【CORE Reference Newsとは】
治験総括報告書(CSR)のユーザーマニュアル『CORE Reference』を作成・公開している欧米のメディカルライターらから成るCORE Reference Teamが、無料配信しているニュースレター(英語)。メディカルライティングなどに役立つ医薬業界情報を欧米・アジアなどから集めて月1~2回配信。
※本ブログ記事は、クリノスがCORE Reference Teamの許諾を得て参考用として日本語に翻訳したものです。正確な内容や解釈は英語原文と各ニュース中のリンク先でご確認下さい。本ブログ記事の無断転載・転用は堅く禁止いたします。
【略語リスト】(アルファベット順)
- CDER:Center for Drug Evaluation and Research(米国医薬品評価研究センター)
- CIOMS:Council for International Organizations of Medical Sciences(国際医学団体協議会)
- CTIS:Clinical Trials Information System(臨床試験情報システム)
- CTR:Clinical Trials Regulation(臨床試験規則)
- EMA:European Medicines Agency(欧州医薬品庁)
- EU/EEA:European Union/European Economic Area(欧州連合/欧州経済領域)
- EudraCT:European Union Drug Regulating Authorities Clinical Trials
- FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
- HMA:Heads of Medicines Agencies(欧州医薬品規制当局首脳会議)
- ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)
- MHRA:Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(英国医薬品医療製品規制庁)
- RWD:real-world data(リアルワールドデータ)
- RWE:real-world evidence(リアルワールドエビデンス)
1. CORE Reference Teamからのお知らせ
欧州メディカルライター協会(EMWA)の第57回総会が2024年5月7~11日にスペインで開催され、CORE Reference Teamは同会でオープンセッションを開催しましたが、当日参加できなかった方々のために、英国時間の6月7日11:30~13:00(日本時間6月8日土曜12:30~14:00)にEMWAウェビナーを開催し、オープンセッションと同じ内容をお伝えします。
本ウェビナーでは、EMA Policy 0070(臨床試験データ公開)の試験結果提出タイムラインの実例や、Policy 0070の新たなAnonymisation Report(匿名化報告書)テンプレートの詳細なレビューなど、有用なリソースや、規制当局への試験報告と情報公開に関する重要な最新情報をご紹介します。また、EUのCOMBINEプロジェクトや医療機器と医薬品との融合、2024年6月18日に予定されているCTISのリニューアルと改正透明性規則についても取り上げます。2023年12月に実施したCORE Reference 2023利用調査の最新情報もご紹介します。
現在EMWA会員でなくても、どなたでも本ウェビナーにご参加頂けますので、membership@emwa.orgまでお申し込みの上、ぜひご参加下さい。
2. ICH
2024年2月にFDAとカナダ保健省が共催したICH公開会議のビデオ録画が公開されました。この会議では、多種多様なICHガイドラインのうち、重要なマイルストーンに到達するガイドラインを複数取り上げ、FDA、カナダ保健省、製薬業界、バイオ業界の専門家らが各々プレゼンテーションを行っています。
3. EU CTRとCTIS
3.1 EMAのニュースレター「Clinical Trials Highlights」第19号(2024年4月)が発行されました。本号ではCTISの透明性、ACT-EU、CTISの進化、セミナー、イベントなどが取り上げられています。「Clinical Trials Highlights」のバックナンバーはアーカイブでご覧頂けます。
3.2 EMAのニュースレター「CTIS Newsflash」2024年5月3日号が発行されました。本号では、個別被験者データ(IPD)の共有計画のために追加されたCTISの新機能が詳説されています。CTISの新たな入力項目は、治験依頼者がIPDを他の研究者に提供するか否か、どのように提供するかについて情報を収集します。この入力項目により、治験依頼者はIPDをどのように共有する予定であるかについて、構造化された方法で記録できるようになりました。治験依頼者のCTISユーザーは、ICMJE(国際医学雑誌編集者委員会)の要件「Data Sharing Statements for Clinical Trials: A Requirement of the ICMJE」(臨床試験のデータ共有に関する声明:ICMJEの要件)を満たすために、IPD共有予定の有無についてドロップダウンリストから「Yes」か「No」を選ぶことが推奨されています。他のCTIS情報については5月3日号全文をご覧下さい。
