CORE Reference News 2024年2月15日号

CORE Reference Newsとは】
治験総括報告書(CSR)のユーザーマニュアル『CORE Reference』を作成・公開している欧米のメディカルライターらから成るCORE Reference Teamが、無料配信しているニュースレター(英語)。メディカルライティングに役立つ医薬業界情報を欧米・アジアなどから集めて月1~2回配信。

※本ブログ記事は、クリノスがCORE Reference Teamの許諾を得て参考用として日本語に翻訳したものです。正確な内容や解釈は英語原文と各ニュース中のリンク先でご確認下さい。本ブログ記事の無断転載・転用は堅く禁止いたします。

【略語リスト】(アルファベット順)

  • CDER:Center for Drug Evaluation and Research(米国医薬品評価研究センター)
  • CIOMS:Council for International Organizations of Medical Sciences(国際医学団体協議会)
  • CTIS:Clinical Trials Information System(臨床試験情報システム)
  • CTR:Clinical Trials Regulation(臨床試験規則)
  • EMA:European Medicines Agency(欧州医薬品庁)
  • EU/EEA:European Union/European Economic Area(欧州連合/欧州経済領域)
  • EudraCT:European Union Drug Regulating Authorities Clinical Trials
  • FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
  • HMA:Heads of Medicines Agencies(欧州医薬品規制当局首脳会議)
  • ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)
  • MHRA:Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(英国医薬品医療製品規制庁)
  • RWD:real-world data(リアルワールドデータ)
  • RWE:real-world evidence(リアルワールドエビデンス)

 

1. ICH

CIOMSはICH用語集「Glossary of ICH terms and definitions」の第5版(2024年2月7日)を発行しました。本書は、各種ICHガイドラインで使用されている用語とその定義を組み合わせて提示しています。こちらからダウンロード可能です。

2. EU CTRCTIS

2.1 CTISのデータ保護に関するQ&A集「Q&A on the protection of Commercially Confidential Information and Personal Data while using CTIS」(CTIS利用時の営業秘密情報 [CCI] と個人情報の保護に関するQ&A)の改訂版が発表されました(バージョン1.4、2024年1月31日)。今回の改訂では、Q&A 3.4「Is it possible not to disclose patient facing documents publicly?」(患者用文書を開示しないことは可能ですか?)の追加などが行われています。

2.2 EudraCTおよびEU Clinical Trials Register(EU-CTR)の「Frequently asked questions」(よくある質問)が改訂されました(バージョン2.3)。改訂箇所の多くは、CTISへの臨床試験の移行に関するQ&Aです。

2.3 今後開催が予定されているCTISイベントの日時は以下の通りです。
2024年4月8日~11日14:00~18:30(アムステルダム時間)
2024年6月10日~13日9:00~13:30(アムステルダム時間)

2.4 2024年1月23日、EMAは「CTIS: How to get started and how to transition a trial」(CTIS:利用開始方法と臨床試験の移行方法)を公開しました。

3. 欧州医療データスペースのニュース

欧州製薬団体連合会(European Federation of Pharmaceutical Industries and Associations:EFPIA)は、欧州医療データスペース(European Health Data Space:EHDS)に関する医療データ共有法案の主な留意事項に焦点を当てた声明「European Health Data Space: key aspects to be considered in the trilogue discussions」を発表しました。本声明では、二次利用の範囲内のデータや、知的財産と企業秘密の保護などが強調・考察されています。

4. 米国FDAのガイダンスとニュース

4.1 FDAはガイダンス案「Collection of Race and Ethnicity Data in Clinical Trials and Clinical Studies for FDA-Regulated Medical Products」(FDA規制医療製品の臨床試験と臨床研究における人種・民族データの収集)を公開しました。本案は、FDA規制医療製品の臨床試験や臨床研究から収集・報告された情報を含む申請資料において、人種・民族データの収集・報告に一貫性を持たせるために、FDAが推奨する標準化アプローチ・用語を提示しています。なお、本案は、2016年発表のFDA最終ガイダンス「Collection of Race and Ethnicity Data in Clinical Trials」(臨床試験における人種・民族データの収集)を改訂したものです。

4.2 FDAは米国デューク大学のデューク・マーゴリス医療政策センターと共同で、公開ワークショップ「Enhancing Adoption of Innovative Clinical Trial Approaches」(革新的な臨床試験アプローチの導入強化)を2024年3月19~20日に開催します。本ワークショップでは、臨床試験のデザインと実施の革新を進める取り組みについて議論する予定で、対面式(会場:ワシントンDCのケロッグ・カンファレンス・ホテル)とオンラインとのハイブリッド形式で開催されます。参加申込は同センターのイベントサイトで受け付けています。

4.3 FDAは公開ワークショップ「Advancing the Use of Complex Innovative Designs in Clinical Trials: From Pilot to Practice」(臨床試験の複雑で革新的なデザインの利用促進:試みから実装まで)を2024年3月5日に開催し、複雑なアダプティブデザインやベイズ流アプローチなど、新しい試験デザインについて議論します。本ワークショップは二部構成になっており、前半では、複雑で革新的なデザインとその実装の多様な側面を例示するケーススタディに焦点を当てます。後半では、ケーススタディに基づいてパネルディスカッションが行われる予定です。対面式とオンラインのハイブリッド形式で開催されますが、参加申込の詳細はこちらをご覧下さい。

4.4 「Top Questions and Answers about the Transition to the Modernized ClinicalTrials.gov and Modernized PRS」(ClinicalTrials.govとプロトコル登録・結果提出システム [PRS:Protocol Registration and Results System] の最新化に関するQ&A)が改訂され、ClinicalTrials.govとPRS各々の従来バージョンの廃止に関する情報が追加されました。

4.5 FDAはガイダンス案「Use of Data Monitoring Committees in Clinical Trials」(臨床試験におけるデータモニタリング委員会の活用)を公開しました。本案は、①データモニタリング委員会(DMC)(別名:データ・安全性モニタリング委員会[DSMB]、データ・安全性モニタリング委員会[DSMC]、独立データモニタリング委員会[IDMC])が臨床試験のモニタリングに有用な場合の見極めや、②データモニタリング委員会の運営指導で考慮すべき手順や内容の決定に関して、治験依頼者を支援するための推奨事項を示しています。本案が最終決定されると、2006年3月発行の治験依頼者向け最終ガイダンス「Establishment and Operation of Clinical Trial Data Monitoring Committees」(臨床試験データモニタリング委員会の設置と運営)から置き換わります。パブリックコメントは2024年4月15日まで受け付けています。

4.6 CDERのジェネリック医薬品部(OGD)とEMAは、ジェネリック医薬品の申請者とFDAとEMAとの同時協議を促進するため、任意のパイロットプログラム「FDA-EMA Parallel Scientific Advice Pilot Program for Complex Generic/Hybrid Products」(複雑なジェネリック/ハイブリッド製品に対するFDA-EMA並行科学的助言パイロットプログラム)を開始しました。本プログラムにより、申請者は「複雑なジェネリック医薬品」(EMAの「ハイブリッド医薬品」に相当)の開発に関して具体的な科学的質問を照会するために、FDAとEMAとの三者合同会議の開催を要請することができます。

5. 欧州EMAのガイダンスとニュース

5.1 EMAはニュース記事「Clinical trials’ transition to new EU system — one year left」(臨床試験の新EUシステムへの移行 ― 残り1年)を発表しました。本記事は、2025年1月30日以降も継続が予想される臨床試験の依頼者に対し、EU加盟国が承認手続き完了までに最大3カ月要する場合があることを考慮する必要性について改めて注意喚起しています。本記事には、過去に紹介された臨床試験移行ガイダンスのリンクも貼られています。また、EMAは「Getting started with CTIS: Sponsor quick guide」(CTISの利用開始方法:治験依頼者用クイックガイド)も発表しています。

5.2 EMAは、ヒトの特定の細菌感染症または感染症の治療や予防を目的としたバクテリオファージ医薬品の開発・製造に関する科学的ガイドラインの作成を提案するコンセプトペーパー「Concept paper on the establishment of a Guideline on the development and manufacture of human medicinal products specifically designed for phage therapy」(ファージセラピー用ヒト医薬品の開発・製造ガイドラインの作成に関するコンセプトペーパー)を発表しました。現在EUでは、動物用のバクテリオファージ医薬品についてはEMAのガイドラインが存在しますが、ヒト用はありません。本コンセプトペーパーに関するパブリックコメントは2024年3月31日まで受け付けています。

5.3 2024年1月25~26日の2日間、EMA主催の臨床試験分析ワークショップが開催され、200人を超える参加者が出席しました。主なディスカッションは、詳細かつ最新の臨床試験データへのアクセス改善の要望や、患者参加の重要性、標準化、適切なデータソースの特定などでした。当日のスライドとビデオ録画がこちらで公開されています。

6. 透明性・情報開示のリソースとニュース

6.1 TransCelerate Biopharma社は2024年3月28日にウェビナー「Enabling Individual Participant Data Return (iPDR): An Overview of TransCelerate’s Individual Participant Data Return Package」(臨床試験の被験者へ各自の治験データを提供する方法:TransCelerate Biopharma社の被験者個人データ提供パッケージの概要)を開催します。参加申込の詳細はこちらをご覧下さい。

6.2 Real Life Sciences社は2024年2月22日にウェビナー「Commercially Confidential Information: Why It’s So Hard and What You Can Do To Streamline CCI In Your Organization」(医薬品の営業秘密 [CCI]:CCIの簡素化はなぜ難しいのか、組織内で何が出来るか)を開催します。参加申込の詳細はこちらをご覧下さい。

7. 開発戦略ニュース

7.1 EMAは、バイオシミラーの開発におけるテーラーメイド臨床アプローチのリフレクションペーパー作成に関するコンセプトペーパー「Concept paper for the development of a reflection paper on a tailored clinical approach in biosimilar development」を発表しました。本コンセプトペーパーについて、2024年4月30日までの3ヶ月間に渡りパブリックコメントを募集しています。コメントはこちらのアンケートフォームから提出可能です。

7.2 Kahanらは論文「The estimands framework: a primer on the ICH E9(R1) addendum」(estimandのフレームワーク:ICH E9(R1)ガイドライン補遺の手引き)を発表しました。estimandを検討する際、チームのインプットが必要であるにもかかわらず、生物統計担当者に任せきりになるという、よく見られる問題が本論文で指摘されています。本論文は主題が簡潔に要約されており、estimandに馴染みのない人にとって優れた手引書となっています。

