偽の授賞通知が届いた!ハゲタカアワードの手口と対策を解説

著作者:pohjakroon、出典:pixabay

論文掲載料の搾取を目的とした「ハゲタカジャーナル」や、学会参加費の搾取を目的とした「ハゲタカ学会」といった詐欺商法は、日本でもよく知られ、警戒が広がりつつありますが、「ハゲタカアワード」はご存知でしょうか。日本ではまだあまり知られていませんが、海外では広く知られている詐欺の一種で、実際に多くの個人や企業が被害に遭っています。

最近、筆者にも偽アワードの授賞通知が届きましたので、本記事ではその実例を紹介しつつ、「ハゲタカアワード」の手口や特徴などを詳しく解説し、被害を未然に防ぐための対策をお伝えします。

 

1. ハゲタカアワードとは

ハゲタカアワードとは、偽の授賞組織(predatory award organization)が架空の賞を作り、もっともらしい授賞通知を個人や企業などに送り付け、受賞料などの名目で金銭をだまし取ろうとする詐欺です

英語では「vanity award」(虚栄賞)、「fake award」(偽の賞)、「predatory award」(ハゲタカアワード)などと呼ばれています。「vanity」の意味「虚栄心、虚飾、見せかけだけで実質的に無価値・無意味」が示す通り、ハゲタカアワードに権威や価値、意味などは全くありません。お金さえ払えば誰でも「受賞」できます。いわゆる「お金で買える賞」です。

ハゲタカアワードの種類としては、学術界を狙った偽の科学アワード(例:Asia Research Awards)や、ビジネス業界を狙った偽のビジネスアワードなど、様々なものがあります。

ターゲットとしては、ある程度の実績があり、名前が世に出始めた個人や企業などが狙われる傾向があります。例えば偽の科学アワードのターゲットは論文発表経験のある若手医師・研究者、偽のビジネスアワードのターゲットは小規模事業者(スタートアップ企業、ベンチャー企業、個人事業主・フリーランスなど)が中心です。

偽の授賞通知の送付には、論文のcorresponding author(責任著者)の連絡先や、事業者の問い合わせ先、学会・専門家団体の名簿などが悪用されています。

 

2. ハゲタカアワードの実例:『Life Sciences Review』誌の偽アワード

(1)『Life Sciences Review』誌からの授賞通知

実際に筆者にも偽アワードの授賞通知が最近届きました。差出人は『Life Sciences Review』誌のFelicia Nelsonと名乗る人物で、「アジア太平洋地域の2025年トップ治験翻訳会社の最終選考に貴社がノミネートされました」という英文メールでした。

受賞にあたっては3000ドル(約45万円)支払う必要があり、その対価として『Life Sciences Review』誌での受賞者紹介、紹介記事の二次利用、賞状、受賞ロゴなどが含まれる、いわゆる「受賞パッケージ」が提供されるとのことです。ご参考までに授賞通知の全文をお示しします。

——————————————————————-

送信者:Felicia Nelson(felicia.nelson@thelifesciencesreview.com)
件名:Top Clinical Trial Translation Service recognition for Clinos by Life Sciences Review

I am Felicia from Life Sciences Review APAC, a premier print and digital magazine reaching over 86,000 qualified subscribers. Renowned for spotlighting advancements and industry leaders, our magazine connects lifesciences innovators with key decision-makers across pharmaceuticals, biotech, and healthcare sectors.

I am excited to share that we have shortlisted Clinos to be featured as the ‘Top Clinical Trial Translation Service in APAC 2025’ in our upcoming edition. We have shortlisted you based on nominations from our subscribers and a comprehensive evaluation by experts panel and editorial team. This prestigious recognition highlights your exceptional repute and the credibility you’ve cultivated among your customers and peers.

As the SOLE company to receive this recognition, we are proffering you the reprint rights to help maximize its impact.

To commence with this recognition, we want to feature an engaging profile about you, highlighting what makes you unique in the industry among hundreds of other companies. It will give insightful, real-world examples of your services to readers/prospective clients so they can better relate to how beneficial it will be for them to partner with you. The intent is to tell an engaging story of what you bring to the table and how that’s different from others.

Alongside your company’s engaging profile, we will feature articles from decision-makers who manage R&D projects, oversee clinical trials, or handle strategic partnerships within their organizations. They will share their insights on the key challenges and innovations shaping the lifescience sector, positioning your company prominently in front of influential decision-makers.

Being recognized as a top company in our magazine has empowered our clients in the lifesciences sector to increase visibility significantly. Furthermore, They have leveraged their recognition reprints to expand their client base. Clinos can receive similar impactful results by using the reprints strategically in its outreach efforts. This recognition as the ‘Top Clinical Trial Translation Service in APAC’ from an esteemed magazine will add credibility to your services, assuring prospects of your leadership and excellence in the lifesciences sector.

Along with recognition’s reprint rights, your company will receive a certificate, a specialized ‘Top Clinical Trial Translation Service in APAC 2025’ logo, and more benefits, all for 3000 USD. Clinos’s profile will also be featured on our website, hyperlinked to your website, where all its potential clients can directly reach your company for business inquiries.

Your company’s profile will receive significant exposure in front of our magazine’s large and relevant audience actively looking for a dependable partner comprising senior decision-makers working in Pharmaceuticals, Biotechnology, Healthcare IT, Medical Device Manufacturing, and other companies.

I would like to connect and discuss how your company can leverage this recognition to increase its visibility, just like our previous clients. Let me know the best time to schedule the conversation.

