょう。

通例、数日以内に講師から返信が来ますが、返信がない場合は講師に再度メールを送ってみましょう。それでも返信がない場合は、AMWA事務局にメールで問い合わせることをお薦めします。AMWA事務局は、アメリカでは珍しく対応が速くて親切なので、わからないことやトラブルなどがあった場合は事務局に問い合わせてみて下さい。いずれにしても、ワークショップの単位を取得できないと勿体ないですから、メールなどのトラブルに備えて早めに事前課題の解答を提出するのが無難でしょう。

2. ワークショップ配布資料の受領
AMWAの経費削減のためか、ワークショップの配布資料(handout)が会場で提供されないことが多くなりました。通例、年次総会の数日前に、指定のサイトからダウンロードするよう指示が書かれたメールが届くので、メールを見逃して配布資料の準備を忘れないよう気を付けましょう。日本を発つ前に印刷して持って行けば、宿泊先や会場で慌てなくて済みます。なお、ワークショップにラップトップやタブレットなどを持ち込む場合は、配布資料を印刷せずに電子媒体で持参・参照することも可能です。

3. 英語の自己紹介
ワークショップやmeal event、ホテルなどで外国人参加者らに自己紹介しなければならない機会が結構あるので、予め英語で自己紹介を考えて、スラスラ言えるように練習しておくと安心です。名前と職種を2~3文で簡潔に説明できると良いでしょう。例えば「I’m Taro Suzuki from Japan. I do regulatory writing at a pharmaceutical company in Tokyo.」や、「I’m Hanako Sato from Japan. I’m a freelance medical translator.」のような感じです。名刺をたくさん持って行くこともお忘れなく!

4. 服装

年次総会のドレスコードは「ビジネスカジュアル(スマートカジュアル)」なので、服装がラフになり過ぎないように気を付けましょう。

また、開催地・開催時期を問わず、会場は寒いことが多いので暖かい服装を持って行くことをお薦めします。ちなみに私はスカートでは足が冷えるので、いつもパンツスーツで出席しています。それでも会場は寒くて、ボトムの下にタイツを履いたり、ストールを膝掛けにしたり、ジャケットの下にカーディガンやセーターを着たりします。他の日本人参加者も薄手のダウンジャケットやカイロを持参するなど、会場の防寒対策をしている方が多いです(特に女性)。せっかく年次総会に参加しても寒くて講義に集中できないと勿体ないですから、温度調節しやすい服装をご準備下さい。

【出発後】

1. アメリカ国内の時差に注意

アメリカ本土には4つの時間帯がある上に、時期や州によっては「夏時間」が採用されているので、日本からAMWA開催地に直行しない場合は経由地の時間帯や、経由地と開催地との時差、「夏時間」の有無に注意が必要です。「夏時間」は11月上旬に終わるので、年次総会が11月上旬に開催される場合は「夏時間」の終了日にも要注意です。時間を間違えて、飛行機の経由地で乗継便に乗り遅れたり、開催地で初日の基調講演やワークショップなどに遅れたりする日本人参加者が時々いらっしゃいます。ワークショップは遅刻すると入室できず単位を貰えないので、開催地に着いたら現地時刻を必ず確認しましょう

2. オリエンテーション
例年、会期初日か2日目に、初参加者を対象にオリエンテーション(無料)が開催されるので、事前にプログラムで日時を確認して参加することをお薦めします。

3. Meal event

会期中にレセプションやSablack luncheon/dinnerなどの「meal event」が開催され、追加料金なしで参加できるeventが年々増えています。日本人参加者で集まって同じテーブルを囲むことが多いので、英会話に自信のない方も怖がらずに参加して、各イベント会場で日本人参加者を探してみて下さい。