8. 人工知能・機械学習

Shickらは論文「Transparency of artificial intelligence/machine learning-enabled medical devices」(人工知能/機械学習を利用した医療機器の透明性)を発表しました。2021年10月にFDAが開催した同名のワークショップで、ステークホルダーにとっての透明性の意味と役割や、医療機器に該当するすべての人工知能/機械学習利用ソフトウェアの透明性を促す方法について議論された成果が本論文で報告されています。

 

翻訳:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
→ 詳しいプロフィールはこちら

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CORE Reference News 2024年1月31日号

CORE Reference Newsとは】
治験総括報告書(CSR)のユーザーマニュアル『CORE Reference』を作成・公開している欧米のメディカルライターらから成るCORE Reference Teamが、無料配信しているニュースレター(英語)。メディカルライティングに役立つ医薬業界情報を欧米・アジアなどから集めて月1~2回配信。

※本ブログ記事は、クリノスがCORE Reference Teamの許諾を得て参考用として日本語に翻訳したものです。正確な内容や解釈は英語原文と各ニュース中のリンク先でご確認下さい。本ブログ記事の無断転載・転用は堅く禁止いたします。

【略語リスト】(アルファベット順)

  • CDER:Center for Drug Evaluation and Research(米国医薬品評価研究センター)
  • CIOMS:Council for International Organizations of Medical Sciences(国際医学団体協議会)
  • CTIS:Clinical Trials Information System(臨床試験情報システム)
  • CTR:Clinical Trials Regulation(臨床試験規則)
  • EMA:European Medicines Agency(欧州医薬品庁)
  • EU/EEA:European Union/European Economic Area(欧州連合/欧州経済領域)
  • EudraCT:European Union Drug Regulating Authorities Clinical Trials
  • FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
  • HMA:Heads of Medicines Agencies(欧州医薬品規制当局首脳会議)
  • ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)
  • MHRA:Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(英国医薬品医療製品規制庁)
  • RWD:real-world data(リアルワールドデータ)
  • RWE:real-world evidence(リアルワールドエビデンス)

1. EU CTRCTIS

1.1 EMAは、2024年2月4月6月に各々開催予定の「CTIS治験依頼者エンドユーザー研修プログラム」の日程と情報を発表しました。

1.2 EMAは、非営利目的の治験依頼者が臨床試験をCTISに移行させることを支援するため、研修イベントを2024年2月9日に開催します。参加者は事前の質問を、Slidoのサイト経由でイベントコード「#Transitioningtrials」を使用して提出できます。アジェンダはこちらからダウンロード可能です。本イベントでEU加盟国の代表者とEMAは、治験をCTISに移行する非営利目的治験依頼者をサポートするためのガイダンスとリソースを提供します。

1.3 EU CTR施行に関する報告書(2023年12月号)がダウンロード可能になりました。本報告書には、2022年1月31日以降に提出された初回臨床試験申請の累積件数の概要が含まれています。

1.4 「CTIS newsflash」2024年1月26日号によると、EMAは改正CTIS透明性規則の技術的実装に取り組んでおり、2024年第2四半期の実装を見込んでいます。それまでの間、初回臨床試験申請について、治験依頼者は改正CTIS透明性規則の原則に従うことが可能です。そのため、治験依頼者は治験文書の公開を保留せず、改正透明性規則の適用範囲内にある文書に限って「公開用」と「非公開用」の両バージョンを提供することが認められます(改正CTIS透明性規則の付録I参照)。

2. 英国とMHRAのニュース

英国保健研究機構(Health Research Authority:HRA)の「HRA Now」最新号で、医薬品臨床試験のEU CTIS登録に関するHRAの指針が明示されました。国際共同試験の一部として英国で実施される臨床試験の情報はEUのCTISに登録できないため、EU/EEAと英国の両地域で臨床試験を行う場合は、EU CTISに臨床試験を登録するだけでなく、ISRCTNレジストリClinicalTrials.govなどの臨床試験レジストリにも登録が必要です。

3. 米国FDAのガイダンスとニュース

3.1 FDAは「Conducting Remote Regulatory Assessments – Questions & Answers」(リモート規制評価の実施:Q&A)の改訂ガイダンス案を業界向けに公開しました。FDAは、FDA規制製品の監視やリスク軽減、公衆衛生上の重要なニーズへの対応、コンプライアンス向上支援のため、「リモート規制評価」(RRA)を利用してきました。本ガイダンス案では、RRAの定義や実施時期・理由・方法などがQ&A形式で説明されています。パブリックコメントはこちらで2024年3月27日まで受け付けています。

3.2 FDAは「Collection of Race and Ethnicity Data in Clinical Trials and Clinical Studies for FDA-Regulated Medical Products」(FDA規制医療製品の臨床試験と臨床研究における人種・民族データの収集)と題されたガイダンス案を公開しました。本ガイダンス案は、臨床試験での人種・民族データの収集・報告について標準化アプローチを提示しています。パブリックコメントはこちらで2024年4月29日まで受け付けています。

4. 欧州EMAのガイダンスとニュース

4.1 EMAと欧州がん研究治療機関(EORTC)は、患者報告アウトカム(PRO)と健康関連QOL(HRQoL)データが規制上の決定にどのように影響するかについて、ワークショップを2024年2月29日に共催します。オンライン参加の申込はこちらで2024年2月16日まで受け付けています。

4.2 EMAは、製薬分野の中小企業(SME)向けユーザーガイド「User guide for micro, small and medium-sized enterprises」の大幅な改訂版を発表しました。本ガイドには、EUの医薬品規制の枠組みに関する情報が包括的に掲載されており、ヒト用医薬品および動物用医薬品の開発と承認の要件が示されています。今回の主な改訂は、①動物用医薬品に関する全面改訂(動物用医薬品規則に準拠)、②CTRとCTISの概要の記載(新規セクション4.4)、③ヒト用の医療機器規則に関する知見の提示(新規セクション4.8)の3点です。

4.3 EMAの臨床試験データ公開サイトに「Resumption of clinical data publication for all medicines」(全医薬品の臨床データ公開の再開)というセクションが追加されました。EMAは新薬臨床試験のデータ公開について、新型コロナ感染症医薬品を除き一時中断していましたが、2023年9月以降にEMAのヒト用医薬品委員会(CHMP)から意見を得た医薬品の臨床試験データ公開を再開しました。新型コロナ感染症医薬品以外で再開後に公開された医薬品の臨床データパッケージは、2024年1月からEMAの臨床試験データ公開サイトで入手可能になります。

5. リアルワールドデータ

HMA/EMA共同ビッグデータ運営グループは、最新のビッグデータ作業計画2023-2025(バージョン1.2、2024年1月)を発表しました。本計画には各作業のタイムラインの概略が示されています。本計画の発表スライドがこちらからダウンロード可能です。

6. 透明性・情報開示のリソースとニュース

6.1 DeVitoらは、EU Clinical Trials Register(EU-CTR)に登録された臨床試験のデータ開示状況について、横断的監査調査を実施しました。その結果、調査した臨床試験500件のうち53.2%で試験結果がEU-CTRで開示されていました。これは、比較可能な記録がある他の臨床試験レジストリの臨床データ開示率を上回っていました。また、試験結果の報告までに要した時間(中央値)も、EU-CTRが1142日で最も短く、ClinicalTrials.gov(3321日)より結果報告が速いことが示されました。詳細は論文「Availability of results of clinical trials registered on EU Clinical Trials Register: cross sectional audit study」をご覧下さい。

6.2 米国のClinical Trials Transformation Initiative(CTTI)の調査報告書「Improving Timely, Accurate, and Complete Registration and Reporting of Summary Results Information on ClinicalTrials.gov」(ClinicalTrials.govへのタイムリーで正確かつ完全な試験登録と試験結果報告の改善)が発表されたことを受け、臨床試験ニュースサイトClinical Trial Vanguardのブログ記事「FDA Needs To Release ClinicalTrials.gov Guidance Now」では、CTTIの報告書の主な内容とメッセージが詳述されています。
訳注)CTTI:Clinical Trials Transformation Initiative。2007年に米国デューク大学とFDAが共同で設立した、臨床試験の品質・効率の向上を目指す産学官連携組織。

6.3 Gattrellらは、専門家らの合意に基づく生物医学研究に特化した初の報告ガイドライン「ACCORD (ACcurate COnsensus Reporting Document): A reporting guideline for consensus methods in biomedicine developed via a modified Delphi」(デルファイ変法により開発された生物医学における合意形成法の報告ガイドライン)を発表しました。本ガイドラインは、論文で合意形成法を報告する際に、著者が完全かつ透明性のある方法で正確かつ詳細な論文を執筆できるよう支援することを目的としています。

7. 開発戦略ニュース

7.1 Heyらはオープンアクセス論文「A Future European Scientific Dialogue Regulatory Framework: Connecting the Dots」(欧州における今後の科学的対話の枠組み:プロセスの統合と最適化)を発表しました。本論文は、EMAが製薬企業に提供している「科学的助言」(SA)(訳注:PMDAの対面助言に相当)にアクセスするための複数のオプションが直面している課題を示しています。また、医薬品開発の科学的ニーズに応えるために、現在のSAのオプションを統合・最適化できる方法を考察しています。

7.2 マスタープロトコル試験は、従来の試験デザインの課題に対処する方法として実施が増えつつあります。Laura C. Collada Aliのウェブ記事「Navigating the Future of Clinical Research: Master Studies and Crafting a Comprehensive Protocol」(今後の臨床研究の針路:マスタープロトコル試験と包括的プロトコルの作成)では、マスタープロトコル試験の概念を探り、関連する臨床試験プロトコルを作成する際に重要となるコンテンツをまとめています。

7.3 世界医師会(WMA)の「ヘルシンキ宣言」2024年改訂に向け、最後の定期的な見直しが、新たな作業部会によって2023年に実施されました。すべてのステークホルダーと一般からの意見を最大限に反映するため、世界医師会は作業部会が作成した改訂案を公開してパブリックコメントを募集します。現在、募集の第1期中であり、コメントは世界医師会の公式サイトの指示に従って2024年2月7日まで提出可能です。第2期募集は、追加のトピックが公表される春に実施される予定です。