Regards,
Felicia
______________
Felicia Nelson
Life Sciences Review APAC
O: +1 510 570 3495

——————————————————————

(2)授賞通知の違和感

この授賞通知メールを読んで、すぐに「おかしい」と感じた点が3つありました。

①的外れなアワード:通知には「治験翻訳サービスでノミネート」と記載されていますが、当方は近年、治験翻訳を手掛けておらず、現在は主に英語論文の作成・投稿支援に注力しています。このような状況で、当方が「治験翻訳」のカテゴリーでノミネートされたという点に、まず不自然さを感じました。

②非現実的な審査:治験文書の多くは機密情報であり、通常は第三者が自由に閲覧できるものではありません。また、治験文書の翻訳を担当した企業や個人の名前が開示されることもまずありません。そのため、「弊誌読者からの推薦や専門家・編集者らによる総合的な評価に基づいて貴社をノミネートした」という説明に、疑念を抱きました。

③受賞費用の請求:当方はこのアワードに応募した覚えは一切ありません。それにもかかわらず、「ノミネートされた」と一方的に通知され、さらには受賞費用の支払いが必要という点に強い違和感を覚えました。正当なアワードでは、受賞者が金銭を支払わなければならないケースはまれです。

(3)『Life Sciences Review』誌の不審な点

このような違和感を覚えたため、『Life Sciences Review』誌のウェブサイトとSNSを探し、同誌とアワードの実態について調べました。いずれも一見それらしく見えるものの、以下のような不審な点が次々と見つかりました。

  • 企業情報の不足:所在地として「米国フロリダ州フォートローダーデール」と記載され、メールアドレスが示されているだけで、社名や住所、電話番号、代表者など、企業サイトにあるべき基本情報が見当たりません。
  • 編集体制の不明瞭さ:編集長、編集委員、発行頻度、購読料、バックナンバーといった、雑誌としての情報が全く公開されていません。
  • コンテンツの偏り:サイトで公開されている記事の多くは「アワード受賞者の紹介」で、ライフサイエンスに関する専門記事や業界分析などはあまり見当たりません。
  • 審査の不透明さ:アワードの審査員や選考基準、選考方法などの情報が一切公開されていません。
  • 授賞対象分野の広さ:アワードの対象はライフサイエンスの特定の分野に絞られておらず、様々なライフサイエンス分野を対象にアワードが乱発されています。
  • 授賞発表の多さ:SNSでは、毎月、多数の企業が「受賞者」として発表されており、このことからもアワードの乱発が伺えます。
  • 公開情報の不整合:SNSとは対照的に、サイトに過去の「受賞者」として掲載されているのは、2種類のアワードの過去2年分のみに留まっています。また、「トップ10企業」が選出されているライフサイエンス分野のうち、10社すべてが公開されている分野はほとんど見当たりません。実際には、受賞料を支払った企業のみを発表して「受賞パッケージ」を授与している可能性が考えられます。
  • 購読者数の疑わしさ:授賞通知メールでは「86,000人超の購読者がいる」と謳われています。しかし、同誌のLinkedInのフォロワーは2,400人程度で、購読者数との乖離が大きく、購読者数の信憑性に疑念を覚えます。

(4)ネット上の関連情報

「Life Sciences Review」をキーワードにしてネット検索を行ったところ、同誌からのアワード受賞を発表している企業の公式サイトが多数ヒットしました。このことからもアワードの乱発が裏付けられます。

また、X(旧ツイッター)上には、筆者に届いたものとほぼ同じ内容の授賞通知メールが全文掲載されている投稿があり、その投稿者は『Life Sciences Review』誌を「ハゲタカジャーナル」と呼んで警鐘を鳴らしています。このような投稿が複数確認できる点からも、同誌が同様の手口でアワード受賞への勧誘を繰り返している可能性が示唆されます。

(5)日本企業もターゲット

『Life Sciences Review』誌からのアワード受賞を自社の公式サイト・SNSで発表している企業の中には、日本のバイオベンチャー企業や、CRO(医薬品開発業務受託機関)、学術情報・論文作成支援企業なども確認されました。このことから、日本企業もすでに同誌のターゲットになっており、国内でも被害拡大の可能性が懸念されます。

(6)米国メディカルライティング業界内での認識

さらに筆者は米国メディカルライター協会(AMWA)の会員専用フォーラムで、『Life Sciences Review』誌からの授賞通知を共有し、同誌や類似の偽ビジネスアワードに関する情報提供を呼び掛けました。

すると、複数の会員から以下のようなコメントが寄せられました。

  • 「こうした偽ビジネスアワード受賞の勧誘は非常に多く、よくある手口」
  • 「私も数ヵ月前に同じようなメールを受け取った」
  • 「騙されなかったようで良かったですね」

アメリカのメディカルライティング業界でも、偽ビジネスアワードが「詐欺」として広く認識されていることが確認されました。

(7)しつこいリマインダー

筆者はこれらの調査結果を踏まえ、『Life Sciences Review』誌のアワードは「ハゲタカアワード」であると判断し、授賞通知には一切返信せず削除しました。

しかし、その後も同誌のNelson氏からリマインドメールが複数回届いており、「しつこい勧誘」が続いています。これもハゲタカアワードによく見られる特徴の1つです。実際、あるAMWA会員は、別の偽の授賞組織から受賞勧誘メールが「数ヶ月間に20回以上届いた」とコメントしていました。

(8)実体は「広告媒体」

調査を重ねるうち、『Life Sciences Review』誌は、いわゆる学術誌や業界誌ではなく、受賞者の紹介を中心とした「広告雑誌」である可能性が高いことも判明しました。

同誌は受賞者の写真と紹介記事を掲載したファイルを作成し、それを「受賞パッケージ」として受賞者に提供(販売)し、写真と紹介記事をサイトに掲載するだけで、あたかも雑誌に取り上げられたように演出している印象を受けます。