また、AMWAのmeal eventとは別に、日本人参加者のみで独自に「食事会」が開催されて親睦を図っています。通例、常連の参加者が幹事となり、金曜または土曜の夜に開催されています。AMWA開催地に到着してから幹事が日時とお店を決めて、メールで他の参加者に知らせることが多いので、事前に常連参加者にAMWA参加の旨とメールアドレスを伝えておくか、AMWA会場で日本人参加者を見つけて尋ねると良いでしょう。

日本人参加者については、AMWA開催数日前に事務局から送られてくるメールのリンク先にある「Attendee list」(参加者名簿)で確認できます。日本からの参加人数は毎年十数名です。会期中はワークショップの休憩時間(beverage break)などに、無料の飲み物が用意されている部屋(hospitality roomやresource hallなど)に行くと、日本人参加者に会える確率が高いです。多くの日本人が1人参加のため、「食事会」以外でも数人で昼食や夕食に出掛けたりすることが多いので、AMWA初参加で心細い方は早めに日本人参加者を見つけて、積極的に声を掛けると良いでしょう。

【その他】

海外出張・旅行に慣れていない方や初めて渡米される方は、アメリカ旅行時の基本的な注意事項を旅行ガイドブックなどでご確認下さい。また、同僚やお知り合いに過去のAMWA参加者がいらっしゃる場合は、移動時の注意点やAMWAの様子などをお聞きになってみて下さい。

以上、初めてのAMWA参加でも実り多い経験ができるよう、少しでもお役に立てば幸いです。ご質問や追加事項などありましたら、コメント欄にお書き頂くか、お問い合わせフォームからご連絡下さい。

AMWA年次総会参加ガイド第2弾では、自費で参加する方のために、出来るだけお金を掛けずに参加する方法を紹介します。

次回
AMWA年次総会参加ガイド2:自費参加者必見!航空券・ホテル代ゼロで参加する方法

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製薬業界のメディカルライター必見!EMWAとAMWAがCSRマニュアル『CORE Reference』を共同作成中

前回のブログに書いた第75回米国メディカルライター協会(AMWA)年次総会の参加報告の続きですが、新たなオープン・セッションで人気・評価ともに高かったのは、治験総括報告書(CSR)の作成に関するICH E3ガイドラインに基づく「CORE Reference」の説明会でした。

「CORE」は「Clarity and Openness in Reporting: E3-based」の頭文字です。そして「CORE Reference」は、欧州メディカルライター協会(EMWA)の経験豊富なレギュラトリーライターらが2014年5月に結成したBudapest Working Group(BWG)が、AMWAと共同で作成中のCSR作成マニュアルです。

「CORE Reference」作成の主な理由としては、E3ガイドラインの曖昧な点を明確にする必要があること、欧米で急速に進む治験データの公開に適したCSRの作成が急務であることなどがオープン・セッションで挙げられていました。

ICH E3ガイドラインが発表されて20年が経ち、様々な問題点が指摘されているにも関わらず、ICHがE3ガイドラインを改訂する気配がないことに、欧米のレギュラトリーライターたちがしびれを切らしたのかもしれません。実は、E3ガイドライン改訂の噂は何年も前からあり、AMWAの会員数名も改訂メンバーに加わっていることがAMWAで度々話題に上っていました。しかし、BWGは昨年5月にEMWA会員を中心に結成され、その後AMWAと提携したとのことなので、E3ガイドライン改訂の動きとは別のようです。

BWGはICH E3ガイドラインを見直し、補足事項や推奨事項などを追記した「CORE Reference」の草案を作成済みで、草案のレビューは日米欧の各規制当局にも依頼しているそうです。当局の「お墨付き」となれば、「CORE Reference」の信頼性は高く、多くの製薬企業・CROが利用するにようになるのではないかと思います。

また、BWGは、CSRの礎となる治験実施計画書(プロトコル)の作成についても、ICH E6ガイドラインに基づくマニュアルを同時に作成中で、「CORE Reference」に含まれるとのことです。そうなると、CSRの作成を見据えて、CSRとの整合性を図ったプロトコルを作りやすくなるかもしれません。