8. 人工知能・機械学習

2024年1月24日、欧州委員会は、EUの価値観とルールを尊重する信頼可能な人工知能(AI)の開発において、欧州のスタートアップ企業と中小企業を支援するための一連の施策を開始しました。これは、EUにおいて信頼可能なAIの開発、展開、導入を支援する、世界初の包括的な欧州AI規制法案に関して、政治的合意が2023年12月に得られたことによります。詳しい情報とプレスリリースはこちらでご覧頂けます。

9. アジアの規制当局のニュース

2024年1月16日、マレーシアの国立医学研究登録レジストリ(NMRR)は、下記の文書の改訂版などを始め、最新の開発情報を発表しました。
・「Data Elements and Parameters for NMRR Submission (V2.1)」(NMRR提出用のデータ項目とパラメーター、バージョン2.1)
・「User Guideline for Investigator/CRA – New Research Registration & Other Submission Purposes, NMRR v2.0」(研究者・CRA用ユーザーガイドライン:新規研究登録および他の提出目的、NMRRバージョン2.0)

 

翻訳:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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CORE Reference News 2024年1月15日号

【CORE Reference Newsとは】
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※本ブログ記事は、クリノスがCORE Reference Teamの許諾を得て参考用に和訳したものです。正確な内容や解釈は英語原文と各ニュース中のリンク先でご確認下さい。本ブログ記事の無断転載・転用は堅く禁止いたします。

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  • CDER:Center for Drug Evaluation and Research(米国医薬品評価研究センター)
  • CIOMS:Council for International Organizations of Medical Sciences(国際医学団体協議会)
  • CTIS:Clinical Trials Information System(臨床試験情報システム)
  • CTR:Clinical Trials Regulation(臨床試験規則)
  • EMA:European Medicines Agency(欧州医薬品庁)
  • EU/EEA:European Union/European Economic Area(欧州連合/欧州経済領域)
  • EudraCT:European Union Drug Regulating Authorities Clinical Trials
  • FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
  • HMA:Heads of Medicines Agencies(欧州医薬品規制当局首脳会議)
  • ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)
  • MHRA:Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(英国医薬品医療製品規制庁)
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  • RWE:real-world evidence(リアルワールドエビデンス)

 

1. EU CTRとCTIS

1.1 CTISに記録されたEU加盟国の祝日リスト2024年版が、EMAのサイトで公開されました。

1.2 EMAは、CTISの機能に関する「CTISウォークイン・クリニック」を2024年1月24日16時~17時(中央ヨーロッパ時間)に開催します。参加者は事前の質問を、Slidoのサイト経由でイベントコード「#clinic241」を使用して2024年1月15日まで提出できます。

1.3 2023年11月29日に開催されたCTISショート説明会「Training materials, CTIS pre-requisites, and updates on transparency rules」(研修資料、CTIS利用要件、透明性規則の最新情報)のビデオ録画がオンライン公開されました。こちらからダウンロード可能です。

1.4 新型コロナウイルス感染症後遺症(PASC)の治療法と予防法の臨床エビデンス生成に関して、EMAが開催したワークショップのビデオ録画が公開されました。本ワークショップでは、臨床試験での適切な患者集団の選定や、適切な有効性エンドポイントの設定などが取り上げられています。

1.5 臨床試験調整諮問グループ(CTAG)の議事録(2023年11月27日会議開催)と、CTRとCTISに関する第2回調査の結果報告スライドが、こちらからダウンロード可能です。

2. 英国MHRAのニュース

MHRAは、患者のタイムリーな医薬品アクセスをサポートするため、新たな有効成分の医薬品販売承認申請(MAA)や適応拡大申請のバリエーションに関する運用情報を共有するプロセスを開発しました。医療システムパートナーと共有する運用情報の目的や、共有する情報の性質、同意、同意の撤回、情報管理プロセスなどについて、「Operational Information Sharing Guidance」(運用情報共有ガイダンス)に詳しく記されています。

3. 米国FDAのガイダンスとニュース

3.1 次回のICH総会(2024年6月4~5日開催予定)に先立ち、FDAとカナダ保健省は、関係者に情報を提供して意見を募るための公開ミーティングを共同開催する予定です。ミーティングの参加登録はこちら。アジェンダはこちらからダウンロード可能です。

3.2 米国の臨床試験登録サイトClinicalTrials.govは、「Notices of Noncompliance and Civil Money Penalty Actions」(不順守および民事制裁金の措置に関する通知)を改正しました。本通知には、過去に臨床試験の登録・報告義務を怠った組織・個人の名称、試験ID(NCT番号)、FDAからの違反通知、罰金の一覧表が掲載されています。

3.3 ClinicalTrials.govのホームページに、「Submit Studies」というセクションが新設されました。本セクション内の「PRS Help Resources」では、臨床試験の登録方法や試験結果の提出方法などを確認できます。また、「Policy」というセクションも新設され、登録項目やFAQなどが掲載されています。

3.4 ClinicalTrials.govへの臨床試験結果提出の期限延長要請に関して、米国国立衛生研究所(NIH)発出の通知「Clinical Trials Results Information Submission: Good Cause Extension (GCE) Request Process and Criteria」(臨床試験結果情報の提出:正当な理由による延長要請のプロセスと判断基準)が2024年1月に改正されました。本改正では、提出期限延長要請の理由が「正当でない」と判断されるケースに複数の追加がありました。

4. リアルワールドデータ

欧州製薬団体連合会(EFPIA)と欧州共同希少疾患プログラム(EJP RD)は、希少疾患のリアルワールドデータなどに関するウェビナーを2024年1月26日に共同開催します。タイトルは「Real-World data, Machine learning and Deep analytics in rare diseases: Regulatory grade data collection for marketing authorization submissions – what is buzz, what is realistic?」(希少疾患におけるリアルワールドデータ、機械学習、ディープ・アナリティクス:販売承認申請のための規制グレードのデータ収集 ― バズとは何か?現実的とは何か?)。本ワークショップは参加無料ですが、事前登録が必要です(2024年1月25日受付締切)。

5. 透明性・情報開示のリソースとニュース

5.1 2024年2月6~8日にPHUSE(Pharmaceutical Users Software Exchange)が開催する「PHUSE Data Transparency Winter Event」(データの透明性に関する冬季イベント)の参加申込受付が始まりました。本イベントはバーチャル開催で、3日間の各日とも15時~17時30分(グリニッジ標準時)にプレゼンテーションが行われます。また、パネルディスカッションや質疑応答も毎日開催されます。登壇者や抄録、参加申込情報などの詳細はこちらをご覧下さい。

訳注)PHUSE:Pharmaceutical Users Software Exchange。製薬企業やIT企業などのデータマネージメントや生物統計、電子臨床データ、毒性、病理、薬理などの各専門家ボランティアから成る国際的非営利組織。FDAやEMA、CDISCなどの規制当局・標準組織などに対する業界の代弁者。

5.2 欧州メディカルライター協会(EMWA)の季刊誌『Medical Writing』2023年12月号(バイオテクノロジー特集)に、「Overcoming confidential information challenges faced by study sponsors」(治験依頼者が直面する機密情報の課題の克服)という記事が掲載されています(著者:Elliot Zimmerman)。記事全文はこちらからダウンロード可能です。

5.3 米国のClinical Trials Transformation Initiative(CTTI)は、臨床試験の登録と結果報告に関する要因と障壁を調査しました。調査報告書「Improving Timely, Accurate, and Complete Registration and Reporting of Summary Results Information on ClinicalTrials.gov」(ClinicalTrials.govへのタイムリーで正確かつ完全な試験登録と試験結果報告の改善)には、登録・報告の義務を負う臨床試験の改善に関する提言が示されています。報告書の概要はこちらでご覧頂けます。

訳注)CTTI:Clinical Trials Transformation Initiative。2007年に米国デューク大学とFDAが共同で設立した、臨床試験の品質・効率の向上を目指す産学官連携組織。

5.4 臨床試験の重大な違反の最初の2件がEU CTISのサイトで発表されました。この2件の詳細をご覧になりたい方は、EU臨床試験データベースで「Advanced Criteria」をクリックし、「Serious Breach」のチェックボックスにチェックを入れて検索して下さい。

5.5 2024年1月、ClinicalTrials.govはNIH発出の通知「Clinical Trials Results Information Submission: Good Cause Extension (GCE) Request Process and Criteria」(臨床試験結果情報の提出:正当な理由による延長要請のプロセスと判断基準)の改正版をサイトに掲載しました。本通知には、正当な理由によりClinicalTrials.govへの臨床試験結果提出の期限延長要請を提出するプロセスが示されています。本改正では、提出期限延長要請の理由が「正当でない」と判断されるケースに複数の追加がありました。また、新たなFAQも追加されています。

6. 人工知能・機械学習

欧州希少疾患共同プログラム(EJP RD)が2024年1月26日に開催予定のオンライン・トレーニング・ウェビナーの詳細は、前述の「4. リアルワールドデータ」セクションをご覧下さい。

7. アジアの規制当局のニュース

タイ臨床試験レジストリ(TCTR)は、2024年1月1日付でMedical Research FoundationからFoundation for Human Research Promotionに移管されました。登録システムの運用については、追加情報が後日提供される予定となっています。TCTRは、財政支援不足のため、2023年11月より段階的に運営を停止しています。

 

翻訳:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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医薬論文・報告書のIMRAD形式って何?