3.3 EMAは「Quick guide: Transition of trials from EudraCT to CTIS (sponsor users)」(クイックガイド:EudraCTからCTISへの臨床試験の移行 [治験依頼者ユーザー用])の改訂版(バージョン1.4、2024年5月)を発表しました。今回の改訂は軽微な変更のみで、序文と移行試験の概要が若干更新された他、CTISの利用開始方法と臨床試験の移行方法の参照リンクが追加されました。
3.4 HMAのCTCG(Clinical Trials Coordination Group:臨床試験調整グループ)は「CTCG Best Practice Guide to sponsors: first substantial modification application Part I and/or Part II after CTR transition」(治験依頼者用のCTCGベストプラクティス・ガイド:CTR移行後の最初のsubstantial modification [SM] 申請Part I文書とPart II文書)のバージョン2.0を発表しました。
本ガイドでは、以下の3つの段階別に申請要件が表にまとめられています。(1)1つまたは複数のEU加盟国を試験実施国に追加する予定がある場合、(2)少なくとも1つのEU加盟国で被験者の募集または試験の治療を実施中である場合、(3)被験者募集や治療が完了しており、残りの試験手順が特定のフォローアップ介入に限定される場合。SM申請のPart I文書の内容変更が必要な場合は、本ガイドの表中の申請要件に従って改訂する必要があります。
3.5 2024年4月30日、EMAは治験依頼者支援用の資料「CTIS Structured data form instructions: initial application, additional MSC, substantial and non-substantial modifications」(CTIS構造化データフォームの記入方法:初回申請、実施加盟国追加申請、substantial modification [SM] 申請、non-SM申請)を発表しました。この資料は、初回申請、実施加盟国追加申請、SM申請、non-SM申請をCTISに提出する際に、治験依頼者が記入を求められるデータフィールドについて、詳細なガイダンスを提供しています。本資料はこちらからExcelファイルでダウンロード可能です。
3.6 RAPS(Regulatory Affairs Professionals Society:薬事専門家協会)の規制ニュースサイト「Regulatory Focus」にChris BamfordとCarolina Ariasが2023年11月に発表した記事「The EU Clinical Trials Regulation: Experiences from the first 18 months」(EU CTR:発効から1年半の経験)がオープンアクセスになり、ダウンロード可能です。
訳注)RAPS:医薬品や生物製剤、医療機器、デジタルヘルスなどの規制に携わる専門家の世界最大の組織。1976年に米国で設立され、国内外の規制当局やアカデミア、製薬・医療機器業界などの専門家により、レギュラトリーサイエンスの情報交換や教育を実施。
4. EUの規制
4.1 ACT EUは、臨床試験に関して、以下の2つの「Consolidated advice pilots」(総合的な助言提供のパイロット運用)を2024年第2四半期に開始します。(1)EUにおける販売承認申請および臨床試験申請(CTA)の提出をサポートするための調和のとれた科学的助言の提供、(2)CTIS提出前のCTA書類に関して、統合された技術・規制上の助言の提供。パイロット運用の詳細は、ACT EU公式サイトの「Scientific advice」ページで後日発表される予定です。
訳注)ACT EU(Accelerating Clinical Trials in the EU):欧州での臨床試験の開始・設計・実施方法を革新して、高品質で有効・安全な医薬品の開発を促進することや、臨床研究を医療制度へさらに組み込むことなどを目的として、欧州委員会とEMAとHMAの三者が共同で開始したイニチアチブ。
4.2 EMA、欧州疾病予防管理センター(ECDC)、欧州化学物質庁(ECHA)、欧州環境庁(EEA)、欧州食品安全局(EFSA)の5機関は、EUでのOne Healthアプローチの実践を支援するための連携強化に向けた共同の枠組みを発表しました。詳細はEMAのニュース記事「One Health: a joint framework for action published by five EU agencies」をご覧下さい。
訳注)One Healthアプローチ:ヒト、動物、環境(生態系)の3つの健康を一体(one health)とみなして包括的に考え、様々な分野の関係者が連携して、健康に対する脅威の防止・対処などを目指す取り組み。世界保健機関(WHO)などの国際組織が主導。
4.3 HMAのCTCG(Clinical Trials Coordination Group:臨床試験調整グループ)は、「Recommendations related to contraception and pregnancy testing in clinical trials」(臨床試験における避妊と妊娠検査に関する推奨事項)のバージョン1.2(2024年3月7日付)を発表しました。これは胚胎児のリスク軽減に関する既存のガイドラインを補足するもので、臨床試験における避妊薬の使用と妊娠検査に関して実践的なガイダンスを提示しています。CTCGは、国の機関で臨床試験の分類、評価、監視を行う専門家から成る作業部会です。
5. 英国とMHRAのニュース
