英語論文では翻訳者らへの謝辞が必要

今回も、今年4月25日に日本メディカルライター協会(JMCA)主催のセミナー「国際的な医学雑誌への論文アクセプトのための戦略」に参加した話の続きで、英文MWや論文執筆・英訳に携わる方々にぜひお伝えしたい内容2つのうち2番目をご報告します。

【貢献者への謝辞を忘れずに!】

ご存知のとおり、医学論文に関する国際的ガイドラインには様々なものが存在します。代表的なものとして、ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors)の統一投稿規定「Uniform Requirements for Manuscripts」が挙げられますが、名称が「Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Publication of Scholarly Work in Medical Journals」に変更され、今年8月に更新されました(http://www.icmje.org/)。

他には、製薬企業等から資金提供を受けた医学研究の論文発表に関するガイドライン「Good Publication Practice for Communicating Company-Sponsored Medical Research」の第2版(GPP2ガイドライン)が2009年にBMJオンライン版で発表されています(http://www.bmj.com/content/339/bmj.b4330.long)。

英語論文の作成に携わるメディカルライターや翻訳者・校閲者は、これらのガイドラインに精通している必要があります。論文関連ガイドラインをまとめてお知りになりたい方には、EQUATOR Networkのサイトが便利です(http://www.equator-network.org/)。これらのガイドラインやサイトは、4月のJMCAサロンでも紹介されていました。

上記のガイドラインなどでは、論文著者の資格・条件(authorship)が明確に規定されており、その条件に満たない貢献者は「謝辞」(Acknowledgements)のセクションに記載すること(contributorship statement)が求められています。貢献者にはメディカルライターや翻訳者、英文校閲者などが含まれます。

私は知り合いの医師らから論文の和文英訳や英文校閲を依頼されると、「謝辞」に翻訳者などの名前を記載するよう、十年以上前から助言しています。なぜなら、多くの日本人医師・研究者は論文関連の国際的なガイドラインを知らず、論文作成の貢献者を「謝辞」に書くという国際的なルールを知らないからです。

記載の理由を説明すると、筆頭著者の若い医師らは快諾してくれることが多いですが、大抵その後、指導医や教授などによるチェックの際に「謝辞」から削除されてしまいます。教授と言えども、論文の国際的なガイドラインやルールは知らない場合が多いからだと思います。

日本人著者が貢献者を「謝辞」に書かない理由はこれだけではありません。日本人医師・研究者の多くは、翻訳者やネイティブチェッカーの力を借りたことを「謝辞」に書くと、「自分の英語力が低いことが露呈してしまうのではないか」と恐れているからです。

また、欧米では英語ネイティブの医師・研究者でさえ、メディカルライターらの協力を得て論文を作成・投稿していることは、日本では依然としてあまり知られていないため、自分で論文を書かないことは「恥ずかしい」という考え方が根強いからです。実際、「英語の論文くらい自分で書けなくてどうする!俺が若い頃は・・・」などと中高年医師に叱られ、クリノスに助けを求めて来られる若手医師が後を絶ちません。

ところが、多くの日本人医師・研究者が持つ古い考えとは逆に、貢献者を「謝辞」に書くことには複数のメリットがあります。例えばプロのメディカルライターやパブマネに手伝ってもらったことを書けば、関連ガイドラインに従って国際的に通用する論文を作成したことを査読者や投稿先の編集者らに印象付けることができます。

また、プロの医薬翻訳者に英訳を頼んだことや、ネイティブチェッカーに英文を校閲してもらったことを書けば、論文の英語の質が悪くないことを査読者や編集者らにそれとなく伝えることができ、「ネイティブに英語をチェックしてもらうように」と門前払いされるリスクが減ります。したがって、「謝辞」に論文作成の貢献者を書かないのは、むしろ勿体ないことなのです。このような点からも、貢献者の記載を著者に勧めています。

JMCAサロンのQ&Aセッションでは、Woolley教授に、このような日本独特の問題が存在することを説明し、意見を伺ったところ、やはりメディカルライターや翻訳者、英文校閲者などの貢献者は「謝辞」に書くべきであり、そのためには医師や研究者に対する英語論文作成の「教育」が重要だとおっしゃっていました。

医師・研究者が翻訳会社などに論文の和文英訳や英文校閲を外注した場合は、誰が翻訳・校閲したのかわからないことが多いですが、外注先の社名を「謝辞」に書くようにしましょう。翻訳者や校閲者がわかる場合は、貢献者の氏名(+所属先)を書きましょう。

一方、英語論文の作成に携わる翻訳者・校閲者は、「謝辞」に名前が載るほど責任ある仕事を任されていることを自覚し、それに値する実力のない翻訳者・校閲者は論文英訳・校閲の受注を慎むべきだと思います。英語論文の書き方を知らないどころか、日本語の医学論文さえ読んだことのない駆け出しの翻訳者が、論文の和文英訳を引き受けるなど言語道断です。そのような翻訳者に論文の英訳を発注する翻訳会社やCROなども再考が必要だと思います。

前回のブログでご紹介した「剽窃」の問題などもあり、単に日本語を英語に置き換えただけでは、海外の医学雑誌に論文を投稿しても受理されにくい時代になっていますので、英語論文の作成を依頼する側も引き受ける側も、意識改革と日々の学習が必要と言えるでしょう。

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One thought on “英語論文では翻訳者らへの謝辞が必要

  1. はじめまして。フリー医薬翻訳者です。いつも先生の著書やご講義で勉強させていただいております。

    医学論文を自分の得意分野にしたいと思っており、前々回からのブログを特に興味深く読ませていただきました。厳しい執筆ガイドあり、剽窃の問題あり…医学論文は医薬翻訳者のスキルのすべてがむき出しにされることがよくわかりました。怖いです(笑)。

    特に剽窃の問題は知ってよかったです(前回ブログでご紹介いただいた本を読みました)。ネットでの文例検索は翻訳の協力な武器ですが、剽窃の危険性を常に意識しなければいけませんね。。目指すのは自分の言葉で書けることですが、そのためには、ネイティブの英語を読み込んで自分のものにするという地道な作業が必要、ということでしょうか(非ネイティブには)。これはつまり、先生にすすめていただいた学習法に通じる、と思いました。

    今後も身が引き締まるご投稿を期待しております!

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