筆者に届いた授賞通知メールでは「a premier print and digital magazine」と謳われていますが、雑誌としての発行実態は確認できず、いわば「受賞者専用の販促ツール」に過ぎないと思われます。

AMWA会員からも本質を突いたコメントが寄せられました。

  • 「3000ドル払えば受賞パッケージを自分のビジネスの宣伝に使えるというだけで、基本的には広告だ」
  • 「多くの偽ビジネスアワードは、何かを受賞したように見せかける広告パッケージか詐欺(scam)。お金さえ払えば個人や企業を掲載してくれる広告媒体に過ぎない」

こうした指摘からも、『Life Sciences Review』誌が提供するアワードは「栄誉」ではなく、「広告スペースの販売」を目的とした商業的な詐欺スキームであると考えられます。

 

3. ハゲタカアワードから身を守る方法

ハゲタカアワードは、見かけ上は「権威ある賞」を装いながら、実際には受賞料などを搾取するだけの「偽アワード」です。まずは、このような詐欺的アワードの存在を認識することが防御の第一歩です

もし思いがけない授賞通知が届いたら、「疑う、調べる、相談する」の3ステップで冷静に対応することを心掛けましょう。以下の8つのポイントを確認することで、被害や誤認を防ぎやすくなります。

(1)授賞通知を冷静に読み、内容を正確に理解する

研究や仕事が評価されたという知らせは嬉しいものですが、すぐに返信するのは禁物です。文面を落ち着いて読み、アワードの趣旨や対象、記載内容の具体性や妥当性などを確認しましょう。

(2)不審なメールのリンクは絶対にクリックしない

授賞通知を装ったメールには、ウイルス感染や個人情報搾取を狙うリンクが含まれている場合があります。特に授賞通知に不自然な英文や見慣れないドメインのURLがある場合は、リンクをクリックせずにメールを削除しましょう。

(3)金銭を要求されたら詐欺を疑う

正当なアワードであれば、「受賞料」などの名目で追加の費用を請求することはまずありません。エントリーもしていないのに授賞通知が届いたり、「受賞パッケージ」などの購入を求められたりした場合は、ハゲタカアワードの典型的な手口と考えてよいでしょう。

なお、初回の通知では料金が明記されず、後日メールやウェブサイトで費用が提示されるケースもあります。最初に金銭の記載がないからといって、安心するのは早計です。

(4)授賞組織の実態をサイトとSNSで入念に調べる

  • 公式サイトやSNSは整備されているか、不自然な英語や日本語はないか
  • 名称、住所、電話番号、代表者などの基本情報が明記されているか
  • アワードの趣旨や実績などが具体的に紹介されているか
  • 授賞式は開催されているか、開催時期、場所、出席者などは妥当か
  • 受賞費用に関する記載はないか、高額ではないか

(5)過去の受賞者情報を確認する

  • 受賞者の氏名・所属先が公開されているか、実在するか
  • 受賞者数が極端に多すぎたり、少なかったりしないか
  • アワードの内容と受賞者の専門性が一致しているか

(6)審査体制を確認する

  • 審査委員会は設置されているか
  • 審査員は公開されているか、実在するか、しかるべき専門家か
  • 選考基準や選考手順が具体的に示されているか

(7)ハゲタカアワードのリストを参照する

過去に報告されたハゲタカアワードや疑わしいアワードの一覧も参考になります。

  • オランダのライデン大学医療センターのEsther van de Vosse准教授によるブログ「Predatory award organization – yet another scam」(英語)では、偽の科学アワードがリストアップされています。
  • ハゲタカジャーナル・学会を扱う専門サイトで、偽アワードの関連情報が紹介されていることもあります。

(8)1人で判断せず、周囲に相談する

授賞通知に少しでも疑問を感じたら、同僚や上司、信頼できる業界関係者に相談しましょう。授賞通知と調査結果を共有し、複数の人の視点で慎重に判断・対応することが、最終的な被害防止につながります。

 

4. ハゲタカアワードの被害防止に協力を

ハゲタカアワードは、受賞者にとっては一見「名誉」のように見えますが、実際には受賞料などの名目で金銭を奪い取る巧妙な詐欺です。知らずに関わってしまうと、研究者や企業などの信用を損なうリスクもあります

こうした被害を未然に防ぐために、本記事の内容をご同僚やご友人、業界関係者の方々と共有していただけますと幸いです。SNSでのシェアや、メール・社内チャットなどでのご紹介も大歓迎です。1人でも多くの方に「ハゲタカアワード」の存在や手口、特徴を知っていただければ、それだけで大きな防波堤になります。

また、『Life Sciences Review』誌などによる偽アワードの受賞を公表している方や企業・研究機関をご存じでしたら、ハゲタカアワードの可能性をそっと教えて差し上げてください。ご本人たちは悪意なく受賞を喜んでいる可能性が高く、第三者からの指摘で初めて詐欺に気づけるケースも少なくありません。

ハゲタカアワードによる被害を受けた方や企業・研究機関は、互いに連携して複数で詐欺組織に立ち向かうことで、被害の回復やその後の再発防止につながりやすくなります。

ハゲタカアワードの情報を広く共有し、被害の連鎖を断ち切ることは、私たち専門職の信頼を守る大切な一歩です。何卒ご協力をお願いいたします。

 

5. ハゲタカアワードのまとめ

  • 受賞料などの搾取を目的とした詐欺
  • 名誉に見えて、実は「お金で買う賞」または「広告媒体」
  • 存在を知り、手口や特徴を理解することが対策の第一歩
  • 授賞通知が届いたら「疑う、調べる、相談する」の3ステップで冷静に対応
  • 不審な授賞通知には返信せず、毅然と無視
  • 受賞を公表すると、かえって信頼失墜の恐れあり
  • 情報を広く共有し、被害の拡大を防ぎましょう

 

著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
→ 詳しいプロフィールはこちら

※メールマガジン「クリノス通信」(無料)
国内外の業界情報や、英文ライティングのワンポイントレッスンなど
医薬翻訳・メディカルライティングに役立つ情報をお届けしています。
→ 購読申込はこちら

ページの先頭へ戻る

医薬論文・報告書のIMRAD形式って何?

