英語論文では翻訳者らへの謝辞が必要

※2024年4月7日更新

今回も、2013年4月25日に日本メディカルライター協会(JMCA)主催のセミナー「国際的な医学雑誌への論文アクセプトのための戦略」に参加した話の続きで、英文メディカルライティングや論文執筆・英訳に携わる方々にぜひお伝えしたい内容2つのうち2番目をご報告します。それは「貢献者への謝辞を忘れずに!」です。

 

1. 英語論文の国際的ガイドラインの規定

ご存知のとおり、医学論文に関する国際的ガイドラインには様々なものが存在します。代表的なものとして、ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors)の統一投稿規定「Uniform Requirements for Manuscripts」が挙げられますが、名称が「Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Publication of Scholarly Work in Medical Journals」に変更され、今年8月に更新されました(http://www.icmje.org/)。

他には、製薬企業等から資金提供を受けた医学研究の論文発表に関するガイドライン「Good Publication Practice for Communicating Company-Sponsored Medical Research」の第2版(GPP2ガイドライン)が2009年にBMJオンライン版で発表されています(http://www.bmj.com/content/339/bmj.b4330.long)。

英語論文執筆者や、英語論文の作成に携わるメディカルライター・翻訳者・校閲者は、これらのガイドラインに精通している必要があります。論文関連ガイドラインをまとめてお知りになりたい方には、EQUATOR Networkのサイトが便利です(http://www.equator-network.org/)。これらのガイドラインやサイトは、4月のJMCAサロンでも紹介されていました。

上記のガイドラインなどでは、論文著者の資格・条件(authorship)が明確に規定されており、著者の条件に満たない貢献者は「謝辞」(Acknowledgements)のセクションに記載すること(contributorship statement)が求められています。貢献者には、論文作成を支援するメディカルライターや翻訳者、英文校閲者なども含まれます

2. 日本人が翻訳者らへの謝辞を書かない原因

2.1 論文ルールの普及の低さ

筆者は知り合いの医師らから論文の和文英訳や英文校閲を依頼されると、「謝辞」に翻訳者などの名前を記載するよう、十年以上前から助言しています。なぜなら、多くの日本人医師・研究者は、そもそも論文関連の国際的なガイドラインの存在を知らず、論文作成の貢献者を「謝辞」に書くという国際的なルールを知らないからです。

貢献者の記載の必要性を説明すると、first authorの若い医師らは「謝辞」への記載を快諾してくれることが多いです。しかし、指導医や教授などによるチェックの際に「謝辞」から貢献者の記載が削除されてしまうことがよくあります。教授と言えども、論文の国際的なガイドラインの存在や、貢献者の記載の必要性などを知らない場合が多いのではないかと思います。

2.2 英語コンプレックス

日本人医師・研究者は、翻訳者やネイティブチェッカーの力を借りたことを「謝辞」に書くと、「自分の英語力が低いことが露呈してしまうのではないか」と恐れる傾向が見受けられます。

2.3 論文は研究者自身が書くという思い込み

海外では英語ネイティブの医師・研究者でさえ、メディカルライター・エディターらの協力を得て論文を作成・推敲していることが多いという事実は、日本では依然としてあまり知られていないため、日本人は自分で英語論文を書かないことは「恥ずかしい」という考え方が根強いように思います。実際、「英語の論文くらい自分で書けなくてどうする!俺が若い頃は・・・」などと中高年の医師に叱られ、当方に助けを求めて来られる医師が後を絶ちません。

3. 翻訳者らへの謝辞を書くメリット

多くの日本人医師・研究者が持つ古い考えとは逆に、貢献者を「謝辞」に書くことには複数のメリットがあります。

(1)プロのメディカルライターやパブマネに論文作成を手伝ってもらったことを書けば、関連ガイドラインに従って世界に通用する倫理的な論文を作成したことを査読者や投稿先の編集者らに印象付けることができます。

(2)プロの医薬翻訳者に英訳を頼んだことや、ネイティブチェッカーに英文を校閲してもらったことを書けば、論文の英語の質が悪くないことを査読者や編集者らに示唆することができ、投稿先から「ネイティブに英語をチェックしてもらうように」と門前払いされるリスクが減ります。

