英借文では英語表現の盗用に要注意!

前回、今年4月25日に日本メディカルライター協会(JMCA)主催のセミナー「国際的な医学雑誌への論文アクセプトのための戦略」に参加したことを書きましたが、今回はその続きです。

スタットコム株式会社の戸梶亜弥氏がパブリケーション・マネジメントについて概要を説明して下さった後、Karen Woolley教授が同僚のJason Khoh氏と「国際的な医学雑誌への論文発表:成功への5つの鍵」というテーマでお話し下さいました。その後のQ&Aセッションでは、講師全員が様々な質問に答えて下さいました。その中で、英文MWや論文執筆・英訳に携わる方々にぜひお伝えしたい内容を2つ選び、今回はその1つ目をご報告します。

他人の論文からの英語盗用に要注意!

他人の文章や表現を無断で借りて、出典を明示しないことを「剽窃(ひょうせつ)」や「言葉・文章の盗用(とうよう)」と言い、英語ではいずれも「plagiarism」と言います

最近、欧米では多くの医学雑誌が剽窃・盗用の検出ソフト(例:CrossCheck)を使い、投稿論文の剽窃の有無をチェックしています。剽窃は不正行為であり、「著作権侵害」になることも多いため、著者がインターネット上の情報や他人の論文の英語表現を盗用していないかを編集者が確認する目的で、剽窃検出ソフトが使われるようになりました。日本でも、剽窃検出ソフトを導入する医学雑誌が増えていますし、大学・大学院では学生のレポート評価などに利用され始めています。

そこで、剽窃検出ソフトの利用の実態をJMCAセミナーで尋ねたところ、Woolley教授がCEOを務めるメディカルライティング会社(ProScribe Medical Communications)では、投稿前の論文に専用ソフトを使って剽窃の有無を確認しているとのことでした。このことより、投稿論文を受け取る医学雑誌側のみならず、論文の作成に携わるメディカルライティング会社やパブマネも剽窃検出ソフトを使って、論文の剽窃防止に努めていることがわかりました。

このように海外では剽窃に対するチェックが厳しくなっていますので、「英借文」をすることの多い日本人著者・翻訳者は注意が必要です。医薬分野でよく使われる定型表現(例:at a dose of X mg)や定型文(例:The drug was administered orally to the patients.)を使うことは剽窃にはなりません。しかし、それ以外の文章や表現を借りる場合は、引用のルールに従って適切に引用するか(例:引用符で括り、出典を明示する)、十分な言い換え(paraphrasing)を行わなければ「剽窃」や「盗用」と見なされてしまいますので、細心の注意が必要です。

剽窃の防止策は?

JMCAセミナーでは剽窃の効果的な防止策についても尋ねたところ、Woolley教授は著者らを教育することが重要とおっしゃり、Khoh氏は具体的に類義語のボキャブラリーを増やし、paraphrasingの練習を積むことを提案なさっていました。お二人のご意見に全く同感です。

私からのお勧めは、今年6月に発売された書籍『英文ライティングと引用の作法:盗用と言われないための英文指導』(著:吉村富美子、発行:研究社、定価:2,200円)をお読みになり、「引用」と「剽窃」の違いや引用の正しい方法を知ることです。

この本は大学・大学院で論文などの英文ライティングを指導する教員向けに書かれたものですが、指導者以外にも役立つ内容が盛り沢山で、引用と剽窃の文化的背景から剽窃の防止策まで体系的に学べます。また、剽窃を疑われないようにするための英文ライティング能力を学生に身に付けさせる指導法は、そのまま英文メディカルライティングの学習法に応用でき、効果的な学習法を知ることができます。英語のみならず日本語のライティングにも共通する概念や対策も含まれていますので、論文執筆者やメディカルライター、医薬翻訳者らには必読の本だと思います。ぜひご一読下さい。(次回に続く)

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