「CORE Reference」の目的や進捗状況などの詳細は下記の各リンク先をご覧下さい。
・BWGのプレスリリース
http://www.emwa.org/Documents/CORE%20Press%20Release-28jan15_final.pdf
・BWGが2014年に『Medical Writing』誌に発表した論文
http://www.maneyonline.com/doi/full/10.1179/2047480614Z.000000000254
・BWGがAMWAのオープン・セッションで使用したスライド
http://www.amwa.org/files/Events/AC2015/2015BudapestWorkingGroup.pdf

BWGの今後の予定としては、今年12月に第2弾の論文を『Medical Writing』誌に発表し、2016年半ばに「CORE Reference」を公式サイトで無料公開するとのことです。CSRやプロトコルの作成・翻訳に携わる方は要チェックですね。

参照ページ
「CORE Reference」公式サイト
CSRマニュアル「CORE Reference」を読む3つのメリット(2016年AMWA年次総会の参加報告)

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有害事象の叙述を英語で書く(2015年AMWA総会の参加報告)

今年も米国メディカルライター協会(AMWA)年次総会に参加して来ましたので、早速報告いたします。今年の総会は10月1~3日にテキサス州サンアントニオで開催され、創立75周年を祝う記念の会でした。アメリカには75年以上も前からメディカルライティングの概念が存在していたとは驚くばかりです。

日本からの参加者は例年より少なく15名弱でしたが、アメリカ駐在の日本人会員の方も数名参加なさっていました。内訳は、国内製薬企業のメディカルライターや翻訳者の方が大部分を占めていましたが、フリーランス医薬翻訳者の方もいらっしゃいました。また、今年は初参加の日本人会員が多く、私のように長年参加している会員との二極化が特徴的でした。会期中には、恒例の日本人参加者中心の夕食会を開催し、今年も親睦を深めながら有益な情報交換を行うことができました。

AMWA年次総会は多種多様な「ワークショップ(総会参加費とは別料金・事前申込必要。修了単位取得可)と「オープン・セッション(追加料金・事前申込不要。修了単位付与なし)が特徴的で、今年も新たなワークショップとオープン・セッションがいろいろ追加されて目移りしました。

今年初めて開催されたワークショップの1つは、治験総括報告書(CSR)の「有害事象(AE)の叙述(narrative)」の書き方でした。叙述は、「narrative writing」という特殊なスキルと臨床知識が必要であり、CSRの中でもライティングや翻訳が難しいセクションなので、これまで叙述のワークショップがなかったのが不思議なくらいです。

日本からの参加者のうち、私も含めて5名がこのワークショップに出席しており、英語の叙述の書き方を学ぶニーズの高さと、国内で学べる機会や教材の少なさを示唆しているように思いました。これは国内の英文MW教育の課題の1つと言えるでしょう。

本ワークショップは初開催のせいか、内容は初心者向けで、ICH E3ガイドラインで推奨されている叙述の記載項目など、基本的な事柄から講義は始まりました。終盤では、短い叙述例を複数使って各例の書き方の問題点と改善法を学び、テンプレートの例も提示され、実践的な内容になっていました。

一昨年のAMWA参加報告に書いたとおり、欧米では叙述作成を自動化している製薬企業・CROが増えていますが、AMWAの年次総会で叙述の書き方のワークショップが新たに設けられたということは、依然として人間によるライティングやチェックが欠かせないからだと思われます。ワークショップの講師も「叙述では症例ごとに当該有害事象に関連のある症状や臨床検査データ等のみを適切に選んで書くことが重要」と強調していたので、治験や臨床等の専門知識と経験を十分兼ね備えたメディカルライターやreviewerの判断力に負うところが、やはり大きいのではないかと思いました。