(3)いわゆる「ゴースト・ライティング」は倫理上問題であることを認識している方が多いと思いますが、メディカルライターや翻訳者らに英文を作ってもらったら、その旨を「謝辞」に明記すれば「ゴースト・ライティング」を回避できます。

したがって、「謝辞」に論文作成の貢献者を書かないのはむしろ勿体ないと思います。このような点からも、貢献者の記載を論文著者に勧めています。

4. 英語論文作成の教育の必要性

JMCAサロンのQ&Aセッションでは、Woolley教授に、上述のような日本独特の問題・原因が存在することを説明し、意見を伺ったところ、やはりメディカルライターや翻訳者、英文校閲者などの貢献者は「謝辞」に書くべきであり、そのためには医師や研究者に対する英語論文作成の「教育」が重要だとおっしゃっていました。

5. 翻訳者らへの謝辞の書き方

医師・研究者が翻訳会社などに論文の和文英訳や英文校閲を外注した場合は、誰が翻訳・校閲したのかわからないことが多いですが、外注先の組織名を「謝辞」に書けばOKです(例:We thank Clinos for translating the early version of manuscript.)。翻訳者や校閲者がわかる場合は、貢献者の氏名(+所属先)を書きましょう(例:We thank Yukie Uchiyama, MD of Clinos for editing the manuscript.)。

6. 論文翻訳・校閲側の問題

世界に通用する英語論文を作成できる知識とテクニックを持つ日本人メディカルライター・医学翻訳者・校閲者は、残念ながら依然として極めて少ないです

英語論文の作成に携わるメディカルライター・翻訳者・校閲者は、「謝辞」に名前が載るほど責任ある仕事を任されていることを自覚し、それに値する実力のない人は英語論文関連の受注を慎むべきだと思います。英語論文の書き方や作法を知らないどころか、日本語の医学論文さえ読んだことのない駆け出しの翻訳者が、仕事欲しさに論文の和文英訳を引き受けるなど言語道断です。このようなフリーランスに論文の英訳を発注する翻訳会社やCROなども再考が必要だと思います。

7. まとめ

前回のブログでご紹介した「剽窃」の問題などもあり、単に日本語を英語に置き換えただけでは、海外の医学雑誌に論文を投稿しても受理されにくい時代になっています。また、研究や論文の「透明性」が一層求められていますので、英語論文の作成を依頼する側も引き受ける側も、意識改革と日々の学習が必要と言えるでしょう。

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著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
→ 詳しいプロフィールはこちら

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英借文では英語表現の盗用に要注意!

前回、今年4月25日に日本メディカルライター協会(JMCA)主催のセミナー「国際的な医学雑誌への論文アクセプトのための戦略」に参加したことを書きましたが、今回はその続きです。

スタットコム株式会社の戸梶亜弥氏がパブリケーション・マネジメントについて概要を説明して下さった後、Karen Woolley教授が同僚のJason Khoh氏と「国際的な医学雑誌への論文発表:成功への5つの鍵」というテーマでお話し下さいました。その後のQ&Aセッションでは、講師全員が様々な質問に答えて下さいました。その中で、英文MWや論文執筆・英訳に携わる方々にぜひお伝えしたい内容を2つ選び、今回はその1つ目をご報告します。

他人の論文からの英語盗用に要注意!

他人の文章や表現を無断で借りて、出典を明示しないことを「剽窃(ひょうせつ)」や「言葉・文章の盗用(とうよう)」と言い、英語ではいずれも「plagiarism」と言います

最近、欧米では多くの医学雑誌が剽窃・盗用の検出ソフト(例:CrossCheck)を使い、投稿論文の剽窃の有無をチェックしています。剽窃は不正行為であり、「著作権侵害」になることも多いため、著者がインターネット上の情報や他人の論文の英語表現を盗用していないかを編集者が確認する目的で、剽窃検出ソフトが使われるようになりました。日本でも、剽窃検出ソフトを導入する医学雑誌が増えていますし、大学・大学院では学生のレポート評価などに利用され始めています。