医薬分野のレポート(学術論文・治験報告書など)の形式として、基本の「き」である「IMRAD形式」をご存知ですか?製薬企業・CROで実施させて頂いている社内英文メディカルライティング研修で、この形式をご存知ない受講者の方が意外に多く、「他にも知らない方が結構いるかもしれない。知らないなんて勿体ない!」と思いましたので、本ブログでご紹介したいと思います。

 

1. IMRAD形式とは

まず、「IMRAD」は「イムラッド」と読みます。これは何かと言いますと、下記の5つの英単語の頭文字をつなげた略語です。

Introduction(緒言・序論)
Methods(方法)
Results(結果)
And
Discussion(考察)

もうお気付きだと思いますが、「IMRAD」は学術論文の代表的な構成を表しています。形式の名称はご存知なくても、「この論文構成は知っている」という方が多いのではないでしょうか。筆者も、論文の構成要素・順序は知っていても、大学病院退職後に医薬翻訳者を目指して英語論文の書き方の勉強を始めるまで、構成に名前が付いているとは知りませんでした。

IMRAD形式は論文本文だけでなく、抄録(abstract)にも採用されていることが多いですし、ポスター発表なども同じ構造・順序の場合が多いです。

2. 製薬文書のIMRAD形式

製薬分野の報告書も「IMRAD」形式と無縁ではありません。例えば治験総括報告書(CSR)の「概要」(synopsis)や本文の構成は概ね「IMRAD」形式になっています。

また、治験薬概要書(IB)に記載する非臨床試験や臨床試験の要約の構成も「IMRAD」形式に則っている場合が多いですし、要約の段落を分ける箇所は、「IMRAD」の区切りと一致している場合が多いです。

したがって、論文の執筆者・校閲者や翻訳者などだけでなく、製薬分野の文書作成・翻訳に携わる方々も「IMRAD」形式と各構成要素の役割などを理解し、この形式で書けるようになっておく必要があると思います。

ちなみに、私が米国シカゴ大学のメディカルライティング・プログラムでCSRの書き方に関する講座を受講した際、最初の演習は、ICH E3ガイドライン「治験総括報告書の構成と内容」の各項を「IMRAD」の各構成要素に分類することでした。「アメリカではこのような演習を通じて、メディカルライターたちにCSRの構成要素と記載順序を理解させるだけでなく、ICH E3ガイドラインの問題点まで気付かせているのか!」と感心しました。興味のある方はこの演習をご自身で実施なさってみて下さい。

3. IMRAD形式を知る3つの利点

(1)医薬分野の論文・報告書の基本的な枠組みを理解して慣れれば、これらの文書を組み立てやすく、書きやすく、訳しやすくなります。

(2)読者も、「IMRAD」形式で書かれていることを前提にしている場合が多いので、「IMRAD」形式で作成すれば、論文を読んでもらえる確率が上がったり、文書の内容を読者に伝えやすくなったりします。

(3)「IMRAD」形式の知識は、医薬分野の論文・報告書を読む際にも役立ちます。例えば、話の流れ・展開や論旨を理解しやすくなったり、欲しい情報を探しやすくなったりします。

4. IMRAD形式の学習法

「IMRAD」形式に関する情報は、論文の書き方に関する本やネット上に豊富に存在しますので、簡単に入手することが出来ます。お好みの媒体でいろいろご覧になってみて下さい。(例:IMRADのWikipedia:英語はこちら、日本語はこちら

5. IMRAD式文書を書くコツ

筆者が過去30年間に数え切れないほどの論文や製薬関連文書を、翻訳業務や英文ライティング教育現場などで見て来た中で、日本人によく見られる間違いや問題点に基づいて、また、米国メディカルライター協会(AMWA)のワークショップなどで学んだ論文や治験関連文書の書き方に基づいて、セクション別にポイントをお示しします。

(1)Introduction(緒言・序論)

  • 総論から各論に移る書き方が一般的
    いきなり自分の研究・治験について書き始めるのではなく、まず総論的な概説から始めて、徐々に対象を狭めていき、最後に自分の研究や治験などにについて書きましょう。
  • 研究・治験等の説明は概要のみで十分
    具体的な方法や結果は各々のセクションに記載するので、イントロに細かく書き過ぎないようにしましょう。

(2)Methods(方法)

  • 英語の場合、原則として方法・手順を命令形で書かない
    方法・手順を書く際も、他のセクションと同様に、主語のあるセンテンスを作りましょう。(例:「Measure blood drug concentrations every hour.」ではなく「Blood drug concentrations were measured every hour.」)
  • 使用した薬剤・実験器具等は「製品名」ではなく「一般名」で書く
    科学研究の報告では「再現性」が重要なので、誰でも同じ研究方法を再現できるように、「製品名」ではなく「一般名」で書くのが原則です。特に英語で書く際は、薬剤・実験器具などの中には日本のみで販売されている製品や、海外では名称が異なる製品などがあることを念頭に置きましょう。製品名を書く必要がある場合は、一般名の後に括弧で括って製品名や製造元などを書き添えます。括弧内に記載すべき項目や書き方は、論文の投稿規定や企業のスタイルガイドなどで確認して下さい。
  • 倫理面についても忘れずに記載する
    研究論文で記載漏れが多く見られますので、研究内容に応じて、「ヘルシンキ宣言」の遵守や倫理委員会による研究承諾、被験者の同意取得(インフォームド・コンセント)などの必要事項を漏れなく記載しましょう。
  • 「Results」に統計解析の結果を記載する場合は、必ず解析方法を「Methods」に記載する
    研究論文で記載漏れが時々見られます。具体的な解析方法や有意水準の設定などを「Methods」のセクションに書きましょう。

(3)Results(結果)

  • 論文は、Methodsと同じ小見出しを同じ順序で使って結果を書くとわかりやすい
    「Results」の章立てを踏まえて「Methods」を構成しておくと、査読者や読者にわかりやすい論文に仕上がります。
  • 事実を淡々と書き、原則として「意見」は書かない
    「意見・考察」は「Discussion」のセクションに書くので、「Results」のセクションでは、原則として「意見」を交えず客観的に「事実」のみを書きましょう。
  • 図表のタイトル・説明を本文中に書く必要なし
    日本語の論文や治験報告書などでは、「有害事象の発現状況を表1に示す」のように、図表の説明が本文中に書かれていることが多々あります。しかし、関連する結果に図表番号を補足的に示すのみで十分です(例:有害事象の発現率は12.3%であった(表1))。日本式の英語文書は外国人に違和感を与えるので注意しましょう。

(4)Discussion(考察)

  • 結果の要約だけではNG!
    「Discussion」の記載内容が結果の要約に過ぎないことが、依然として論文でも治験総括報告書などでも時々見られます。海外の投稿論文でも多いようで、米国メディカルライター協会(AMWA)の論文関連のワークショップでも、多くの講師が「結果のサマリーだけではダメ!」と言っています。「Discussion」の見出しどおり、結果を「考察」して、解釈や意義などを記載しましょう
  • 「Results」のセクションに記載していない結果を、「Discussion」のセクションで新たに提示しない
    「Discussion」で言及するデータは、すべて「Results」に記載しておくのが原則です。読者が戸惑わないよう、「Results」に伏線を張っておきましょう。
  • 「事実」と「意見」を明確に区別して書く
    記載内容が「事実」なのか「意見」なのか、よくわからない文章を時々見掛けます。日本語は主語を省略することが多いので、余計にわかりにくくなりがちです。英訳する際も、原文の意図が「事実」と「意見」のどちらなのかを正確に把握して、読者に区別が明確にわかるような英文を作りましょう。
  • 英語で意見を書く場合、誰の意見なのかを明示する
    日本語の考察では「~と思われる」「~と考えられる」という表現がよく使われるため、日本人の英文ライティングや和文英訳では「It is considered/ thought/ believed that …」構文が多用される傾向があります。しかし、この構文は誰が考えているのかを示していないため、「世間では~と考えられている」という意味であり、「著者は~と考える」という意味ではありません。つまり、「誤訳」です。著者の意見を述べたい場合は、「We consider that …」のように、誰が考えているのかを出来る限り明示しましょう
  • 他人の文献や英文等のパクリ厳禁!
    他人の文書の内容や表現を盗んで、出典を明示せずに使うことは「剽窃」(plagiarism)と呼ばれる不正行為です。投稿論文を剽窃ソフトですべてチェックする医学誌が増えていますが、製薬分野の文書も油断できません。欧米の規制当局に提出する英語の治験総括報告書(CSR)は、規制当局の報告書公開開始により、誰でも無料オンライン剽窃ソフトなどでチェック可能になったからです。英語文書を作成する際は「英借文」が剽窃にならないよう、細心の注意を払いましょう
  • 引用箇所は正しい方法で引用し、出典を必ず明示する
    他人の文書の内容や表現を引用する場合は、「剽窃」と疑われないように、日本語ではカギ括弧で、英語では引用符(quotation marks)で括り、著者の文章と明確に区別するとともに、出典を必ず明示しましょう。
  • ネガティブな面も考察して正直に書く
    誰でもネガティブな面にはあまり触れたくないものですが、良い結果や肯定的な考察だけ書いても、あるいは曖昧な記述でごまかそうとしても、論文の査読者や規制当局の審査官の目は節穴ではありません。問題点を鋭く指摘されたり、質問されたりして、対応が必要になることや、査読や審査が長引くことも珍しくないので、好ましくない結果や、研究・治験の限界・問題点などを先回りして書いておくほうが得策だと思います。

6. IMRAD式文書の英語文例集

メディカルライターや医薬翻訳者、論文執筆者などの方々から、「英語の論文や製薬関連の報告書などでよく使われる文章パターンや例文を教えてほしい」というご要望をよく頂きます。その際に私がいつもお薦めしているのは、「Academic Phrasebank」というサイトです。

これは、英語が母国語でない研究者が英語論文を書く際の参考になるように、英国のマンチェスター大学が作成した構文リストで、米国メディカルライター協会(AMWA)の会員専用メーリングリストで紹介されていました。

IMRAD形式のセクション別だけでなく、「比較」「例示」「分類」等のカテゴリー別でも、よく使われる構文が多数例示されていて大変便利です。例示されている構文の多くは製薬関連文書にも利用可能ですので、医薬分野で「良い英文パターン」が思い付かない場合や、論文調の英語文書にふさわしい構文や定型文を知りたい場合などに、ぜひご活用下さい!ご自身の記憶の中の限られた文章パターンで英文を作ろうとするより、「Academic Phrasebank」を見て、よく使われる構文を知るほうが、英文を適切に、しかも速く作れて効率的だと思います。

7. まとめ

  • IMRAD形式は学術論文の代表的な構成
  • IMRAD形式は製薬分野の報告書等にも採用されている
  • IMRAD形式の詳細やコツは、論文に関する参考書やサイト等で学べる
  • IMRAD形式の知識はライティング・翻訳だけでなくリーディングにも役立つ
  • IMRAD式文書の英語文例集は「Academic Phrasebank」がおススメ

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著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
→ 詳しいプロフィールはこちら

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実は誰でも医学翻訳者になれる!資格認定制度を阻む3つの要因

プロの医薬翻訳者になるのに必要な資格は?