医薬分野のレポート(学術論文・治験報告書など)の形式として、基本の「き」である「IMRAD形式」をご存知ですか?製薬企業・CROで実施させて頂いている社内英文メディカルライティング研修で、この形式をご存知ない受講者の方が意外に多く、「他にも知らない方が結構いるかもしれない。知らないなんて勿体ない!」と思いましたので、本ブログでご紹介したいと思います。

 

1. IMRAD形式とは

まず、「IMRAD」は「イムラッド」と読みます。これは何かと言いますと、下記の5つの英単語の頭文字をつなげた略語です。

Introduction(緒言・序論)
Methods(方法)
Results(結果)
And
Discussion(考察)

もうお気付きだと思いますが、「IMRAD」は学術論文の代表的な構成を表しています。形式の名称はご存知なくても、「この論文構成は知っている」という方が多いのではないでしょうか。筆者も、論文の構成要素・順序は知っていても、大学病院退職後に医薬翻訳者を目指して英語論文の書き方の勉強を始めるまで、構成に名前が付いているとは知りませんでした。

IMRAD形式は論文本文だけでなく、抄録(abstract)にも採用されていることが多いですし、ポスター発表なども同じ構造・順序の場合が多いです。

2. 製薬文書のIMRAD形式

製薬分野の報告書も「IMRAD」形式と無縁ではありません。例えば治験総括報告書(CSR)の「概要」(synopsis)や本文の構成は概ね「IMRAD」形式になっています。

また、治験薬概要書(IB)に記載する非臨床試験や臨床試験の要約の構成も「IMRAD」形式に則っている場合が多いですし、要約の段落を分ける箇所は、「IMRAD」の区切りと一致している場合が多いです。

したがって、論文の執筆者・校閲者や翻訳者などだけでなく、製薬分野の文書作成・翻訳に携わる方々も「IMRAD」形式と各構成要素の役割などを理解し、この形式で書けるようになっておく必要があると思います。

ちなみに、私が米国シカゴ大学のメディカルライティング・プログラムでCSRの書き方に関する講座を受講した際、最初の演習は、ICH E3ガイドライン「治験総括報告書の構成と内容」の各項を「IMRAD」の各構成要素に分類することでした。「アメリカではこのような演習を通じて、メディカルライターたちにCSRの構成要素と記載順序を理解させるだけでなく、ICH E3ガイドラインの問題点まで気付かせているのか!」と感心しました。興味のある方はこの演習をご自身で実施なさってみて下さい。

3. IMRAD形式を知る3つの利点

(1)医薬分野の論文・報告書の基本的な枠組みを理解して慣れれば、これらの文書を組み立てやすく、書きやすく、訳しやすくなります。

(2)読者も、「IMRAD」形式で書かれていることを前提にしている場合が多いので、「IMRAD」形式で作成すれば、論文を読んでもらえる確率が上がったり、文書の内容を読者に伝えやすくなったりします。

(3)「IMRAD」形式の知識は、医薬分野の論文・報告書を読む際にも役立ちます。例えば、話の流れ・展開や論旨を理解しやすくなったり、欲しい情報を探しやすくなったりします。

4. IMRAD形式の学習法

「IMRAD」形式に関する情報は、論文の書き方に関する本やネット上に豊富に存在しますので、簡単に入手することが出来ます。お好みの媒体でいろいろご覧になってみて下さい。(例:IMRADのWikipedia:英語はこちら、日本語はこちら

5. IMRAD式文書を書くコツ

筆者が過去30年間に数え切れないほどの論文や製薬関連文書を、翻訳業務や英文ライティング教育現場などで見て来た中で、日本人によく見られる間違いや問題点に基づいて、また、米国メディカルライター協会(AMWA)のワークショップなどで学んだ論文や治験関連文書の書き方に基づいて、セクション別にポイントをお示しします。

(1)Introduction(緒言・序論)

  • 総論から各論に移る書き方が一般的
    いきなり自分の研究・治験について書き始めるのではなく、まず総論的な概説から始めて、徐々に対象を狭めていき、最後に自分の研究や治験などにについて書きましょう。
  • 研究・治験等の説明は概要のみで十分
    具体的な方法や結果は各々のセクションに記載するので、イントロに細かく書き過ぎないようにしましょう。

(2)Methods(方法)

  • 英語の場合、原則として方法・手順を命令形で書かない
    方法・手順を書く際も、他のセクションと同様に、主語のあるセンテンスを作りましょう。(例:「Measure blood drug concentrations every hour.」ではなく「Blood drug concentrations were measured every hour.」)
  • 使用した薬剤・実験器具等は「製品名」ではなく「一般名」で書く
    科学研究の報告では「再現性」が重要なので、誰でも同じ研究方法を再現できるように、「製品名」ではなく「一般名」で書くのが原則です。特に英語で書く際は、薬剤・実験器具などの中には日本のみで販売されている製品や、海外では名称が異なる製品などがあることを念頭に置きましょう。製品名を書く必要がある場合は、一般名の後に括弧で括って製品名や製造元などを書き添えます。括弧内に記載すべき項目や書き方は、論文の投稿規定や企業のスタイルガイドなどで確認して下さい。
  • 倫理面についても忘れずに記載する
    研究論文で記載漏れが多く見られますので、研究内容に応じて、「ヘルシンキ宣言」の遵守や倫理委員会による研究承諾、被験者の同意取得(インフォームド・コンセント)などの必要事項を漏れなく記載しましょう。
  • 「Results」に統計解析の結果を記載する場合は、必ず解析方法を「Methods」に記載する
    研究論文で記載漏れが時々見られます。具体的な解析方法や有意水準の設定などを「Methods」のセクションに書きましょう。

