CORE Reference News 2024年1月15日号

【CORE Reference Newsとは】
治験総括報告書(CSR)のユーザーマニュアル『CORE Reference』を作成・公開している欧米のメディカルライターらから成るCORE Reference Teamが、無料配信しているニュースレター(英語)。メディカルライティングに役立つ医薬業界情報を欧米・アジアから集めて月1~2回配信。

※本ブログ記事は、クリノスがCORE Reference Teamの許諾を得て参考用に和訳したものです。正確な内容や解釈は英語原文と各ニュース中のリンク先でご確認下さい。本ブログ記事の無断転載・転用は堅く禁止いたします。

【略語リスト】(アルファベット順)

  • CDER:Center for Drug Evaluation and Research(米国医薬品評価研究センター)
  • CIOMS:Council for International Organizations of Medical Sciences(国際医学団体協議会)
  • CTIS:Clinical Trials Information System(臨床試験情報システム)
  • CTR:Clinical Trials Regulation(臨床試験規則)
  • EMA:European Medicines Agency(欧州医薬品庁)
  • EU/EEA:European Union/European Economic Area(欧州連合/欧州経済領域)
  • EudraCT:European Union Drug Regulating Authorities Clinical Trials
  • FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
  • HMA:Heads of Medicines Agencies(欧州医薬品規制当局首脳会議)
  • ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)
  • MHRA:Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(英国医薬品医療製品規制庁)
  • RWD:real-world data(リアルワールドデータ)
  • RWE:real-world evidence(リアルワールドエビデンス)

 

1. EU CTRとCTIS

1.1 CTISに記録されたEU加盟国の祝日リスト2024年版が、EMAのサイトで公開されました。

1.2 EMAは、CTISの機能に関する「CTISウォークイン・クリニック」を2024年1月24日16時~17時(中央ヨーロッパ時間)に開催します。参加者は事前の質問を、Slidoのサイト経由でイベントコード「#clinic241」を使用して2024年1月15日まで提出できます。

1.3 2023年11月29日に開催されたCTISショート説明会「Training materials, CTIS pre-requisites, and updates on transparency rules」(研修資料、CTIS利用要件、透明性規則の最新情報)のビデオ録画がオンライン公開されました。こちらからダウンロード可能です。

1.4 新型コロナウイルス感染症後遺症(PASC)の治療法と予防法の臨床エビデンス生成に関して、EMAが開催したワークショップのビデオ録画が公開されました。本ワークショップでは、臨床試験での適切な患者集団の選定や、適切な有効性エンドポイントの設定などが取り上げられています。

1.5 臨床試験調整諮問グループ(CTAG)の議事録(2023年11月27日会議開催)と、CTRとCTISに関する第2回調査の結果報告スライドが、こちらからダウンロード可能です。

2. 英国MHRAのニュース

MHRAは、患者のタイムリーな医薬品アクセスをサポートするため、新たな有効成分の医薬品販売承認申請(MAA)や適応拡大申請のバリエーションに関する運用情報を共有するプロセスを開発しました。医療システムパートナーと共有する運用情報の目的や、共有する情報の性質、同意、同意の撤回、情報管理プロセスなどについて、「Operational Information Sharing Guidance」(運用情報共有ガイダンス)に詳しく記されています。

3. 米国FDAのガイダンスとニュース

3.1 次回のICH総会(2024年6月4~5日開催予定)に先立ち、FDAとカナダ保健省は、関係者に情報を提供して意見を募るための公開ミーティングを共同開催する予定です。ミーティングの参加登録はこちら。アジェンダはこちらからダウンロード可能です。

3.2 米国の臨床試験登録サイトClinicalTrials.govは、「Notices of Noncompliance and Civil Money Penalty Actions」(不順守および民事制裁金の措置に関する通知)を改正しました。本通知には、過去に臨床試験の登録・報告義務を怠った組織・個人の名称、試験ID(NCT番号)、FDAからの違反通知、罰金の一覧表が掲載されています。

3.3 ClinicalTrials.govのホームページに、「Submit Studies」というセクションが新設されました。本セクション内の「PRS Help Resources」では、臨床試験の登録方法や試験結果の提出方法などを確認できます。また、「Policy」というセクションも新設され、登録項目やFAQなどが掲載されています。