しかし、ワークショップの講師によると、有害事象や副作用の「narrative writing」に関する本はないそうですし、叙述関連のガイドラインはICH E3ガイドラインと、FDA CFR Title 21中のSection 312.32「IND Safety Reporting」の2つのみとのことです。
http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfcfr/CFRSearch.cfm?fr=312.32)。(ICH E2B(R2)~(R3)ガイドラインも叙述の参考になると思います)

したがって、有害事象の叙述や副作用報告書の英文ライティング・英訳に携わる方々は、これらのガイドラインすべてに目を通しておくだけでなく、英語で書かれた症例報告をインターネットで多読したり、拙著『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』シリーズ第3巻(臨床経過の書き方)を読んだり、『Targeted Regulatory Writing Techniques: Clinical Documents for Drugs and Biologics』に掲載されている有害事象の叙述例(94頁)を参照したりして、英語の「narrative writing」の知識とテクニックを学ぶと良いと思います。

AMWA年次総会のオープン・セッションについては、次回ご報告します。

参考:過去のAMWA年次総会参加報告
・第69回(2009年)年次総会(http://www.jmca-npo.org/link/201001.html
・第73回(2013年)年次総会(http://www.clinos.com/blog/?m=201312

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AMWAの英文メディカルライティング自学教材

本ブログの記念すべき第1回「英文メディカルライティング通信講座」で、米国メディカルライター協会(American Medical Writers Association:AMWA)の自習教材シリーズ「Self-Study Modules」をご紹介しましたが、この教材を利用なさるメディカルライターや医薬翻訳者が国内で増えています。まだ利用なさっていない方は、今年限定の割引キャンペーンでお得に入手して、AMWAの修了証(certificate)を取得してみてはいかがでしょう?
(追記:その後も割引キャンペーンが時々実施されているので、購入を検討している方はAMWAのサイトを時々チェックしてみて下さい)

「Self-Study Modules」をご存知ない方のために簡単にご説明しますと、AMWAの各専門領域の修了証を取得する上で必修となっている基礎コース「Essential Skills Workshops」の中でも、長年好評で定番となっている7つのワークショップを厳選して、個人学習用に書籍化したものが「Self-Study Modules」です。AMWAではすべてのワークショップで受講者のアンケート調査(evaluation)を実施しており、一定の質を満たすワークショップしか生き残れないシステムになっているので、長年続いているワークショップは質が高いという特徴があります。

「Self-Study Modules」ができるまで、「Essential Skills」の修了証を取得するには、AMWA年次総会開催時などに渡米してワークショップに出席し、規定の単位を取得する必要があり、年単位の時間と数十万円の費用が掛かりました。しかし、現在は自宅や会社で「Self-Study Modules」を購入して学び、各モジュールに付属のテストに合格すれば、ワークショップに出席しなくても「Essential Skills」の修了証取得が可能です。そのため、国内の製薬企業やフリーランスなどで利用する方が増えています。

「Self-Study Modules」の値段は、1つのモジュール当たり$250(非会員)または$155~199(会員)で、モジュールごとに購入できますが、7つのモジュールをまとめた「Essential Skills Package」なら、$1,250(非会員)または$950(会員)で購入できるのでお得です。しかも、今年はAMWA創立75周年を記念して、「Essential Skills Package」の会員価格が$750という割引キャンペーンが実施されており、さらにお得に購入できます。
(追記1:その後も割引キャンペーンが時々実施されているので、購入を検討している方はAMWAのサイトを時々チェックしてみて下さい)
(追記2:「Essential Skills Package」のオンライン版ができました!価格が書籍版より安い上に、送料不要なのでお得です)

それでも「$750は高い」と感じる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、国内で医薬翻訳・治験翻訳の英訳コースなどを受講するより、内容も学習法も確かな「Self-Study Modules」で英文メディカルライティングの基礎を学ぶほうが速く確実にスキルアップできるので、経済的にも時間的にも効率が良いと思います。