医薬翻訳に興味を持つ方から「医者や看護師、薬剤師など医療従事者の資格がないと医学翻訳者になれないですか?」、「プロの医学翻訳者は、何か試験に合格しないとなれないですか?」などと質問を受けることがあります。

また、医薬翻訳を外注する機会のある企業や医師などからは「質の高い翻訳がなかなか手に入らず、翻訳者の語学力や専門知識に疑問を感じることが多いが、医学翻訳は資格制ではないのか?」などと尋ねられることがあります。

国内の通訳・翻訳業務で、資格なしに請け負うことが法律で禁止されているのは、いわゆる「通訳ガイド」だけです。(追記:2017年5月26日に改正通訳案内士法が国会で成立し、無資格でも有償で通訳ガイドを行えるようになりました。)

翻訳に関しては、どの分野でも認定試験や資格制度は存在せず、公的な免許や資格は一切必要ありません技量や経験を問わず誰でも「プロの翻訳者」を名乗って翻訳業務を請け負うことが出来ます

医薬翻訳者の翻訳レベルは実際どの程度

翻訳業界への参入は敷居が低いため、この20年間に医薬翻訳者のすそ野は急速に広がり、医学・製薬業界で「なくてはならない存在」になりました。

その反面、大多数の医薬翻訳者が経験年数に関わらず初心者レベルで、訳文の質が低いことが多いです。そのため、以下のような悪循環が長年続いています。訳文の質が低い⇒依頼者側の不満が根強い⇒医薬翻訳が「専門職」として十分に認識されない⇒翻訳の報酬が低い⇒有望な人材が集まりにくい⇒初心者レベルの翻訳者ばかり増える⇒訳文の質が低い。

科学技術文書の最大の役割は「情報を正確に伝えることであり、特に医薬翻訳では訳文の内容が人の命に関わる場合が多いため、誤訳は1つも許されません重大な誤訳や思い違いを防ぐには、高い語学力読解力だけでなく幅広く深い専門知識が必要です。また、正確でわかりやすい訳文を作るには高度な翻訳技術も必要です。

しかし、これらの能力を兼ね備えた医薬翻訳者は、依然としてほんの一握りしかいません。「専門職」として優秀な人材を育て、医薬翻訳全体のレベルアップを図るためには、通訳ガイドのように認定試験を実施し、「医学翻訳士」のような公的資格を設ける必要があるのではないでしょうか。

医薬翻訳で資格認定制度が難しい理由

業界内で統一した認定試験を実施して、合格者に資格を付与するとなると、下記のような3つの問題が生じて来ます。
1. どの団体が実施するのか
2. 誰が出題・評価するのか
3. 多様な医薬翻訳を1つの資格でカバーできるのか

問題1:どの団体が実施するのか
試験を実施するには専門の組織が必要ですが、残念ながら医薬翻訳の業界団体は存在しません。そもそも翻訳業界全体でも「日本翻訳連盟」(JTF)、「日本翻訳協会」(JTA)、「日本翻訳者協会」(JAT)など複数の団体が存在し、統一団体がありません。そのため、JTFやJTA、翻訳学校などが各々独自に検定試験(実技試験)を実施しており、業界統一試験はありません。

このような状況の中、翻訳サービス提供に関する国際規格「ISO 17100」(2015年発行)に基づき、日本規格協会に「翻訳者評価登録センター」(RCCT)が創設され、2017年4月1日から「翻訳者登録制度」がスタートしました。

RCCTは医薬分野を含む4分野の検定試験を実施するとのことですが、JTFの「ほんやく検定」を新規翻訳検定として登録したことが発表されたので、新たに試験を創設するのではなく既存の検定試験を利用するようです。今後、JTFの「ほんやく検定」が業界統一試験のような役割を果たすようになるのでしょうか。登録制度の有用性なども未知数であり、大阪と東京で開催される説明会の内容に注目が集まるところです。

問題2:誰が出題・評価するのか
真に「プロ」と呼べる優秀な医薬翻訳者が一握りしかいないため(特に英訳)、適切な試験問題を作成して、唯一絶対の「正解」が存在しない訳文の良し悪しを文脈に応じて見極め、受験者の翻訳レベルを正確に判定できる医薬翻訳者は極めて少ないと思われます。そのため、どのような団体が資格認定試験や検定試験を実施するにしても、医薬分野の試験の品質担保が難しいことは容易に想像できます。

問題3:多様な医薬翻訳を1つの資格でカバーできるのか
一口に「医薬翻訳」と言っても、扱う内容や文書の種類は多岐に渡っています。大きく分けても「論文翻訳」、「製薬に関する翻訳」、「医療機器に関する翻訳」、「その他」(診断書、特許など)という4つの異なるジャンルがあり、いずれも様々な領域に細分化されます。さらに、どのジャンルも「和訳」と「英訳」の2種類があり、「医薬翻訳」がカバーする範囲は意外と広いです。

したがって、1人の医薬翻訳者がすべてのジャンルに精通し、オールマイティにこなすことは現実的に不可能です。実際、理系出身で優秀な医薬翻訳者ほど、自分の専門に応じて得意なジャンルに特化している傾向が見られます。このような状況下で、「医薬翻訳」と一括りにして実技試験を実施したり、資格を与えたりすることに意味があるのか疑問が生じて来ます。かと言って、試験や資格を細分化するのは煩雑です。

これらを踏まえると、「医薬翻訳」と一括りにして統一試験を実施する場合には、いずれの翻訳方向についても、医薬翻訳の全ジャンルに共通する基本的な翻訳スキルしかテストできないかもしれません。

こんな統一試験なら実現可能?

基本的な翻訳スキルしか評価できなくても、業界統一の認定試験を実施する意義や価値はあると思います。例えば英訳では、基本的な英文法や医薬英文の書き方のルール(例:punctuation、略語の使い方)さえ身に付いていない医薬翻訳者が多いので、どの医薬分野の英訳にも最低限必要な知識をテストして担保するだけでも、翻訳スキルの客観的指標が欲しい翻訳依頼者にとって、そして医薬翻訳者のプロ意識・信頼性の向上や「専門職化」にとって有益かもしれません。

欧米でも、例えば米国メディカルライター協会(AMWA)のメディカルライティング認定試験(MWC)や、生命科学論文のエディティング認定試験(BELS exam)は、いずれも各分野共通の基礎知識中心に出題されており、マークシート方式で実施されています。ライティングやエディティングのスキルを調べる実技試験ではありません。

医薬分野の全ジャンルに共通する基本的な翻訳知識をテストするだけであれば、出題者や審査員を務められる翻訳者の範囲が広がり、統一試験の実施可能性や持続性が向上するという利点もあります。

したがって、医薬翻訳の統一試験としては、手始めに医薬分野の基本的な翻訳知識に関するマークシート方式の筆記試験を実施するのが良いかもしれません。その後、必要に応じてレベル別の実技試験を順次追加していけば良いのではないでしょうか。

新たに統一試験制度を創設するのが難しいようであれば、医薬分野の既存の英語検定試験(例:日本医学英語教育学会の医学英語検定試験、日本CRO協会の治験実務英語検定)を、医薬翻訳レベルの指標の1つとして活用する方法もあると思います。

まとめ

医薬翻訳者のすそ野が大幅に広がり、「医薬翻訳」という翻訳ジャンルが十分確立した現在、次の段階として、翻訳の質を担保する業界統一認定試験制度を導入・確立して、医薬翻訳の「専門職化」に進む必要があるのではないかと思います。

「医薬分野における英文作成外注の問題点と対策」セミナー開催決定!
~英文品質向上のために発注側と受注側は何をすべきか~
2017年5月24日(水) TKP市ヶ谷カンファレンスセンター(東京都新宿区)
セミナーの詳細はこちら
(追記:本セミナーは盛況のうちに終了いたしました。
多数のご参加ありがとうございました)

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CSRマニュアル「CORE Reference」を読む3つのメリット(2016年AMWA年次総会の参加報告)

昨年(2016年)も米国メディカルライター協会(AMWA)年次総会に参加して来ましたので、遅ればせながら報告いたします。2016年の総会は10月5~8日にコロラド州デンバーで開催され、名称が「annual conference」から「Medical Writing & Communication Conference」に変わりました。

日本からの参加者は今年も約15名で、大部分は国内製薬企業のメディカルライターの方でしたが、フリーランスのライターや医薬翻訳者の方も数名いらっしゃいました。参加者名簿を見る限り、国内のアカデミアやCRO、翻訳会社からの参加はなかったようです。

会期中には、毎年恒例の日本人参加者の夕食会を開催しました。医薬分野の英訳を手掛けるネイティブ翻訳者の方も数名参加して下さり、医学英語の勉強法からアメリカ大統領選まで幅広い話題で盛り上がり、今回も楽しく有意義な時間を過ごすことができました。

AMWAオープン・セッションで個人的に最も期待していたのは、2015年同様、治験総括報告書(CSR)の作成マニュアル「CORE Reference」の説明会で、今回も多くの参加者が集まり盛況でした。欧州メディカルライター協会(EMWA)とAMWAが共同で「CORE Reference」を作成した経緯などは、本ブログの第15回「製薬業界のメディカルライター必見!EMWAとAMWAがCSRマニュアル『CORE Reference』を共同作成中」にまとめてありますので、背景を知りたい方はそちらをご覧頂きたいと思いますが、ついに2016年5月に「CORE Reference」がネット上で公開され、利用が始まりました「CORE Reference」公式サイト

CSRの作成に関しては、ご存知のとおり「ICH E3ガイドライン」という国際的な指針があり、製薬企業はこのガイドラインに基づきながら、各々工夫を凝らしてCSRを長年作成しているので、すでに作成方針やテンプレートなどが確立されている企業が多いと思います。そのため、「CORE Reference」公開前から「何を今さら・・・」という疑問の声も聞かれます。

「CSRのマニュアルなど新たに必要ない」と考える製薬企業が多いかもしれませんが、AMWAのオープン・セッションでの説明を聞き、「CORE Reference」を読む限り、CORE Reference」はICH E3ガイドラインに基づいているだけでなく、欧米の規制当局の最近のガイダンスも考慮して作成されているので、CORE Reference」を利用すると海外の規制を遵守しやすくなると思います。また、「CORE Reference」は申請のためだけではなく、臨床試験データの公開も視野に入れて作成されているようです。

ご存知のとおりヨーロッパの規制当局(EMA)が新薬の臨床試験データの公開を義務付けたことから、薬剤の開発国・地域に関わらず、ヨーロッパで申請するすべての医薬品の臨床試験データを誰でも見られるようになりました。つまり、アメリカやアジアなどで書かれた臨床試験データもEMAを通じて公開されるということです。このような状況を踏まえ、いかにCSRに手を加えずにそのまま公開できるかということにも、「CORE Reference」は配慮して作られている印象を受けます。