3.4 ClinicalTrials.govへの臨床試験結果提出の期限延長要請に関して、米国国立衛生研究所(NIH)発出の通知「Clinical Trials Results Information Submission: Good Cause Extension (GCE) Request Process and Criteria」(臨床試験結果情報の提出:正当な理由による延長要請のプロセスと判断基準)が2024年1月に改正されました。本改正では、提出期限延長要請の理由が「正当でない」と判断されるケースに複数の追加がありました。

4. リアルワールドデータ

欧州製薬団体連合会(EFPIA)と欧州共同希少疾患プログラム(EJP RD)は、希少疾患のリアルワールドデータなどに関するウェビナーを2024年1月26日に共同開催します。タイトルは「Real-World data, Machine learning and Deep analytics in rare diseases: Regulatory grade data collection for marketing authorization submissions – what is buzz, what is realistic?」(希少疾患におけるリアルワールドデータ、機械学習、ディープ・アナリティクス:販売承認申請のための規制グレードのデータ収集 ― バズとは何か?現実的とは何か?)。本ワークショップは参加無料ですが、事前登録が必要です(2024年1月25日受付締切)。

5. 透明性・情報開示のリソースとニュース

5.1 2024年2月6~8日にPHUSE(Pharmaceutical Users Software Exchange)が開催する「PHUSE Data Transparency Winter Event」(データの透明性に関する冬季イベント)の参加申込受付が始まりました。本イベントはバーチャル開催で、3日間の各日とも15時~17時30分(グリニッジ標準時)にプレゼンテーションが行われます。また、パネルディスカッションや質疑応答も毎日開催されます。登壇者や抄録、参加申込情報などの詳細はこちらをご覧下さい。

訳注)PHUSE:Pharmaceutical Users Software Exchange。製薬企業やIT企業などのデータマネージメントや生物統計、電子臨床データ、毒性、病理、薬理などの各専門家ボランティアから成る国際的非営利組織。FDAやEMA、CDISCなどの規制当局・標準組織などに対する業界の代弁者。

5.2 欧州メディカルライター協会(EMWA)の季刊誌『Medical Writing』2023年12月号(バイオテクノロジー特集)に、「Overcoming confidential information challenges faced by study sponsors」(治験依頼者が直面する機密情報の課題の克服)という記事が掲載されています(著者:Elliot Zimmerman)。記事全文はこちらからダウンロード可能です。

5.3 米国のClinical Trials Transformation Initiative(CTTI)は、臨床試験の登録と結果報告に関する要因と障壁を調査しました。調査報告書「Improving Timely, Accurate, and Complete Registration and Reporting of Summary Results Information on ClinicalTrials.gov」(ClinicalTrials.govへのタイムリーで正確かつ完全な試験登録と試験結果報告の改善)には、登録・報告の義務を負う臨床試験の改善に関する提言が示されています。報告書の概要はこちらでご覧頂けます。

訳注)CTTI:Clinical Trials Transformation Initiative。2007年に米国デューク大学とFDAが共同で設立した、臨床試験の品質・効率の向上を目指す産学官連携組織。

5.4 臨床試験の重大な違反の最初の2件がEU CTISのサイトで発表されました。この2件の詳細をご覧になりたい方は、EU臨床試験データベースで「Advanced Criteria」をクリックし、「Serious Breach」のチェックボックスにチェックを入れて検索して下さい。

5.5 2024年1月、ClinicalTrials.govはNIH発出の通知「Clinical Trials Results Information Submission: Good Cause Extension (GCE) Request Process and Criteria」(臨床試験結果情報の提出:正当な理由による延長要請のプロセスと判断基準)の改正版をサイトに掲載しました。本通知には、正当な理由によりClinicalTrials.govへの臨床試験結果提出の期限延長要請を提出するプロセスが示されています。本改正では、提出期限延長要請の理由が「正当でない」と判断されるケースに複数の追加がありました。また、新たなFAQも追加されています。

6. 人工知能・機械学習

欧州希少疾患共同プログラム(EJP RD)が2024年1月26日に開催予定のオンライン・トレーニング・ウェビナーの詳細は、前述の「4. リアルワールドデータ」セクションをご覧下さい。