そこで、剽窃検出ソフトの利用の実態をJMCAセミナーで尋ねたところ、Woolley教授がCEOを務めるメディカルライティング会社(ProScribe Medical Communications)では、投稿前の論文に専用ソフトを使って剽窃の有無を確認しているとのことでした。このことより、投稿論文を受け取る医学雑誌側のみならず、論文の作成に携わるメディカルライティング会社やパブマネも剽窃検出ソフトを使って、論文の剽窃防止に努めていることがわかりました。

このように海外では剽窃に対するチェックが厳しくなっていますので、「英借文」をすることの多い日本人著者・翻訳者は注意が必要です。医薬分野でよく使われる定型表現(例:at a dose of X mg)や定型文(例:The drug was administered orally to the patients.)を使うことは剽窃にはなりません。しかし、それ以外の文章や表現を借りる場合は、引用のルールに従って適切に引用するか(例:引用符で括り、出典を明示する)、十分な言い換え(paraphrasing)を行わなければ「剽窃」や「盗用」と見なされてしまいますので、細心の注意が必要です。

剽窃の防止策は?

JMCAセミナーでは剽窃の効果的な防止策についても尋ねたところ、Woolley教授は著者らを教育することが重要とおっしゃり、Khoh氏は具体的に類義語のボキャブラリーを増やし、paraphrasingの練習を積むことを提案なさっていました。お二人のご意見に全く同感です。

私からのお勧めは、今年6月に発売された書籍『英文ライティングと引用の作法:盗用と言われないための英文指導』(著:吉村富美子、発行:研究社、定価:2,200円)をお読みになり、「引用」と「剽窃」の違いや引用の正しい方法を知ることです。

この本は大学・大学院で論文などの英文ライティングを指導する教員向けに書かれたものですが、指導者以外にも役立つ内容が盛り沢山で、引用と剽窃の文化的背景から剽窃の防止策まで体系的に学べます。また、剽窃を疑われないようにするための英文ライティング能力を学生に身に付けさせる指導法は、そのまま英文メディカルライティングの学習法に応用でき、効果的な学習法を知ることができます。英語のみならず日本語のライティングにも共通する概念や対策も含まれていますので、論文執筆者やメディカルライター、医薬翻訳者らには必読の本だと思います。ぜひご一読下さい。(次回に続く)

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論文のパブリケーション・マネジメント

少し前の話になりますが、今年4月25日に日本メディカルライター協会(JMCA)主催のセミナー「国際的な医学雑誌への論文アクセプトのための戦略」に参加しました。その理由は、医学論文の英訳を長年手掛けているということもありますが、講師の1人がオーストラリアの有名メディカルライターKaren Woolley教授(クイーンズランド大学)だったからです。

Woolley教授は、2009年10月に開催された米国メディカルライター協会(AMWA)の年次総会で、北米人以外では初めて基調講演の演者に抜擢され、グローバルな視点から今後のメディカルライティングについてお話しをされました。ほぼ毎年日本からはるばる参加して苦労している私にとっては、まさに代弁して下さっているような提案もあり感動したので、講演後に声を掛け、少しお話しさせて頂きました。(私が書いた2009年AMWA年次総会レポートはこちら⇒http://www.jmca-npo.org/link/201001.html

そのWoolley教授に日本で再会でき、講義も聞けるとあっては、セミナーに参加しない手はありません。JMCAからセミナーの案内を受け取るとすぐに申し込みました。

セミナーでは、まずスタットコム株式会社メディカルコミュニケーション部長の戸梶亜弥氏が)「パブリケーション・マネジメント」(publication management)ついて概要を説明して下さいました。

「パブリケーション・マネジメント」という言葉を聞いたことがない方が多いかもしれませんが、これは論文投稿を計画的に行うことであり、欧米ではパブリケーション・マネジメントを専門に手掛け、論文の著者を手助けする「パブリケーション・マネジャー」(略称:パブマネ)も存在します。日本ではまだ馴染みの薄い概念と職業ですが、論文の作成・翻訳に携わる方は覚えておくと良いでしょう。