そのため、「CORE Reference」のオープン・セッションでは、臨床試験データの公開時に規制当局が求める「透明性」(transparency)や「データの利用しやすさ」(data utility)と、被験者・開発側の個人情報(protected personal data [PPD])や医薬品の機密情報(commercially confident information [CCI])の保護とを、どのように両立させるかという説明に多くの時間が割かれていました。

別のオープン・セッション「Public Access to Clinical Documents — The New Transparency Policies in Europe」でも、「PPD」と「CCI」という略語が頻繁に使われ、これらの詳しい内容や保護方法に関する説明がありました。臨床試験データの公開におけるキーワードとして、この2つの用語は覚えておいたほうが良さそうです。

なお、「CORE Reference」は規制やガイドラインではないので、強制力はありません。また、CSRのテンプレートでもありません。欧米の各メディカルライター協会の会員で医薬品の申請資料作成に携わるメディカルライター(regulatory writer)らが意見をまとめた提案に過ぎません。作成に際しては日米欧3極とカナダの規制当局に相談したそうですが、関与を公式に表明しているのはカナダ当局のみです。また、欧米での利用度や普及範囲は、しばらく様子を見ないとわからないのが現状です。

しかし、「CORE Reference」は一読の価値があると思います。その理由は主に3つあります。

  1. 欧米のベテランの製薬専門ライターらの知識や経験などが色濃く反映されているので、欧米のCSR作成の考え方などを窺い知ることができる上に、ICH E3ガイドラインの欠点を補う形で作られているので、CSR改善のヒントが得られます。
  2. 臨床試験データの公開にCSRを利用する際に注意すべき点や、公開を前提に効率よくCSRを作成するコツなどがわかります。
  3. 欧米のベテランの製薬専門ライターらが質の高い英語で書いているので、正確かつ適切な英語表現を知ることができ、CSRの英文ライティングや和文英訳の参考になります。

このような利点がありますので、CSRの作成・翻訳に携わる方は、「CORE Reference」の利用の有無に関わらず、お手すきの折にでも一度ご覧になってみて下さい。公式サイトからどなたでも無料でダウンロードできます。また、メーリングリストに申し込むと、関連する最新情報が「CORE Rerference email」として随時無料で届くので、公式サイトから申し込んでおくと便利だと思います(申込ページはこちら)。

臨床試験データ公開のキーワード
・protected personal data (PPD)
・commercially confident information (CCI)

追記1:クリノス代表・内山雪枝が「CORE Reference」に送ったメールの一部が、「CORE Reference」公式サイトの「Adoption and Use」(利用者の声)に掲載されました。興味のある方はこちらをご覧下さい。

追記2:2018年7月にクリノスは、「CORE Reference email」の和訳とその配信に関する許諾を「CORE Reference」より取得しました。詳しいことはこちらをご覧下さい。

関連サイト・記事
CORE Reference公式サイト
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『AMA Manual of Style』の勉強法

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独学可能!英語医学論文の書き方をマスターする4つの方法

製薬企業のメディカル・アフェアーズ部門やメディカル・ライティング部門、アカデミアの医師・研究者、フリーランス医薬翻訳者などの方々から、「英語論文の書き方を知りたい」「論文英訳のコツを知りたい」という声を度々耳にします。しかし、レギュラトリー・ライティング(regulatory writing:医薬品の承認申請に関するライティング)と異なり、英語医学論文の書き方に関しては、医師・研究者向けに参考書が国内外で多数出版されていて、基本的な事柄はほとんど独学できます

そこで私が実際に使って非常に役に立った参考書の紹介も含めて、1人でも出来る効果的な学習法を4つご紹介します。

 

1. 参考書の活用

(1)スタイルガイド(スタイルマニュアル)
医学論文の英文ライティング・英訳の基本として、世界に通じる医学英文の書き方のルールやスタイルを知る必要があります。その参考書として最もお薦めなのは『AMA Manual of Style』です。これは世界的に有名な英文医学誌『JAMA』の詳細な論文投稿規定で、医学英文のスタイルガイドとして、欧米の論文ライター・エディターの「バイブル」となっています。論文に限らず医薬分野の文書を英語で書いたり、英訳したりする機会のある方は必携です!
『AMA Manual of Style: A Guide for Authors and Editors』
by American Medical Association

追記:『AMA Manual of Style』第11版が2020年2月に発刊されました。

「いきなり英語で読むのはハードルが高い」という方は、『AMA Manual of Style』の主なポイントを日本語で解説した拙著から読み始めると良いかもしれません。
『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』シリーズI改訂版
by 内山雪枝(発行:サイエンス&テクノロジー株式会社)
(追記:本書籍シリーズは2019年4月に全巻完売・絶版となりました)

『AMA Manual of Style』の利用法や効果的な学習法などについては、過去のブログ記事をご参照下さい。
『AMA Manual of Style』オンライン版の国内利用
『AMA Manual of Style』の勉強法
英文ライティング用語の日本語訳リスト

(2)国内の参考書
必ずお薦めしている書籍は以下の2冊です。

・『理科系の作文技術』by 木下是雄(発行:中公新書)
(日本語のscientific writing入門書のロングセラー。英文の書き方や日本語と英語の違いにも言及していて、英語論文作成にも非常に有用)

・『医学論文英訳のテクニック』by 横井川泰弘(発行:金芳堂)
(医学英語関連書籍を多数出版している横井川氏のロングセラー。実用的で例文が豊富)

他の英語医学論文関連の参考書は、オンライン書店で検索したり、大手書店の医学書売場でいろいろ手に取って見比べたりして、ご自分の英語レベルや学習目的などに合うものを選ぶと良いでしょう。

(3)海外の参考書
欧米のメディカルライターやネイティブの医薬翻訳者の間で定評のある代表的参考書を3冊紹介します。いずれも英語のregulatory writingの勉強にも役立ちます。

・『Essentials of Writing Biomedical Research Papers』 2nd Edition by Mimi Zeiger
(説明の英文がわかりやすい。悪文とその改善例や練習問題が豊富で勉強しやすい)

・『How to Write, Publish, & Present in the Health Sciences』by Thomas A. Lang
米国メディカルライター協会 [AMWA] の講師としても有名なLang氏の著書。抄録・論文だけでなく図表、ポスター、スライドなどの効果的な書き方も解説)

・『How to Write and Publish a Scientific Paper』 8th Edition
by Robert A. Day & Barbara Gastel
(Gastel氏もAMWAの有名講師で、発展途上国の研究者の論文発表を支援する活動も行っているため、英語が母国語でない論文執筆者向けの章あり)

(4)剽窃対策の参考書
昨今は文章や表現の盗用、つまり「剽窃」(plagiarism)のチェックが厳しくなっているので、海外の文献やネット上の英文などから「英借文」をする際は細心の注意を払う必要があります。剽窃の定義・種類から英文ライティング時の注意点や正しい英文引用方法まで1冊で学ぶには、以下の本がお薦めです。

・『英文ライティングと引用の作法:盗用と言われないための英文指導
by 吉村富美子(発行:研究社)

過去のブログ記事も併せてご覧下さい。
英借文では英語表現の盗用に要注意!

2. オンライン情報の活用

ネット上にも英語論文の書き方に関する情報が多数存在するので、信頼性の高いサイトを選んで参照すると良いでしょう。例えば「医学論文を書くための究極サイト」などです。

英語の科学論文でよく使われる構文や文例を知りたい場合は、拙著『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』シリーズIVでも紹介している、英国マンチェスター大学運営のサイト「Academic Phrasebank」がお薦めです。

論文関連の国際的ガイドラインについて知りたい場合は、研究デザイン別にガイドラインを調べられるサイト「EQUATOR Network」が便利です。

3. セミナーの受講

セミナーを受講したいという方は、日本メディカルライター協会(JMCA)や日本医学英語教育学会(JASMEE)のホームページを時々チェックしてみて下さい。これらの団体は英語医学論文の書き方に関する単発セミナーを随時開催していて、ネイティブ講師から講義を受けられることもあります。

4. 質の高い英語医学論文の多読

前述の参考書や構文サイト「Academic Phrasebank」はいずれも非常に有用ですが、これらを参照するだけでは、投稿先に受理されるような正確かつ適切な英文ライティング・英訳は難しいですし、その都度参照していると執筆・英訳作業に時間が掛かってしまいます。

そこで、日頃から多くの英語医学論文を読み、よく使われる専門表現や構文などのパターンを見抜き、様々なパターンを頭の中に蓄えておきましょう。そうすれば、適切な英語表現や構文を素早く思い付くことができます。上記の3つの学習法と並行して、ぜひ英語論文の多読も実行してみて下さい。ネイティブのメディカルライターもこの方法で医学英語や論文の書き方を学んでいますし、そもそも医学英文をスラスラ読めなければスラスラ書けませんから、英語論文の多読は英語論文の書き方の学習に欠かせません

多読用の英語論文の選び方や効果的な多読方法など詳しいことは、拙著『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』シリーズI改訂版で説明していますので、お手すきの折にでもご一読下さい。

5. まとめ

英語論文の書き方や日本語論文の英訳をマスターするのは、独学でも上記のわずか4つの方法で可能です。しかし、一朝一夕でマスターはできませんので、「インプット」(学習)と「アウトプット」(実践)をバランス良く増やして、地道にコツコツ努力を重ねましょう。

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著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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AMWA総会参加ガイド2:自費参加者必見!航空券・ホテル代ゼロで参加する方法

前回、米国メディカルライター協会(AMWA)年次総会の参加ガイドを本ブログに掲載したところ、予想以上に好評で大変嬉しく思っています。過去の参加者の方々からは「こういう情報が欲しかった」「もっと早く知っていれば・・・」などの感想を頂きました。また、今年の総会に最近申し込んだ方によるとconference hotelがすでに満室で、「クリノスのブログどおり、まずホテルを予約すべきだった」とおっしゃっていました。総会参加申込のキャンセル期限が近づくとconference hotelの予約キャンセルが出ることもあるので、諦めずにconference hotelの予約サイトを時々チェックしてみて下さい。

前置きが長くなりましたが、ご好評にお応えしてAMWA年次総会参加ガイドの続編を掲載します。第2弾は、自費で参加する方のための「参加費用削減法」です。ここ数年、フリーランスの医薬翻訳者・メディカルライターで総会に参加される方が毎年1~数人いますし、企業に属していても自費で参加される方もいますので、出来るだけお金を掛けずに参加する方法を私自身の経験に基づいてご紹介します。