5.1 MHRAは、人工知能(AI)活用の好機とリスクについて考察した政策文書「Impact of AI on the regulation of medical products」(医療製品の規制に対するAIの影響)を発表しました。これは、英国科学・イノベーション・技術省(DSIT)大臣と保健社会福祉省(DHSC)大臣からMHRAに宛てた書簡に対するMHRAの回答にもなっています。
5.2 英国は、MHRAに直接申請すべきヒト用医薬品の申請に関するガイダンス「Register to make submissions to the MHRA」(MHRAへの申請のための登録)を改正しました。
6. 米国FDAのガイダンスとニュース
6.1 FDAのCDERは、ニュースレター「What’s New In Regulatory Science」2024年第1号を発行しました。本号には、CDERの研究を始め、医療製品開発の進歩を支援するレギュラトリーサイエンスの取り組みについて、最新情報が掲載されています。購読を希望される方は登録用リンクをクリックして下さい(トピック分野は「regulatory science」を選択して下さい)。コメントや質問はOTSCommunications@fda.hhs.govで受け付けています。
6.2 米国国立医学図書館(NLM)は、2024年6月6日にウェビナー「Modernized ClinicalTrials.gov Update」(ClinicalTrials.gov近代化の最新情報)を開催します。本ウェビナーでは、臨床試験登録サイトClinicalTrials.govの改善の取り組みについて最新情報を提供します。また、ClinicalTrials.govの旧ウェブサイト(クラシック版)終了に備えて、参加者からの質問にサイトのスタッフが答える予定です。本ウェビナーへの参加を希望する方は、こちらで事前にお申し込み下さい。なお、当日参加できない方のためにビデオ録画が後日公開される予定です。
6.3 ClinicalTrials.govの旧ウェブサイト(クラシック版)は2024年6月25日に閉鎖されますので、ご利用者はご注意下さい。現在、旧サイトには、新サイトの利用を促すバナーが掲載されています。
6.4 2024年5月13日、FDAのCDER、米国国立衛生研究所(NIH)のNCATS(National Center for Advancing Translational Sciences:国立トランスレーショナル科学推進センター)、FDAを支援するReagan-Udall財団は共同で、公開ワークショップ「Natural History Studies and Registries in the Development of Rare Disease Treatments」(希少疾患の治療薬開発における自然歴研究およびレジストリ)を開催しました。本ワークショップでは、希少疾患の治療薬開発プログラムにおける自然歴研究とレジストリのデータ活用について議論されました。サマリーが発表された場合はお知らせします。
6.5 米国国立衛生研究所(NIH)とFDAは、「NIH-FDA Terminology for Clinical Research: Glossary of Terms and Definitions」(NIH-FDA臨床研究用語集:用語と定義)の草案を発表しました。この用語集案は、臨床研究に関する表現の統一に必要な共通の専門用語の確立を支援することにより、臨床研究コミュニティ内の意思疎通を促進することを目的として作成されました。リアルワールドエビデンス生成のためにリアルワールドデータを活用する臨床研究や、革新的な臨床試験デザインなどに関連する用語が収載されています。NIHとFDAは、用語集案に関するパブリックコメントをこちらで2024年6月24日まで募集しています。詳細は「Request for Information: FDA-NIH Resource on Terminology for Clinical Research」(情報提供のお願い:臨床研究用語に関するFDA-NIHリソース)をご覧下さい。質問はSciencePolicy@od.nih.govで受け付けています。
7. 欧州EMAのガイダンスとニュース
EMAは「Guide on access to unpublished documents」(非公開文書へのアクセスに関するガイド)の改訂版を発表しました。開示請求者1人当たりの提出可能な開示請求書の件数について、これまでEMAはコロナ禍に対応した事業継続計画(BCP)に基いて最大5件に制限していましたが、この制限を今回のガイド改正で撤廃しました。
8. リアルワールドデータ
8.1 EMAはリフレクションペーパー「Reflection Paper on use of real-world data non-interventional studies to generate real-world evidence」(リアルワールドエビデンス [RWE] を生成するための非介入研究でのリアルワールドデータ [RWD] の利用)を発表し、方法論の側面について論じています。パブリックコメントはこちらで2024年8月31日まで受け付けています。
8.2 TransCelerate社が2023年12月に発表したホワイトペーパー「Assuring Audit and Inspection Readiness: Considerations for the Use of RWD and RWE in Regulatory Decision-Making」(監査と査察の確実な準備:規制上の意思決定におけるRWDとRWEの活用に関する検討事項)がダウンロード可能になりました。このペーパーは、規制当局の意思決定を支援するために収集・分析したRWD/RWEのデータソースやプロセスに関して、規制当局が提供を要請する可能性のある情報や文書の種類を明確にすることを目的として作成されています。