欧米では「パブリケーション・マネジメント」が普及してきていますから、日本人が英語で論文を書いたり、日本語の論文を英訳したりしただけでは、海外の医学雑誌にアクセプトされるのが難しくなってきています。今後は研究や臨床試験の計画時からパブマネと協力して計画的・戦略的に投稿の準備を進めていかなければ、欧米の論文と同じ土俵で戦えないかもしれません。

そのような状況下、戸梶氏はInternational Society for Medical Publication Professionals (ISMPP)のcertified medical publication professionalであり、すでにパブマネの国際的な資格を取得している日本人が存在するというのは大変心強いです。(次回に続く)

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AMA Manual of Styleの勉強法

※第11版に合わせて記事をアップデートし、第11版の該当するセクションを赤字で示しました(更新日:2023年7月3日)

医薬分野の英文ライター、英文校閲者、英訳者にとって必携の医薬英文スタイルガイド『AMA Manual of Style』は百科事典のように厚く、内容が盛り沢山なので、「どこから読んで勉強すればいいのかわからない」といったお悩みをよく聞きます。そこで、下記の3ヵ所を下記の順序で勉強することをお勧めします。

1. 第11版 セクション7.0「Grammar」~セクション16.0「Greek Letters」
(第10版:セクション2「Style」)

文法やpunctuation(カンマ、セミコロン、コロン等)、略語の使い方など、いわゆる「医薬英文の書き方のルール」が書かれているのがこれらのセクションです。したがって、まずセクション7.0から読み始めて基本的なルールを身に付けるとともに、『AMA Manual of Style』がどのような英文スタイルを採用しているのかを知ると良いと思います。

また、セクション11.0「Correct and Preferred Usage」には、英語ネイティブのメディカルライターでも間違いの多い類義語の使い分けや、冗長な表現(redundant words)などが載っているので、正確かつ簡潔明瞭な医薬英文を書く基礎知識・テクニックを身に付けるのに役立ちます。

2. 第11版 セクション17.0「Units of Measure」~セクション20.0「Mathematical Composition」
(第10版:セクション4「Measurement and Quantitation」)

これらのセクションには数字、単位、%などの書き方や統計用語集(セクション19.5「Glossary of Statistical Terms」)が載っているので、研究・試験の結果・データ統計記述を英語で書く際に必要な基礎知識が得られます。

3. 第11版 セクション4.0「Tables, Figures, and Multimedia」
(第10版:セクション1「Preparing an Article for Publication」中の4「Visual Presentation of Data」)

ここには図表の書き方が、多くの実例とともに載っています。アカデミアや製薬企業などでは、図表は統計担当者が作成することが多いので、「メディカルライターや医薬翻訳者、英文校閲者に図表の書き方は関係ない」と思うかもしれません。

しかし、英語の図表には様々なルールがあり(例:脚注の書き方)、日本語の図表と異なる点もあるので(例:表に縦線は引かない)、統計担当者が英語の図表のルールを知らない場合は、英語文書作成時にメディカルライターや医薬翻訳者、英文校閲者が図表をチェック・修正したり、統計担当者に助言したりする必要があります。

また、英訳の外注時には図表の英訳も含まれていることが多々あるので、翻訳者は図表のタイトルや項目名などを英語に置き換えるだけでなく、日本語の図表全体を英語の図表の形式に適宜直せなければなりません。

ところが、英語の図表は日本語の図表と異なる点があることを知らない翻訳者が多いせいか、英語の図表の形式に直していないケースが多く見られます。

したがって、メディカルライターや医薬翻訳者、英文校閲者も英語の図表の基本的な書き方日本語の図表との違いを知っておくと良いでしょう。

まとめ
分量の多い『AMA Manual of Style』で、メディカルライターや医薬翻訳者、英文校閲者が最低限読むべき箇所は上記の3つだけです。それでも、頁数にすると結構多くて大変だと思うかもしれませんが、例文が非常に多く載っているので、実際に読むべき説明文はそれほど多くありません。恐れずに、まずセクション7.0から読み始めてみて下さい。「千里の道も一歩から」です。