(3)Results(結果)

  • 論文は、Methodsと同じ小見出しを同じ順序で使って結果を書くとわかりやすい
    「Results」の章立てを踏まえて「Methods」を構成しておくと、査読者や読者にわかりやすい論文に仕上がります。
  • 事実を淡々と書き、原則として「意見」は書かない
    「意見・考察」は「Discussion」のセクションに書くので、「Results」のセクションでは、原則として「意見」を交えず客観的に「事実」のみを書きましょう。
  • 図表のタイトル・説明を本文中に書く必要なし
    日本語の論文や治験報告書などでは、「有害事象の発現状況を表1に示す」のように、図表の説明が本文中に書かれていることが多々あります。しかし、関連する結果に図表番号を補足的に示すのみで十分です(例:有害事象の発現率は12.3%であった(表1))。日本式の英語文書は外国人に違和感を与えるので注意しましょう。

(4)Discussion(考察)

  • 結果の要約だけではNG!
    「Discussion」の記載内容が結果の要約に過ぎないことが、依然として論文でも治験総括報告書などでも時々見られます。海外の投稿論文でも多いようで、米国メディカルライター協会(AMWA)の論文関連のワークショップでも、多くの講師が「結果のサマリーだけではダメ!」と言っています。「Discussion」の見出しどおり、結果を「考察」して、解釈や意義などを記載しましょう
  • 「Results」のセクションに記載していない結果を、「Discussion」のセクションで新たに提示しない
    「Discussion」で言及するデータは、すべて「Results」に記載しておくのが原則です。読者が戸惑わないよう、「Results」に伏線を張っておきましょう。
  • 「事実」と「意見」を明確に区別して書く
    記載内容が「事実」なのか「意見」なのか、よくわからない文章を時々見掛けます。日本語は主語を省略することが多いので、余計にわかりにくくなりがちです。英訳する際も、原文の意図が「事実」と「意見」のどちらなのかを正確に把握して、読者に区別が明確にわかるような英文を作りましょう。
  • 英語で意見を書く場合、誰の意見なのかを明示する
    日本語の考察では「~と思われる」「~と考えられる」という表現がよく使われるため、日本人の英文ライティングや和文英訳では「It is considered/ thought/ believed that …」構文が多用される傾向があります。しかし、この構文は誰が考えているのかを示していないため、「世間では~と考えられている」という意味であり、「著者は~と考える」という意味ではありません。つまり、「誤訳」です。著者の意見を述べたい場合は、「We consider that …」のように、誰が考えているのかを出来る限り明示しましょう
  • 他人の文献や英文等のパクリ厳禁!
    他人の文書の内容や表現を盗んで、出典を明示せずに使うことは「剽窃」(plagiarism)と呼ばれる不正行為です。投稿論文を剽窃ソフトですべてチェックする医学誌が増えていますが、製薬分野の文書も油断できません。欧米の規制当局に提出する英語の治験総括報告書(CSR)は、規制当局の報告書公開開始により、誰でも無料オンライン剽窃ソフトなどでチェック可能になったからです。英語文書を作成する際は「英借文」が剽窃にならないよう、細心の注意を払いましょう
  • 引用箇所は正しい方法で引用し、出典を必ず明示する
    他人の文書の内容や表現を引用する場合は、「剽窃」と疑われないように、日本語ではカギ括弧で、英語では引用符(quotation marks)で括り、著者の文章と明確に区別するとともに、出典を必ず明示しましょう。
  • ネガティブな面も考察して正直に書く
    誰でもネガティブな面にはあまり触れたくないものですが、良い結果や肯定的な考察だけ書いても、あるいは曖昧な記述でごまかそうとしても、論文の査読者や規制当局の審査官の目は節穴ではありません。問題点を鋭く指摘されたり、質問されたりして、対応が必要になることや、査読や審査が長引くことも珍しくないので、好ましくない結果や、研究・治験の限界・問題点などを先回りして書いておくほうが得策だと思います。

6. IMRAD式文書の英語文例集

メディカルライターや医薬翻訳者、論文執筆者などの方々から、「英語の論文や製薬関連の報告書などでよく使われる文章パターンや例文を教えてほしい」というご要望をよく頂きます。その際に私がいつもお薦めしているのは、「Academic Phrasebank」というサイトです。

これは、英語が母国語でない研究者が英語論文を書く際の参考になるように、英国のマンチェスター大学が作成した構文リストで、米国メディカルライター協会(AMWA)の会員専用メーリングリストで紹介されていました。

IMRAD形式のセクション別だけでなく、「比較」「例示」「分類」等のカテゴリー別でも、よく使われる構文が多数例示されていて大変便利です。例示されている構文の多くは製薬関連文書にも利用可能ですので、医薬分野で「良い英文パターン」が思い付かない場合や、論文調の英語文書にふさわしい構文や定型文を知りたい場合などに、ぜひご活用下さい!ご自身の記憶の中の限られた文章パターンで英文を作ろうとするより、「Academic Phrasebank」を見て、よく使われる構文を知るほうが、英文を適切に、しかも速く作れて効率的だと思います。