7. アジアの規制当局のニュース

タイ臨床試験レジストリ(TCTR)は、2024年1月1日付でMedical Research FoundationからFoundation for Human Research Promotionに移管されました。登録システムの運用については、追加情報が後日提供される予定となっています。TCTRは、財政支援不足のため、2023年11月より段階的に運営を停止しています。

 

翻訳:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
→ 詳しいプロフィールはこちら

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実は誰でも医学翻訳者になれる!資格認定制度を阻む3つの要因

プロの医薬翻訳者になるのに必要な資格は?

医薬翻訳に興味を持つ方から「医者や看護師、薬剤師など医療従事者の資格がないと医学翻訳者になれないですか?」、「プロの医学翻訳者は、何か試験に合格しないとなれないですか?」などと質問を受けることがあります。

また、医薬翻訳を外注する機会のある企業や医師などからは「質の高い翻訳がなかなか手に入らず、翻訳者の語学力や専門知識に疑問を感じることが多いが、医学翻訳は資格制ではないのか?」などと尋ねられることがあります。

国内の通訳・翻訳業務で、資格なしに請け負うことが法律で禁止されているのは、いわゆる「通訳ガイド」だけです。(追記:2017年5月26日に改正通訳案内士法が国会で成立し、無資格でも有償で通訳ガイドを行えるようになりました。)

翻訳に関しては、どの分野でも認定試験や資格制度は存在せず、公的な免許や資格は一切必要ありません技量や経験を問わず誰でも「プロの翻訳者」を名乗って翻訳業務を請け負うことが出来ます

医薬翻訳者の翻訳レベルは実際どの程度

翻訳業界への参入は敷居が低いため、この20年間に医薬翻訳者のすそ野は急速に広がり、医学・製薬業界で「なくてはならない存在」になりました。

その反面、大多数の医薬翻訳者が経験年数に関わらず初心者レベルで、訳文の質が低いことが多いです。そのため、以下のような悪循環が長年続いています。訳文の質が低い⇒依頼者側の不満が根強い⇒医薬翻訳が「専門職」として十分に認識されない⇒翻訳の報酬が低い⇒有望な人材が集まりにくい⇒初心者レベルの翻訳者ばかり増える⇒訳文の質が低い。

科学技術文書の最大の役割は「情報を正確に伝えることであり、特に医薬翻訳では訳文の内容が人の命に関わる場合が多いため、誤訳は1つも許されません重大な誤訳や思い違いを防ぐには、高い語学力読解力だけでなく幅広く深い専門知識が必要です。また、正確でわかりやすい訳文を作るには高度な翻訳技術も必要です。

しかし、これらの能力を兼ね備えた医薬翻訳者は、依然としてほんの一握りしかいません。「専門職」として優秀な人材を育て、医薬翻訳全体のレベルアップを図るためには、通訳ガイドのように認定試験を実施し、「医学翻訳士」のような公的資格を設ける必要があるのではないでしょうか。

医薬翻訳で資格認定制度が難しい理由

業界内で統一した認定試験を実施して、合格者に資格を付与するとなると、下記のような3つの問題が生じて来ます。
1. どの団体が実施するのか
2. 誰が出題・評価するのか
3. 多様な医薬翻訳を1つの資格でカバーできるのか

問題1:どの団体が実施するのか
試験を実施するには専門の組織が必要ですが、残念ながら医薬翻訳の業界団体は存在しません。そもそも翻訳業界全体でも「日本翻訳連盟」(JTF)、「日本翻訳協会」(JTA)、「日本翻訳者協会」(JAT)など複数の団体が存在し、統一団体がありません。そのため、JTFやJTA、翻訳学校などが各々独自に検定試験(実技試験)を実施しており、業界統一試験はありません。

このような状況の中、翻訳サービス提供に関する国際規格「ISO 17100」(2015年発行)に基づき、日本規格協会に「翻訳者評価登録センター」(RCCT)が創設され、2017年4月1日から「翻訳者登録制度」がスタートしました。