英語の文法用語やライティング用語などがわからなくて読みにくいという方は、「英文ライティング用語の日本語訳リスト」をご活用下さい。

また、『AMA Manual of Style』のホームページに練習問題「Style Quizzesがあるので、上記の各セクションを読みながら練習問題に挑戦して習熟度をチェックすると、達成感が得られて勉強を続けやすいと思います。

追記1:『AMA Manual of Style』第11版が2019年に発行されることが、2018年秋の米国メディカルライター協会年次総会で発表されました。

追記2:『AMA Manual of Style』第11版の発行時期が2020年1月末に延期されたことが、2019年秋の米国メディカルライター協会年次総会で発表されました。

追記3:『AMA Manual of Style』第11版が2020年2月に発刊されました。

【補足情報】
『AMA Manual of Style』は米国医師会(AMA)の学術誌『JAMA』の論文投稿規定であり、日本人が間違いやすい点などは考慮・記載されていませんので、拙著『薬事・申請における英文メディカル・ライティング入門』シリーズI巻改訂版(絶版)を併用して、日本人が気をつけるべき点を知って頂くと学習効果が上がると思います。拙著には『AMA Manual of Style』第10版の参照頁も記載されていますので、ぜひご活用下さい。書籍情報はこちら
(追記:『薬事・申請における英文メディカル・ライティング入門』I巻改訂版は好評につき完売し、2019年1月に販売終了・絶版となりました。あしからずご了承下さい)

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著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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AMA Manual of Styleオンライン版の国内利用

※2024年3月28日更新

ご存知の方も多いかと思いますが、欧米でしか使えなかった『AMA Manual of Style』オンライン版が、第10版から、日本を含む全世界で利用可能になりました(現在の最新版は第11版です)。個人でも、企業でも、アカデミアでも利用可能です。料金や購入方法は『AMA Manual of Style』ホームページ「Purchase」セクションをご覧下さい。

国内の問い合わせ先:オックスフォード大学出版局株式会社
〒108-8386 東京都港区芝4-17-5 相鉄田町ビル3F
TEL:03-5444-5454
日本語ウェブサイトはこちら

オンライン版の特長は主に3つあります。

  1. 誤字・脱字の修正や、改訂後の変更箇所(マイナーチェンジ)などが反映された最新バージョン
  2. 検索が早くて楽
  3. ネット環境があれば、どこでも利用可能(リモートワーク時に便利)

『AMA Manual of Style』のホームページには、改訂後のマイナーチェンジ一覧「Updates」や、スタイルに関する練習問題「Style Quizzes」など、有用なコーナーもありますので、ぜひ一度ご覧になってみて下さい。練習問題は、オンライン版利用者だけでなく誰でも利用可能ですので、自習だけでなく勉強会などにも幅広くご利用になれると思います。

国内の製薬業界では、メディカルライターや社内翻訳者の間でスタイルガイドの利用や『AMA Manual of Style』が普及し、社内で英語文書を作成する際だけでなく、英語文書作成を外注する際にもスタイルガイドを指定することが増えています。

しかし、CRO・翻訳会社やフリーランスのメディカルライター・医薬翻訳者の間では、スタイルの統一などの必要性があまり認識されておらず、スタイルガイドの利用や『AMA Manual of Style』の普及が十分進んでいないようです。そのため、製薬企業からは以下のようなご不満の声を時々耳にいたします。

  • 英語文書作成の外注時に社内の英文スタイルガイドを外注先に提供しても従わず、スタイルも統一されていない納品物が多い。
  • 翻訳会社に英訳を外注した際に英文スタイルの統一などを要請したら、多額の追加料金を請求された。
  • 契約しているネイティブ翻訳者が「自分のスタイルのほうが良い」と言って、指定のスタイルガイドに従ってくれなかった。