なぜなら、国内の医薬英訳コースなどは質が高いものが少ないからです。優秀な医薬英訳者や日本人英文メディカルライターは一握りしかいませんから、医薬英訳や英文メディカルライティングの優秀な講師は極めて少ないのが現状です。高い授業料を払っても、英文メディカルライティングや医薬英訳のスキルが低い日本人講師から間違った事柄を習い、悪いクセが付いてしまったら本末転倒です。しかも、一旦悪いクセが付くと、それを直すには多大な時間と労力が必要になり苦労します。

したがって、教育経験も豊富な一流のアメリカ人メディカルライターたちが作り、ネイティブのメディカルライターからも高い評価を受けている教材を使って、最初から質の高い教育を受けるほうが得策だと思います。各モジュールのテキストはよく出来ているので、学習後の実務でも参考書として繰り返し利用できます。

「Self-Study Modules」のメリットはこれだけではありません。例えばAMWAの修了証を取得すれば、就職・転職や翻訳会社への登録などで有利になるでしょう。前述のとおり、国内では優秀な医薬英訳者や英文メディカルライターが非常に少ないので、多くの翻訳会社や製薬企業・CROなどが優秀な人材を探しています。しかし、国内に数多く存在する翻訳学校や医薬翻訳検定を知っている求人担当者は少ないので、メディカルライターや医薬翻訳者が履歴書に医薬翻訳講座の受講歴や医薬翻訳検定を書いても、「ふ~ん」程度の反応しか得られない可能性が高いです。

一方、AMWAは今や国内でもメディカルライティング業界や医薬翻訳業界で広く知られているので、履歴書にAMWAの修了証取得を書くほうが、英文ライティングのスキルを求人担当者にアピールできると思います。

【まとめ】
AMWAの「Self-Study Modules」には、医薬翻訳・治験翻訳の英訳コースなどにはないメリットが複数ありますので、世界に通用する正確かつ適切な英文メディカルライティング・英訳の習得やキャリアアップへの近道として、「Essential Skills Package」の利用を検討なさってみてはいかがでしょうか?詳しいことはAMWAのホームページ(http://www.amwa.org)をご覧下さい。

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有害事象の叙述の自動作成と治験報告書の公開(2013年AMWA総会の参加報告)

私は1996年に米国メディカルライター協会(AMWA)に入会して以来、ほぼ毎年、年次総会(annual conference)に参加して英文メディカルライティングの学習を重ねていて、今年も勉強に行って来ました。今年の年次総会は11月6~9日にオハイオ州コロンバスで開催され、総会全体の参加者は例年よりやや少なかったものの、昨年までほとんど見掛けなかったインド人参加者を会場のあちこちで見掛けました。メディカルライティングの世界でもインド企業の台頭が著しいようです。

日本からは今年も20名近くの方が参加なさっていました。国内製薬企業のメディカルライターや翻訳者の方々が中心ですが、今年はその人数が少し減り、翻訳会社やメディカルライティング会社などからの参加者が増えました。フリーランス医薬翻訳者の方がお1人参加されていたのは珍しく、大変喜ばしいことでした。また、米国在住のネイティブ医薬英訳者の方も数名参加されていたので、会期最終日恒例の日本人参加者の夕食会にお誘いするなどして、親睦を深めることができました。

AMWA年次総会は多種多様な「ワークショップ」(総会参加費とは別料金・事前申込必要。修了単位取得可)と「オープン・セッション」(追加料金・事前申込不要。修了単位付与なし)が特徴的で、その種類も数も年々増え続けているため、今年も興味を惹かれるものが多く、開催日時が重なると、どれに参加するか迷うほどでした。そこでオープン・セッションは、苦肉の策として1つの前半だけ聞いて、途中から別のオープン・セッションに「はしご」した日もありました。そのようにして受講した中で、皆様のご参考になりそうなオープン・セッションの内容を2つご報告いたします。

最も印象的だったのは、治験総括報告書の「重篤な有害事象(SAE)の叙述(narrative)」の自動作成です。これは、「Medical Writer IT Tools and Techniques」というオープン・セッションの中で、自動化(automation)の1例として紹介されました。