7. まとめ

  • IMRAD形式は学術論文の代表的な構成
  • IMRAD形式は製薬分野の報告書等にも採用されている
  • IMRAD形式の詳細やコツは、論文に関する参考書やサイト等で学べる
  • IMRAD形式の知識はライティング・翻訳だけでなくリーディングにも役立つ
  • IMRAD式文書の英語文例集は「Academic Phrasebank」がおススメ

RECOMMEND こちらの記事も人気があります。
独学可能!英語医学論文の書き方をマスターする4つの方法
英借文では英語表現の盗用に要注意!
論文のパブリケーション・マネジメント
英語論文では翻訳者らへの謝辞が必要
英文ピリオド後のスペースは何個にすべき?
英文を速く読む方法
ICH E3ガイドラインに基づく治験総括報告書作成・翻訳の注意点
製薬業界のメディカルライター必見!EMWAとAMWAがCSRマニュアル『CORE Reference』を共同作成中
CSRマニュアル「CORE Reference」を読む3つのメリット

 

著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
→ 詳しいプロフィールはこちら

ページの先頭へ戻る

独学可能!英語医学論文の書き方をマスターする4つの方法

製薬企業のメディカル・アフェアーズ部門やメディカル・ライティング部門、アカデミアの医師・研究者、フリーランス医薬翻訳者などの方々から、「英語論文の書き方を知りたい」「論文英訳のコツを知りたい」という声を度々耳にします。しかし、レギュラトリー・ライティング(regulatory writing:医薬品の承認申請に関するライティング)と異なり、英語医学論文の書き方に関しては、医師・研究者向けに参考書が国内外で多数出版されていて、基本的な事柄はほとんど独学できます

そこで私が実際に使って非常に役に立った参考書の紹介も含めて、1人でも出来る効果的な学習法を4つご紹介します。

 

1. 参考書の活用

(1)スタイルガイド(スタイルマニュアル)
医学論文の英文ライティング・英訳の基本として、世界に通じる医学英文の書き方のルールやスタイルを知る必要があります。その参考書として最もお薦めなのは『AMA Manual of Style』です。これは世界的に有名な英文医学誌『JAMA』の詳細な論文投稿規定で、医学英文のスタイルガイドとして、欧米の論文ライター・エディターの「バイブル」となっています。論文に限らず医薬分野の文書を英語で書いたり、英訳したりする機会のある方は必携です!
『AMA Manual of Style: A Guide for Authors and Editors』
by American Medical Association

追記:『AMA Manual of Style』第11版が2020年2月に発刊されました。

「いきなり英語で読むのはハードルが高い」という方は、『AMA Manual of Style』の主なポイントを日本語で解説した拙著から読み始めると良いかもしれません。
『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』シリーズI改訂版
by 内山雪枝(発行:サイエンス&テクノロジー株式会社)
(追記:本書籍シリーズは2019年4月に全巻完売・絶版となりました)

『AMA Manual of Style』の利用法や効果的な学習法などについては、過去のブログ記事をご参照下さい。
『AMA Manual of Style』オンライン版の国内利用
『AMA Manual of Style』の勉強法
英文ライティング用語の日本語訳リスト

(2)国内の参考書
必ずお薦めしている書籍は以下の2冊です。

・『理科系の作文技術』by 木下是雄(発行:中公新書)
(日本語のscientific writing入門書のロングセラー。英文の書き方や日本語と英語の違いにも言及していて、英語論文作成にも非常に有用)

・『医学論文英訳のテクニック』by 横井川泰弘(発行:金芳堂)
(医学英語関連書籍を多数出版している横井川氏のロングセラー。実用的で例文が豊富)

他の英語医学論文関連の参考書は、オンライン書店で検索したり、大手書店の医学書売場でいろいろ手に取って見比べたりして、ご自分の英語レベルや学習目的などに合うものを選ぶと良いでしょう。

(3)海外の参考書
欧米のメディカルライターやネイティブの医薬翻訳者の間で定評のある代表的参考書を3冊紹介します。いずれも英語のregulatory writingの勉強にも役立ちます。

・『Essentials of Writing Biomedical Research Papers』 2nd Edition by Mimi Zeiger
(説明の英文がわかりやすい。悪文とその改善例や練習問題が豊富で勉強しやすい)

・『How to Write, Publish, & Present in the Health Sciences』by Thomas A. Lang
米国メディカルライター協会 [AMWA] の講師としても有名なLang氏の著書。抄録・論文だけでなく図表、ポスター、スライドなどの効果的な書き方も解説)

・『How to Write and Publish a Scientific Paper』 8th Edition
by Robert A. Day & Barbara Gastel
(Gastel氏もAMWAの有名講師で、発展途上国の研究者の論文発表を支援する活動も行っているため、英語が母国語でない論文執筆者向けの章あり)

(4)剽窃対策の参考書
昨今は文章や表現の盗用、つまり「剽窃」(plagiarism)のチェックが厳しくなっているので、海外の文献やネット上の英文などから「英借文」をする際は細心の注意を払う必要があります。剽窃の定義・種類から英文ライティング時の注意点や正しい英文引用方法まで1冊で学ぶには、以下の本がお薦めです。

・『英文ライティングと引用の作法:盗用と言われないための英文指導
by 吉村富美子(発行:研究社)

過去のブログ記事も併せてご覧下さい。
英借文では英語表現の盗用に要注意!