英語論文でも、投稿規定に従ってスタイルを統一することが欠かせませんから、文書の種類を問わず、スタイルの統一は英文ライティング・英訳作業の極めて重要な要素です。

今後は製薬企業やアカデミアだけでなく、CRO・翻訳会社やフリーランスのライター・翻訳者の間でもスタイル統一の必要性がもっと認識されること、そして医薬分野の英文スタイルガイドの「グローバル・スタンダード」と呼ばれ、多くの論文投稿規定や企業内スタイルガイドの基礎となっている『AMA Manual of Style』に精通する方が増えることを願っています。

追記1:『AMA Manual of Style』第11版が2019年に発行される予定です。

追記2:『AMA Manual of Style』第11版の発行時期が2020年1月末に延期されました。

追記3『AMA Manual of Style』第11版が2020年2月に発刊されました。「ハードカバー版」、「オンライン版」、「ハードカバー版+オンライン版」セットの3種類があります。購入方法など詳細はホームページをご覧下さい。

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著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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ICH E3ガイドライン公式Q&A

すでにご存知の方も多いかと思いますが、治験総括報告書の書き方に関するICH E3ガイドラインの公式Q&Aが昨年7月に発表されました。下記のサイトで無料閲覧・ダウンロードが可能です。

<http://www.ich.org/products/guidelines/efficacy/article/efficacy-guidelines>

まだご覧になっていない製薬翻訳者やメディカルライターの方は、同サイトで一緒に発表された「Concept Paper」と併せて一度目を通しておくよろしいかと思います。

ついでに、治験総括報告書の翻訳に関して、翻訳者やメディカルライターの方々の和訳や英訳を拝見して気付いた点をご参考までに述べさせて頂きます。

1. ICH E3ガイドラインは必携

ICH E3ガイドラインは、Q&Aにも記載されているとおり強制力はなく、治験総括報告書のテンプレートではありません。しかし、英語の治験総括報告書はICH E3ガイドラインの英語オリジナル版を、日本語の治験総括報告書は同ガイドラインの日本語版をテンプレートとして利用している製薬企業が非常に多いので、同ガイドラインのオリジナル版と日本語版は、治験総括報告書の翻訳に携わる翻訳者・英文校閲者にとって必携と言えます。オリジナル版は前述のサイトで、日本語版は下記のサイトで無料ダウンロード可能です。

<http://www.pmda.go.jp/ich/efficacy.htm>

2. 治験総括報告書の見出しの訳し方

見出し(セクション名)は、同ガイドラインに準拠している製薬企業が多いですが、同ガイドラインに準拠せずに勝手に翻訳者が訳したり、校閲者が変更してしまったりしているケースが時々見られます。(翻訳依頼者はネイティブチェックを盲信しないよう注意しましょう)

同ガイドラインの見出しには不適切な英語表現があったり、日本語版には誤訳があったりしますが(例:11.2項「人口統計学的及び他の基準値の特性」)、同ガイドラインの見出しをそのまま治験総括報告書の見出しに使っている製薬企業が多いので、翻訳者や校閲者は、翻訳依頼者や翻訳会社から指示がない場合や翻訳依頼者に確認できない場合、独自に訳すより、同ガイドラインの見出しをそのまま使うほうが無難だと思います。

3. 「他の重要な有害事象」の英訳

「other important adverse events」と訳す方が結構いらっしゃいますが、同ガイドラインの12.3項の見出しで「other significant adverse events」という表現が使われているため、治験総括報告書ではimportantではなくsignificantを使うのが一般的です。逆に和訳時には「他の有意な有害事象」などと訳さないよう注意が必要です。

4. 被験者背景

和訳時に「baseline subject/patient characteristics」を、前述の11.2項「人口統計学的及び他の基準値の特性」の誤訳に合わせて、本文中でも「基準値の特性」と訳す方が時々いらっしゃいますが、「baseline subject/patient characteristics」はいわゆる「被験者背景、患者背景」のことですから、見出し以外では「被験者背景」、「患者背景」、「背景因子」などと訳したほうが適切でわかりやすいと思います。逆に英訳時には「other characteristics of baseline values」などと誤訳しないよう注意が必要です。