AMWA年次総会の参加に必要な費用の主な内訳は総会参加費渡航費宿泊費の3つです。これらをいかに減らすかが鍵になるので、この3つを中心に説明します。

 

1. 総会参加費

総会参加費(conference registration fee)をゼロにする方法は1つだけあります。それはワークショップの講師になることです。講師はボランティアなので、AMWAから講演料などは支払われませんが、総会参加費が免除になるそうです。しかし、この方法は私達日本人にはハードルが高いので、利用できる人は極めてまれでしょう。

その一方で、総会参加費を削減する方法が今年初めて出来ました。それは「早期割引料金」です。6月末までに申し込むと100ドル割引になりました。来年以降も早期割引料金が設定されるかわかりませんが、早期割引を利用すれば総会参加費を若干削減できます。さらに、円高のタイミングを狙えば一層の削減が可能なので、申込受付開始後は為替レートを毎日チェックすると良いでしょう。

総会参加費は全日程参加以外に1日のみの参加費も通例設定されますが、ワークショップは1回の総会当たり4つまで申し込めるので、certificateの取得を目指すなら全日程参加するほうがお得だと思います。

なお、ワークショップに参加するには、総会参加費以外にワークショップ参加費(workshop registration fee)が必要になります。ワークショップ1つ当たりの参加費(2016年は200ドル)が総会参加費に加算されるので、申し込むワークショップの数が多ければ、それだけ費用が増えます。残念ながら今のところワークショップ参加費を減らす方法はありません

 

2. 渡航費

航空会社のマイレージ・プログラムの会員になってマイルを貯め、無料往復航空券を取得すれば渡航費をゼロにできます。飛行機に乗らずに効率良くマイルを貯めるには、航空会社の提携クレジットカードを日常の支払いに多用するのがお薦めです。

 

航空会社とカードの選び方、カード申込のタイミング、カード年会費削減の裏技、効果的なカード利用法などについては、ネット上にたくさん情報があるので、いろいろ調べて、自分の好みやライフスタイルなどに合う方法でマイルを貯めると良いでしょう。

 

3. 宿泊費

3.1 ホテルのポイント利用

渡航費の削減方法同様に、外資系大手ホテルチェーンの会員になってポイントを貯めて、無料宿泊特典を利用すれば宿泊費をゼロにできます。ポイントが足りなくて全日程を無料にできなくても、1泊からポイント利用が可能なので、宿泊費を削減することができます。宿泊時に提携航空会社のマイルも、ポイントと一緒にもらえるホテルチェーンもあり、航空会社のマイルも貯めたい方にとっては「一石二鳥」です。

ちなみにAMWAのconference hotelはシェラトン、ハイアット、ヒルトンのどれか1つ、または2つが指定されることが多いので、スターウッド、ハイアット、ヒルトンのいずれかまたは複数の会員になると良いと思います。(2024年追記:コロナ禍が始まって最初の数年はバーチャル式の開催になりましたが、その後は対面式が再開され、マリオットが会場になっていることが多いです)

たとえこれら3系列からconference hotelが指定されなくても、年次総会が開催されるような比較的大きな都市では会場近くにいずれかの系列のホテルがあることが多いので、自分がポイントを貯めている系列のホテルにポイント利用で泊まって宿泊費を削減・無料化できます。例えば2015年のconference hotelはハイアットでしたが、私は主にヒルトンのポイントを貯めているので、1ブロック隣のヒルトンに泊まってポイントを利用しました。

AMWAのサイトでは、今後数年間の年次総会の開催日・開催地・conference hotelが発表されているので、予定を確認しながら戦略を立てると良いでしょう。

ホテルに泊まらずにポイントを貯めるには、航空会社のマイルの貯め方と同様に、ホテルの提携クレジットカードを利用するのがお薦めです。ホテルチェーンとカードの選び方や、効果的なカード利用法など詳しいことはネットでお調べ下さい。

3.2 ルームシェア

他の参加者と一緒に泊まるのも宿泊費削減法の1つです。アメリカのホテルの料金設定は「1人当たり」ではなく「1室当たり」なので、2人で同じ部屋に泊まれば宿泊費が半額になります。

私はフリーランス時代に、友人のフリーランス医薬通訳・翻訳者と毎回一緒に泊まっていましたが、どこのconference hotelでもチェックアウト時に宿泊費を割り勘にしてもらい、各々のクレジットカードで半額ずつ支払い、1人ずつ領収書を発行してもらえました。気が合いそうな自費参加者がいたら、思い切って誘って一緒に泊まってみるのも1つの手です。数日間寝食を共にすることで、有益な業界情報や深い友情など、嬉しい「おまけ」も得られるかもしれません。

 

4. 領収書の活用

フリーランス・個人事業主の場合は節税のために、上記3つの費用以外の出費についても「領収書」を必ずもらっておくことをお薦めします。

例えば現地の空港・ホテル間の移動費用(例:空港シャトルバスやタクシーの乗車代)は「交通費」として経費に計上できるので、料金の支払い時に領収書をもらっておきましょう。

また、現地では1人での食事は出来るだけ避け、(たとえファストフードでも)他の参加者らと一緒に食べて領収書をもらっておきましょう。仕事の関係者(同業者やクライアントなど)との会食代は「接待交際費」か「会議費」として経費に計上できます。

現金で支払ったドル建ての領収書は、支払日の為替レートで日本円に換算すれば経費処理が可能です。カード払いの場合は必ずカード伝票をもらい、後日届くカード利用明細書で日本円に換算されている金額で処理し、カード利用明細書も証拠として保存しておきます。

このような工夫をすれば、多少なりとも節税が可能です。経費計上の可否や処理方法など詳しいことは税理士にご確認下さい。

 

5. Never give up!

ここまでしてAMWA年次総会に参加したいという方はまれかもしれませんが、経済的な理由で参加を諦めている方の背中を少しでも押したくて、私のAMWA経費削減法を公開しました。

特に、有望な若手メディカルライター・医薬翻訳者の方に1人でも多くAMWAで学んで頂き、今後のメディカルライティング業界や医薬翻訳業界を牽引して頂きたいと願っています。日本からのAMWA参加者は年齢が高めですが、「先行投資」は早いほうが、投資したお金と時間と労力を回収しやすいですから、「いつかAMWAに行ってみたい!」と考えている若手の方には、本ブログを参考に1日も早くAMWA年次総会参加を実現して頂ければ幸いです。

Where there is a will, there is a way.」(為せば成る)です。本気でやりたいことは諦めず、「強い意志」と「賢い知恵」を持って実現・継続させましょう!

 

6. まとめ

  • 総会参加費は、現時点では早期割引を利用する以外に削減法なし。
  • 渡航費と宿泊費は、航空会社のマイルやホテルのポイントを利用すれば無料化や削減が可能。両方ゼロにすれば、総会参加費のみでの年次総会参加が可能
  • フリーランスの場合、現地での支払い時に領収書をもらい、経費に計上すれば節税可能。

※こちらの記事もお勧めです。
AMWA年次総会参加ガイド1:申込~出発後の注意点10個 【初参加でも安心】

 

著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
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AMWA総会参加ガイド1:申込~出発後の注意点10個 【初参加でも安心】

今年も米国メディカルライター協会(AMWA)年次総会に参加するか否かが話題に上る時期になり、知り合いのメディカルライター数人がすでに「申し込んだ」とおっしゃっていました。私も申し込みましたが、毎年、初参加の方から申込・参加の注意点やコツを聞かれるので、AMWA年次総会の参加に関するアドバイスを、3段階(参加申込、出発前の準備、出発後)に分けて以下にまとめました。年次総会の基本情報はAMWAホームページの「Annual Conference」サイトをご覧下さい。

 

1. 参加申込

1.1 まず宿の確保

年次総会の参加申込の前に、まずホテルを予約することをお薦めします。毎年、年次総会の会場として利用されるホテル、もしくは会場となるコンベンションセンターに隣接するホテルが「conference hotel」として指定され、AMWA参加者は割引料金で泊まれます。このホテルに泊まるのが便利ですし、日本人参加者の多くが泊まっていて安心です。

しかし、AMWAが確保している部屋数は限られているので、予約が一杯になってしまうことがしばしばあります。その場合、会場周辺の別のホテルも「conference hotel」として追加指定されることがありますが、会場から徒歩数分~10分ほど離れていることもあります。

また、追加の「conference hotel」が用意されない年もあり、その場合は自分でホテルを探すことになります。しかし、ビジネスシティの秋は大きなイベントや学会などの開催が多いので、AMWA年次総会開催間近にホテルを予約しようとしても、会場周辺は軒並み満室だったり、宿泊料が高騰していたりすることが多いです。

ホテルの予約変更・キャンセルはチェックインの1~7日前まで無料で可能な場合が多いので、AMWA年次総会に参加する可能性が出て来たら、とりあえず「conference hotel」の部屋を予約しておくと安心でしょう。予約の時点で宿泊日数が決まっていない場合は、念のため長めに予約しておき、必要に応じて後日調整するのが得策です。

1.2 ワークショップの申込は早めに

長年定番のワークショップや有名講師のワークショップは人気が高く、早々に申し込みが定員に達して、受付が締め切られることも珍しくありません。お目当てのワークショップがある場合は早めに申し込むと良いでしょう。受付状況はAMWAサイトの年次総会申込ページで確認できます。

1.3 Golden Apple賞を受賞した講師がお薦め

どのワークショップを選べば良いか迷ったら、教え方が上手な講師のワークショップを選ぶのも1つの手です。その際に参考になるのが、「Golden Apple賞」(Golden Apple Award)の受賞の有無です。「Golden Apple賞」とは、各ワークショップの受講者全員を対象に毎年行われるアンケート調査の結果、高い評価を長年得ている講師に与えられる賞で、授与される講師は毎年1人だけです。日本でも有名なTom Lang氏らが過去に受賞しています。

年次総会の申込プログラム(registration brochure)やワークショップのリストを見て、講師名に金色のリンゴのマークが付いていたら、その講師は「Golden Apple賞」を受賞しています。プログラムやリストにマークが表示されていない年もあるので、その場合はAMWAホームページのこちらで過去の受賞者をご確認下さい。

 

2. 出発前の準備

2.1 ワークショップ事前課題提出後の確認

ワークショップには必ず事前課題(assignment/homework)があります。certificate取得に必要な単位を取得するには、事前課題の解答を締切までに提出しなければなりません。メールで講師に提出するのが通例ですが、先方のサーバーにブロックされてメールが戻って来たり、迷惑メールのフォルダに振り分けられて講師が気付かなかったりすることがあります。念のため、事前課題の解答提出時に講師に受領確認の返信を要請すると良いでしょう。