2. オンライン情報の活用

ネット上にも英語論文の書き方に関する情報が多数存在するので、信頼性の高いサイトを選んで参照すると良いでしょう。例えば「医学論文を書くための究極サイト」などです。

英語の科学論文でよく使われる構文や文例を知りたい場合は、拙著『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』シリーズIVでも紹介している、英国マンチェスター大学運営のサイト「Academic Phrasebank」がお薦めです。

論文関連の国際的ガイドラインについて知りたい場合は、研究デザイン別にガイドラインを調べられるサイト「EQUATOR Network」が便利です。

3. セミナーの受講

セミナーを受講したいという方は、日本メディカルライター協会(JMCA)や日本医学英語教育学会(JASMEE)のホームページを時々チェックしてみて下さい。これらの団体は英語医学論文の書き方に関する単発セミナーを随時開催していて、ネイティブ講師から講義を受けられることもあります。

4. 質の高い英語医学論文の多読

前述の参考書や構文サイト「Academic Phrasebank」はいずれも非常に有用ですが、これらを参照するだけでは、投稿先に受理されるような正確かつ適切な英文ライティング・英訳は難しいですし、その都度参照していると執筆・英訳作業に時間が掛かってしまいます。

そこで、日頃から多くの英語医学論文を読み、よく使われる専門表現や構文などのパターンを見抜き、様々なパターンを頭の中に蓄えておきましょう。そうすれば、適切な英語表現や構文を素早く思い付くことができます。上記の3つの学習法と並行して、ぜひ英語論文の多読も実行してみて下さい。ネイティブのメディカルライターもこの方法で医学英語や論文の書き方を学んでいますし、そもそも医学英文をスラスラ読めなければスラスラ書けませんから、英語論文の多読は英語論文の書き方の学習に欠かせません

多読用の英語論文の選び方や効果的な多読方法など詳しいことは、拙著『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』シリーズI改訂版で説明していますので、お手すきの折にでもご一読下さい。

5. まとめ

英語論文の書き方や日本語論文の英訳をマスターするのは、独学でも上記のわずか4つの方法で可能です。しかし、一朝一夕でマスターはできませんので、「インプット」(学習)と「アウトプット」(実践)をバランス良く増やして、地道にコツコツ努力を重ねましょう。

RECOMMEND
医薬論文・報告書のIMRAD形式って何?
論文のパブリケーション・マネジメント
英語論文では翻訳者らへの謝辞が必要
英借文では英語表現の盗用に要注意!
『AMA Manual of Style』オンライン版の国内利用
『AMA Manual of Style』の勉強法
英文ライティング用語の日本語訳リスト

 

著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
→ 詳しいプロフィールはこちら

ページの先頭へ戻る

英文ピリオド後のスペースは何個にすべき?

英語の文章を書く際、各文章の最後にピリオドを打ちますが、その後のスペース(sentence spacing)は何個入れていますか?1個ですか?それとも2個ですか?文書内でスペースの数を統一する必要があるので、長い文書を複数の人で分担してライティング・英訳や校閲などを行う際は、文末ピリオド後のスペースの数を予め決めておかなければなりません。さあ、何個にしましょう?

 

論文ではスペース1個

論文では、誌面の広さや印刷費用などの都合上、掲載の分量が限られているので、文末ピリオド後のスペースは1個のみの場合が多いですが、必ず投稿規定で確認しましょう。

ちなみに、世界的医学誌『JAMA』の論文投稿規定である『AMA Manual of Style』に、文末ピリオド後のスペースの数に関する規定はありません。このように投稿規定に記載されていない場合は、投稿先の学術誌に実際に掲載されている論文を見て確認します。投稿先が未定または不明の論文では、とりあえずスペース1個にしておくのが無難でしょう。

その他の英語文書では、指定のスタイルガイド(例:社内スタイルガイド)に従います。スタイルガイドに規定がない場合は、担当者などに確認しましょう。

これから決めるなら2個がおススメ!

これからスタイルガイドなどで決めるという場合、筆者はスペースを2個入れることをお薦めします。なぜなら、1個より2個のほうが「文章の区切り」がわかりやすいからです。特に、何か特定の情報を探したい場合や速読する場合に、スペースが2個入っていると「文章の区切り」が一目でわかり、情報を探しやすくなったり、速く読みやすくなったりします。このようなお薦めは拙著『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I巻改訂版にも書いています。

スペース2個に対する反対意見

「英語のネイティブスピーカーから『文末ピリオドの後にスペースを2個入れるのは、タイプライターで英文を書いていた時代の習慣。単語と単語の間隔を自動的に調整してくれるコンピュータで英文を書く現代は、スペース1個でよい』と言われた。2個入れるスタイルは古いのではないか」、「一般英語のスタイルガイド『Chicago Manual of Style』ではスペース1個に規定されている」などのご指摘を時々頂きます。

おっしゃるとおり、「スペースは1個」と規定している英文スタイルガイドも数多く存在しますし、英語ネイティブのメディカルライターや医薬翻訳者に尋ねると、大抵「スペースは1個で十分」と言われます。数年前に米国メディカルライター協会(AMWA)の会員専用メーリングリストでも、スペースの数が話題に上ったことがあり、英語ネイティブの会員からは「スペース2個は時代遅れ」や「2個入れるべき理由はない」など、スペース2個に対する反対意見が続出しました。

しかし、スペースを1個にするか2個にするかは、英語ネイティブの間でも依然として意見が分かれていて、よく議論の的になっています。試しに「sentence spacing」のキーワードでネット検索すると、数十万件もヒットします。ウィキペディアもありますので、ご興味のある方はご参照下さい(https://en.wikipedia.org/wiki/Sentence_spacing)。

スペース2個のメリット

スペースを2個入れるスタイルを批判する英語ネイティブが多いにも関わらず、筆者はなぜスペース2個を推奨し続けているかと言いますと、今や英語文書の読者は英語のネイティブスピーカーだけではないからです。私達日本人のように、母国語がアルファベット表記でない人たちにとっては、スペースが2個入っているほうが「文章の区切り」が断然わかりやすく、英文が読みやすくなります。したがって、非英語ネイティブにもわかりやすい「global English」の観点から考えると、文字による英語の意思疎通を速くスムーズに進めるためには、文末のスペースは1個より2個にするほうがよいと言えます。