RCCTは医薬分野を含む4分野の検定試験を実施するとのことですが、JTFの「ほんやく検定」を新規翻訳検定として登録したことが発表されたので、新たに試験を創設するのではなく既存の検定試験を利用するようです。今後、JTFの「ほんやく検定」が業界統一試験のような役割を果たすようになるのでしょうか。登録制度の有用性なども未知数であり、大阪と東京で開催される説明会の内容に注目が集まるところです。

問題2:誰が出題・評価するのか
真に「プロ」と呼べる優秀な医薬翻訳者が一握りしかいないため(特に英訳)、適切な試験問題を作成して、唯一絶対の「正解」が存在しない訳文の良し悪しを文脈に応じて見極め、受験者の翻訳レベルを正確に判定できる医薬翻訳者は極めて少ないと思われます。そのため、どのような団体が資格認定試験や検定試験を実施するにしても、医薬分野の試験の品質担保が難しいことは容易に想像できます。

問題3:多様な医薬翻訳を1つの資格でカバーできるのか
一口に「医薬翻訳」と言っても、扱う内容や文書の種類は多岐に渡っています。大きく分けても「論文翻訳」、「製薬に関する翻訳」、「医療機器に関する翻訳」、「その他」(診断書、特許など)という4つの異なるジャンルがあり、いずれも様々な領域に細分化されます。さらに、どのジャンルも「和訳」と「英訳」の2種類があり、「医薬翻訳」がカバーする範囲は意外と広いです。

したがって、1人の医薬翻訳者がすべてのジャンルに精通し、オールマイティにこなすことは現実的に不可能です。実際、理系出身で優秀な医薬翻訳者ほど、自分の専門に応じて得意なジャンルに特化している傾向が見られます。このような状況下で、「医薬翻訳」と一括りにして実技試験を実施したり、資格を与えたりすることに意味があるのか疑問が生じて来ます。かと言って、試験や資格を細分化するのは煩雑です。

これらを踏まえると、「医薬翻訳」と一括りにして統一試験を実施する場合には、いずれの翻訳方向についても、医薬翻訳の全ジャンルに共通する基本的な翻訳スキルしかテストできないかもしれません。

こんな統一試験なら実現可能?

基本的な翻訳スキルしか評価できなくても、業界統一の認定試験を実施する意義や価値はあると思います。例えば英訳では、基本的な英文法や医薬英文の書き方のルール(例:punctuation、略語の使い方)さえ身に付いていない医薬翻訳者が多いので、どの医薬分野の英訳にも最低限必要な知識をテストして担保するだけでも、翻訳スキルの客観的指標が欲しい翻訳依頼者にとって、そして医薬翻訳者のプロ意識・信頼性の向上や「専門職化」にとって有益かもしれません。

欧米でも、例えば米国メディカルライター協会(AMWA)のメディカルライティング認定試験(MWC)や、生命科学論文のエディティング認定試験(BELS exam)は、いずれも各分野共通の基礎知識中心に出題されており、マークシート方式で実施されています。ライティングやエディティングのスキルを調べる実技試験ではありません。

医薬分野の全ジャンルに共通する基本的な翻訳知識をテストするだけであれば、出題者や審査員を務められる翻訳者の範囲が広がり、統一試験の実施可能性や持続性が向上するという利点もあります。

したがって、医薬翻訳の統一試験としては、手始めに医薬分野の基本的な翻訳知識に関するマークシート方式の筆記試験を実施するのが良いかもしれません。その後、必要に応じてレベル別の実技試験を順次追加していけば良いのではないでしょうか。

新たに統一試験制度を創設するのが難しいようであれば、医薬分野の既存の英語検定試験(例:日本医学英語教育学会の医学英語検定試験、日本CRO協会の治験実務英語検定)を、医薬翻訳レベルの指標の1つとして活用する方法もあると思います。

まとめ

医薬翻訳者のすそ野が大幅に広がり、「医薬翻訳」という翻訳ジャンルが十分確立した現在、次の段階として、翻訳の質を担保する業界統一認定試験制度を導入・確立して、医薬翻訳の「専門職化」に進む必要があるのではないかと思います。

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2017年5月24日(水) TKP市ヶ谷カンファレンスセンター(東京都新宿区)
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多数のご参加ありがとうございました)

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