日本ではまだ少ないかもしれませんが、欧米ではSAEの叙述を自動作成する製薬企業・CROが増えているようで、私は今年前半にAMWA会員専用メーリングリスト(現AMWA Online Forums)で、叙述の自動作成に関する投稿を見て初めて知って驚くとともに、どのように自動化しているのか興味を抱いていました。

オープン・セッションでは、プレゼンター(インドのIT企業社員)が「1症例当たりわずか11秒で叙述を自動的に作成可能」と言ってデモンストレーションを披露し、本当に1症例10秒ほどでMSWord数頁分の叙述が表形式で作成されました。被験者番号・性別・年齢から投与群、併用薬の一覧表、臨床検査値の推移の一覧表、臨床経過まですべて含まれていたので、人間が書かなければならない箇所はありませんでした。こうなると、今後はメディカルライターや医薬翻訳者が英文叙述のスキルを学ぶ必要がなくなるかもしれません。

しかし、今年前半のAMWA会員専用メーリングリストでは、自動化による叙述の品質低下を懸念・指摘する投稿が複数ありました。例えば臨床的に重要な所見・経過が叙述から漏れていたり、逆にあまり必要のない所見・経過が拾い上げられていたりすることがあるそうです。そのため、投稿者たちの結論は「叙述を自動作成しても、臨床知識を持つ医師などによるチェックが欠かせない」という点で一致していたことも申し添えておきます。昨今の製薬企業・CROや翻訳会社の行き過ぎた、もしくは不適切な省力化や経費削減などにより、薬剤の安全性が損なわれて患者にしわ寄せが行かないことを願うばかりです。

次に、「How to Write a Manuscript from a Clinical Study Report」というオープン・セッションでは、ヨーロッパで申請資料の部分開示が始まっており、アメリカでは治験総括報告書を自社サイトで公開し始めた製薬企業があるという話がありました。英文ライティングや和文英訳の参考となる英語の治験関連文書が誰でも簡単に入手できるようになるのは、日本のメディカルライターや医薬英訳者には有難いことで、今後作成する英語文書の品質向上に大いに役立てたいところです。

ちなみに日本の審査報告書は、以前からPMDAのサイトで公開されていて、英語ページでは英訳版も公開されているので、日本語オリジナル・英訳版ともにすでに参考になさっているメディカルライターや医薬翻訳者の方も多いことと思います。(なお、英訳版が正確かつ適切な英語で書かれているとは限りませんので、参考程度に留めるのが賢明です。欧米の治験関連文書の英語も盲信せず、「英借文」する前に英語の質の良し悪しを正しく見極めるとともに、文脈に合わせて適宜アレンジすることをお勧めします)

このような開示傾向は医薬品開発や企業の透明性を高める上でも喜ばしいことですが、その一方で翻訳者は「治験関連文書は翻訳依頼者の機密文書で、部外者は見られないから、どのように訳すべきかわからない」などの言い訳が通用しなくなり、翻訳依頼者から求められる翻訳レベルが一層高くなることが予想されますので、さらなる情報収集能力(特にネットのリサーチ能力)と勉強が必要になると思います。

以上、少しでもご参考になれば幸いです。AMWAやEMWAの年次総会にご興味をお持ちの方は、思い切って一度参加なさってみて下さい。日本では受けられない刺激や学べないスキルを得られるので費用対効果が高く、リスクの低い先行投資だと思います。総会参加が難しい方は会員専用の掲示板を読んだり、自己学習ツールを利用したりするなどして、英文メディカルライティング・英訳や欧米の最新事情などを学ぶと良いでしょう。

※私が書いた第69回AMWA年次総会参加報告が日本メディカルライター協会(JMCA)のサイトに掲載されています。AMWAやEMWAにご興味をお持ちの方は併せてご覧下さい。
http://www.jmca-npo.org/link/201001.html

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