訳注)TransCelerate BioPharma Inc.:世界のバイオ医薬品企業約20社が協力して、新薬の効率的・効果的かつ高品質な提供を促進する方法を探求している非営利団体。日本の製薬企業も数社参画。治験総括報告書(CSR)のテンプレートなどを作成・提供。
8.3 FDAを支援するReagan-Udall財団は、FDAと共同で無料の公開ウェビナー「Real-World Evidence Webinar Series: Considerations Regarding Non-Interventional Studies for Drug and Biological Products」(RWEウェビナー・シリーズ:医薬品・生物学的製剤の非介入研究に関する留意事項)を2024年5月30日14時(米国東部時間)に開催します。本ウェビナーでは、FDAのガイダンス案「Real-World Evidence: Considerations Regarding Non-Interventional Studies for Drug and Biological Products」について解説します。
9. 透明性・情報開示のリソースとニュース
研究者や研究チームは、患者や被験者とわかりやすく効果的なコミュニケーションを図るためのツールやリソースを必要としています。米国ハーバード大学/ブリガム&ウィメンズ病院のMRCTセンターが作成した「Clinical Research Glossary」(臨床研究用語集)には、165語を超える平易な臨床研究用語(plain language)とその定義、イラスト、関連コンテンツが収載されており、わかりやすいコミュニケーションのためのCDISC標準となっています。用語集はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下、自由にダウンロード可能です。
訳注1)MRCTセンター:Multi-Regional Clinical Trials Center of Brigham and Women’s Hospital and Harvard(ハーバード大学とブリガム&ウィメンズ病院の多地域臨床試験センター)。ブリガム&ウィメンズ病院は、米国ハーバード大学医学部の附属病院としての役割を担う医療・研究・教育機関の1つ。MRCTはハーバード大学とブリガム&ウィメンズ病院に属しており、国際共同試験の改善を目的とする研究・政策センター。
訳注2)CDISC:Clinical Data Interchange Standards Consortium。臨床試験データなどの電子的収集・交換・申請に関して業界標準を策定している国際的な非営利組織。1997年に米国で設立され、国内外のアカデミアや製薬企業、CRO、IT企業などが参加。CDISCが規定する標準規格は「CDISC standard」(CDISC標準)と呼ばれている。
10. 開発戦略ニュース
EUでは先端医療医薬品(ATMP)、米国では細胞・遺伝子治療(CGT)と呼ばれている治療法の進歩について、「Emerging technologies and regulatory agency guidance for CGTs」(CGTの新技術と規制当局のガイダンス)と題された記事が、RAPS(Regulatory Affairs Professionals Society:薬事専門家協会)のウェブサイトに掲載されました。著者Catarina Carrãoはこの記事で、ATMPとCGTに関する現在のガイダンスをEMAとFDA各々の観点から概説しています。
11. 人工知能・機械学習
11.1 米国商務省の国立標準技術研究所(NIST)は、ガイダンスNIST AI 600-1「Artificial Intelligence Risk Management Framework: Generative Artificial Intelligence Profile」(AIリスク管理フレームワーク:生成AIプロファイル)の初案を発表しました。パブリックコメントを2024年6月2日まで受け付けています。
11.2 WHOは「Ethics and Governance of Artificial Intelligence for Health: Guidance on large multi-modal models」(医療用AIの倫理とガバナンス:大規模マルチモーダルモデルに関するガイダンス)を発表しました。WHOは本ガイダンスの目的について、「大規模マルチモーダルモデル(LMM)を保健医療分野で活用することのメリットと課題をWHO加盟国が正確に把握し、LMMの適切な開発、提供、活用のための政策や実行策を策定するのを支援するため」と説明しています。
11.3 医療機器認証機関(notified body)のTÜV SÜDは2024年6月11日11時~12時(中央ヨーロッパ時間)に、ウェビナー「Understanding AI Act Interactions with MDR and IVDR」(EUのAI規制法と欧州医療機器規則 [MDR] /体外診断用医療機器規則 [IVDR] との相関関係の理解)を開催します。
11.4 英国MHRAは、ガイダンス「Software and artificial intelligence (AI) as a medical device」(医療機器としてのソフトウェアとAI)を改正しました。
翻訳:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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