通例、数日以内に講師から返信が来ますが、返信がない場合は講師に再度メールを送ってみましょう。それでも返信がない場合は、AMWA事務局にメールで問い合わせることをお薦めします。AMWA事務局は、アメリカでは珍しく対応が速くて親切なので、わからないことやトラブルなどがあった場合は事務局に問い合わせてみて下さい。いずれにしても、ワークショップの単位を取得できないと勿体ないですから、メールなどのトラブルに備えて早めに事前課題の解答を提出するのが無難でしょう。

2.2 ワークショップ配布資料の受領

AMWAの経費削減のためか、ワークショップの配布資料(handout)が会場で提供されないことが多くなりました。通例、年次総会の数日前に、指定のサイトからダウンロードするよう指示が書かれたメールが届くので、メールを見逃して配布資料の準備を忘れないよう気を付けましょう。日本を発つ前に印刷して持って行けば、宿泊先や会場で慌てなくて済みます。なお、ワークショップにラップトップやタブレットなどを持ち込む場合は、配布資料を印刷せずに電子媒体で持参・参照することも可能です。

2.3 英語の自己紹介

ワークショップやmeal event、ホテルなどで外国人参加者らに自己紹介しなければならない機会があるので、予め英語で自己紹介を考えて、スラスラ言えるように練習しておくと安心です。名前と職種を2~3文で簡潔に説明できると良いでしょう。例えば「I’m Taro Suzuki from Japan. I do regulatory writing at a pharmaceutical company in Tokyo.」や、「I’m Hanako Sato from Japan. I’m a freelance medical translator.」のような感じです。名刺をたくさん持って行くこともお忘れなく!

2.4 服装

年次総会のドレスコードは「ビジネスカジュアル(スマートカジュアル)」なので、服装がラフになり過ぎないように気を付けましょう。

また、開催地・開催時期を問わず、会場は寒いことが多いので暖かい服装を持って行くことをお薦めします。ちなみに私はスカートでは足が冷えるので、いつもパンツスーツで出席しています。それでも会場は寒くて、ボトムの下にタイツを履いたり、ストールを膝掛けにしたり、ジャケットの下にカーディガンやセーターを着たりします。他の日本人参加者も薄手のダウンジャケットやカイロを持参するなど、会場の防寒対策をしている方が多いです(特に女性)。

せっかく年次総会に参加しても寒くて講義に集中できないと勿体ないですから、温度調節しやすい服装をご準備下さい。

 

3. 出発後

3.1 アメリカ国内の時差に注意

アメリカ本土には4つの時間帯がある上に、時期や州によっては「夏時間」が採用されているので、日本からAMWA開催地に直行しない場合は経由地の時間帯や、経由地と開催地との時差、「夏時間」の有無に注意が必要です。「夏時間」は11月上旬に終わるので、年次総会が11月上旬に開催される場合は「夏時間」の終了日にも要注意です。

時間を間違えて、飛行機の経由地で乗継便に乗り遅れたり、開催地で初日の基調講演やワークショップなどに遅れたりする日本人参加者が時々いらっしゃいます。ワークショップは遅刻すると入室できず単位を貰えないので、開催地に着いたら現地時刻を必ず確認しましょう

3.2 オリエンテーション

例年、会期初日か2日目に、初参加者を対象にオリエンテーション(無料)が開催されるので、事前にプログラムで日時を確認して参加することをお薦めします。

3.3 Meal event

会期中にレセプションやSablack luncheon/dinnerなどの「meal event」が開催され、追加料金なしで参加できるeventが年々増えています。日本人参加者で集まって同じテーブルを囲むことが多いので、英会話に自信のない方も怖がらずに参加して、各イベント会場で日本人参加者を探してみて下さい。

また、AMWA主催のmeal eventとは別に、日本人参加者のみで独自に非公式の「食事会」を開催して親睦を図っています。通例、常連の参加者が幹事となり、金曜または土曜の夜に開催されています。AMWA開催地に到着してから幹事が日時とお店を決めて、メールで他の参加者に知らせることが多いので、事前に常連参加者にAMWA参加の旨とメールアドレスを伝えておくか、AMWA会場で早めに日本人参加者を見つけて尋ねると良いでしょう。

日本人参加者については、AMWA開催数日前に事務局から送られてくるメールのリンク先にある「Attendee list」(参加者名簿)で確認できます。日本からの参加人数は毎年十数名です。

会期中はワークショップの休憩時間(beverage break)などに、無料の飲み物が用意されている部屋(hospitality roomやresource hallなど)に行くと、日本人参加者に会える確率が高いです。多くの日本人が1人参加のため、「食事会」以外でも数人で昼食や夕食に出掛けたりすることが多いので、AMWA初参加で心細い方は早めに日本人参加者を見つけて、積極的に声を掛けると良いでしょう。

 

4. その他

海外出張・旅行に慣れていない方や初めて渡米される方は、アメリカ旅行時の基本的な注意事項を旅行ガイドブックなどでご確認下さい。また、同僚やお知り合いに過去のAMWA参加者がいらっしゃる場合は、移動時の注意点やAMWAの様子などをお聞きになってみて下さい。

以上、初めてのAMWA参加でも実り多い経験ができるよう、少しでもお役に立てば幸いです。ご質問や追加事項などありましたら、コメント欄にお書き頂くか、お問い合わせフォームからご連絡下さい。

AMWA年次総会参加ガイド第2弾では、自費で参加する方のために、出来るだけお金を掛けずに参加する方法を紹介します。

次回
AMWA年次総会参加ガイド2:自費参加者必見!航空券・ホテル代ゼロで参加する方法

著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
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速くて楽な語彙力強化法:医薬用語の接頭語と接尾語を知ろう!

6月10日に弊社主催で「がん臨床試験のための腫瘍学入門セミナー:知っておくべき、がんの常識と日英専門用語」を都内で開催しました。当日は多くの方にご参加頂き、お陰様で盛況のうちに終了することができました。ご来場下さった方々には改めて御礼申し上げます。

セミナー終了後にアンケート調査を実施した結果、「本セミナーで最も有益だった内容は?」という設問に対して一番多かった回答は、意外にも「分子標的薬の一般名の命名法」でした。

抗がん剤の接尾語

皆様の中にも命名法をご存知ない方がいるかもしれませんので、少しだけご紹介しましょう。例えば分子標的薬が何らかの阻害剤(例:チロシンキナーゼ阻害剤)の場合は、「△△ニブ(-nib)」と名付けます(例:ゲフィチニブ)。「-nib」は「inhibitor」の略です。一方、「抗体医薬」の場合は「△△マブ(-mab)」と名付けます(例:リツキシマブ)。「-mab」は「monoclonal antibody」(モノクローナル抗体)の略です。したがって、一般名の語尾を見れば、分子標的薬の種類がわかります。

他に、薬剤が標的とする物質や、由来する動物種にも基づいて一般名を命名しますので、分子標的薬の命名法を知っていると、一般名を見るだけで薬剤の基本情報がある程度わかります。詳しい命名法は、WHOの抗体医薬命名法の指針(英文)などをご覧下さい。

分子標的薬以外の抗がん剤の一般名も、白金製剤は「プラチナ」にちなんで「△△プラチン」(-platin)と命名することや(例:シスプラチン)、抗がん性抗生物質は「△△マイシン」(-mycin)が多いこと(例:ブレオマイシン)などを知っていれば、一般名を見るだけで薬剤クラスがわかります。抗がん剤以外でも、一般名に「法則性」が見られる薬剤が多数あります。

心電図の接頭語と接尾語

医学用語も、よく使われる「接頭語」(prefix)と「接尾語」(suffix)を知っていれば、初めて見る難しい専門用語でも、辞書を引かずに意味を推測できることが多々あります。

例えば「electrocardiography」という単語を見てみましょう。接頭語「electro-」は「電気の」という意味で、「cardio-」は「心臓の」という意味、そして接尾語「-graphy」は「検査(法)」という意味なので、これらを組み合わせて「心電図検査」という意味だとわかります。

 

この単語の接尾語が「-gram」に変わると、どのような意味になるでしょうか。「-gram」は「検査した結果、検査の記録」を表しますので、「electrocardiogram」は、波形が書いてある「心電図記録」という意味になります。また、接尾語「-graph」は「検査の装置」を指すので、「electrocardiograph」は「心電(図)計」の意味になります。臨床研究や治験で心電図が使われることが多いですが、略語「ECG」をフルスペルで書く際は、意図する意味に応じて語尾を変えて、誤訳を防ぎましょう

「心電図」の接頭語と接尾語の知識は「脳波」(EEG)にも応用できます。接頭語「encephalo-」は「脳」を表すので、「electroencephalography」は「脳波検査」、「electroencephalogram」は「脳波(記録)」、「electroencephalograph」は「脳波計」だとわかります。逆に「脳波検査」を英語で書きたい場合は、「electro-」と「encephalo-」と「-graphy」を組み合わせて書けばOKです。

接頭語と接尾語を知るメリット

このように医薬用語の接頭語と接尾語を知ると、難しい専門用語を1つずつ丸暗記しなくてもボキャブラリーを強化できますまた、医薬分野の英文を読む際も書く際も、辞書を引く手間を省けてスピードアップできます。拙著『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』シリーズI改訂版には、医薬分野の代表的な接頭語と接尾語のリストを載せていますので、ご活用頂ければ幸いです。

何事も「ルール」や「法則性」を知ると、理解や記憶・習得の省力化が図れて、楽に速く上達できます。メディカルライティングや医薬翻訳では、薬剤の命名法や医薬用語の接頭語・接尾語などの「法則性」を知って、効率良くスキルと作業スピードを向上させましょう!

追記:ピコ太郎のヒット曲「PPAP」は、医薬用語の接頭語と接尾語を覚えるのに使えます。例えば「♪I have “erythro-“ (=赤い).  I have “-cyte” (=細胞).  Ahhh, erythrocyte! (=赤血球)」のような感じで、様々な組み合わせで替え歌を作って医薬用語を楽しく覚えましょう!

推薦図書:
『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』シリーズI改訂版
146~153頁「医薬用語の接頭語と接尾語」一覧表
※本シリーズは完売・絶版になりました。あしからずご了承下さい。

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