なお、製薬企業やCROが作成した日本語の治験総括報告書やプロトコルで、「人口統計学的及び他の基準値の特性」という表現を見出しのみならず本文中でも使用しているものを時々見掛けますが、そこまでICH E3ガイドライン対訳版の誤訳を使う必要性や、誤訳で統一する必要性があるのでしょうか。製薬企業で英文メディカルライティングの研修を実施していますと、この日本語表現が誤訳であることを知らず、英訳時に「other characteristics of baseline values」などと誤訳する社内メディカルライターが意外に多くいるので、外注した英訳の社内チェックなどでも誤訳と気付かずに見逃している場合が結構あるのではないかと思います。「英訳しやすい日本語」という観点から見ても、日本語の治験総括報告書やプロトコルで「人口統計学的及び他の基準値の特性」という表現を使うことは好ましくありません。特にプロトコルは、治験責任医師らが読者ですから、彼らに通じない表現は避けたほうが良いと思います。製薬企業やCROのメディカルライターの方々はぜひご一考下さい。

5. 他のICHガイドラインも必携

他の種類の製薬文書に関してもICHガイドラインが作成されている場合が多いので(例:CTD、IB)、製薬分野の翻訳者・英文校閲者の方は、関連するICHガイドラインについて、あれば日本語版も含めてすべて入手して、内容・構成や表現に精通しておく必要があります。まだ入手なさっていない方は、お時間のある時に前述のICHガイドラインのサイトをご覧になってみて下さい。

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英文メディカルライティング通信講座

皆様、こんにちは。弊社ホームページのリニューアルを機にブログを始めることにいたしました。本ブログでは、英文メディカルライティングや医薬翻訳に役立つヒントや情報を随時お伝えするとともに、皆様の疑問やお悩みにお答えしていきたいと思います。英文メディカルライティングや医薬翻訳に関してご質問やご相談のある方は、本サイトのお問い合わせフォームからお気軽にご連絡下さい。

記念すべき第1回ブログでお伝えするのは、英文メディカルライティング通信講座のご紹介です。英文メディカルライティングを学べる機会は、残念ながら国内では依然として極めて少なく、米国メディカルライター協会(AMWA)や欧州メディカルライター協会(EMWA)の年次総会に参加して、ワークショップを受講するのが代表的な学習法となっています。しかし、海外まで行くにはそれなりのお金や時間が必要なため、AMWAやEMWAに参加できる幸運な日本人は毎年10~20名程度です。

また、弊社は製薬企業や医療機関での英文メディカルライティングの研修や講演をお引き受けしていますが、このような教育を実施する企業・医療機関も依然として少なく、研修や講演を受講する機会のない方々からご不満の声をよく耳にいたします。

そこで、国内で英文メディカルライティングを学びたいメディカルライターや医薬翻訳者、英語論文執筆者にとって便利なのが欧米のオンライン講座です。

例えば米国シカゴ大学のメディカルライティング講座のうち、一部が今年10月からオンラインで受講可能になります。

・University of Chicago Graham School
Medical Writing and Editing Program

下記の大学にもオンライン講座があり、AMWAの会報『AMWA Journal』などに広告がしばしば掲載されています。

・University of the Sciences in Philadelphia
Biomedical Writing Program

・Northeastern University College of Professional Studies
Master of Science in Technical Communication

最近はオンライン講座を提供する業界団体や民間企業も増えています。
(例:米国Regulatory Affairs Professional Society (RAPS)のオンライン講座

また、AMWAは自習用教材シリーズ「Self-Study Modules」を提供しています。会員でない方もAMWAのサイトから購入可能です。(追記:オンライン版ができました!)

私はシカゴ大学のon-site講座しか受講したことがありませんので、他の講座が良いかどうかわかりませんが、ご興味のある方はネットで検索して、いろいろ比較して、ご自分に合うオンライン講座を選んでみて下さい。

何事もやる気さえあれば、必ず道は開けます。「日本では英文メディカルライティングを勉強できない」などとあきらめずに頑張りましょう!

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