このような私見を、前述のAMWA会員専用メーリングリストに投稿したところ、スペース2個に対する批判がぴたりと止まりました。また、「アジア言語の人たちの視点で考えたことがなかった。有益なコメントをありがとう」と感謝の言葉を寄せてくれたネイティブ会員もいました。

スペースを2個入れるメリットは、アルファベットを使っている欧米人には気付きにくいので、批判や反対をする英語ネイティブがいたら理由を説明して、global English」の観点から英文を書くことを薦めてあげて下さい。その上で、業務上関係するネイティブらともよく相談して、文末のスペースの数を決めるとよいでしょう。

まとめ

英文の最後に打つピリオドの後のスペースの数
・論文では通例1個
・その他では2個がおススメ!非英語ネイティブには文章の区切りがわかりやすい。

 

RECOMMEND こちらの記事も人気があります。
英文を速く読む方法
速くて楽な語彙力強化法:医薬用語の接頭語と接尾語を知る
「hip」はお尻じゃない!(裏取りの重要性)
独学可能!英語医学論文の書き方をマスターする4つの方法
『AMA Manual of Style』の勉強法
ICH E3ガイドラインに基づく治験総括報告書作成・翻訳の注意点
製薬業界のメディカルライター必見!EMWAとAMWAがCSRマニュアル『CORE Reference』を共同作成中
CSRマニュアル「CORE Reference」を読む3つのメリット

 

著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
→ 詳しいプロフィールはこちら

ページの先頭へ戻る

英語論文では翻訳者らへの謝辞が必要

※2024年4月7日更新

今回も、2013年4月25日に日本メディカルライター協会(JMCA)主催のセミナー「国際的な医学雑誌への論文アクセプトのための戦略」に参加した話の続きで、英文メディカルライティングや論文執筆・英訳に携わる方々にぜひお伝えしたい内容2つのうち2番目をご報告します。それは「貢献者への謝辞を忘れずに!」です。

 

1. 英語論文の国際的ガイドラインの規定

ご存知のとおり、医学論文に関する国際的ガイドラインには様々なものが存在します。代表的なものとして、ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors)の統一投稿規定「Uniform Requirements for Manuscripts」が挙げられますが、名称が「Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Publication of Scholarly Work in Medical Journals」に変更され、今年8月に更新されました(http://www.icmje.org/)。

他には、製薬企業等から資金提供を受けた医学研究の論文発表に関するガイドライン「Good Publication Practice for Communicating Company-Sponsored Medical Research」の第2版(GPP2ガイドライン)が2009年にBMJオンライン版で発表されています(http://www.bmj.com/content/339/bmj.b4330.long)。

英語論文執筆者や、英語論文の作成に携わるメディカルライター・翻訳者・校閲者は、これらのガイドラインに精通している必要があります。論文関連ガイドラインをまとめてお知りになりたい方には、EQUATOR Networkのサイトが便利です(http://www.equator-network.org/)。これらのガイドラインやサイトは、4月のJMCAサロンでも紹介されていました。

上記のガイドラインなどでは、論文著者の資格・条件(authorship)が明確に規定されており、著者の条件に満たない貢献者は「謝辞」(Acknowledgements)のセクションに記載すること(contributorship statement)が求められています。貢献者には、論文作成を支援するメディカルライターや翻訳者、英文校閲者なども含まれます

2. 日本人が翻訳者らへの謝辞を書かない原因

2.1 論文ルールの普及の低さ

筆者は知り合いの医師らから論文の和文英訳や英文校閲を依頼されると、「謝辞」に翻訳者などの名前を記載するよう、十年以上前から助言しています。なぜなら、多くの日本人医師・研究者は、そもそも論文関連の国際的なガイドラインの存在を知らず、論文作成の貢献者を「謝辞」に書くという国際的なルールを知らないからです。

貢献者の記載の必要性を説明すると、first authorの若い医師らは「謝辞」への記載を快諾してくれることが多いです。しかし、指導医や教授などによるチェックの際に「謝辞」から貢献者の記載が削除されてしまうことがよくあります。教授と言えども、論文の国際的なガイドラインの存在や、貢献者の記載の必要性などを知らない場合が多いのではないかと思います。

2.2 英語コンプレックス

日本人医師・研究者は、翻訳者やネイティブチェッカーの力を借りたことを「謝辞」に書くと、「自分の英語力が低いことが露呈してしまうのではないか」と恐れる傾向が見受けられます。

2.3 論文は研究者自身が書くという思い込み

海外では英語ネイティブの医師・研究者でさえ、メディカルライター・エディターらの協力を得て論文を作成・推敲していることが多いという事実は、日本では依然としてあまり知られていないため、日本人は自分で英語論文を書かないことは「恥ずかしい」という考え方が根強いように思います。実際、「英語の論文くらい自分で書けなくてどうする!俺が若い頃は・・・」などと中高年の医師に叱られ、当方に助けを求めて来られる医師が後を絶ちません。

3. 翻訳者らへの謝辞を書くメリット

多くの日本人医師・研究者が持つ古い考えとは逆に、貢献者を「謝辞」に書くことには複数のメリットがあります。

(1)プロのメディカルライターやパブマネに論文作成を手伝ってもらったことを書けば、関連ガイドラインに従って世界に通用する倫理的な論文を作成したことを査読者や投稿先の編集者らに印象付けることができます。

(2)プロの医薬翻訳者に英訳を頼んだことや、ネイティブチェッカーに英文を校閲してもらったことを書けば、論文の英語の質が悪くないことを査読者や編集者らに示唆することができ、投稿先から「ネイティブに英語をチェックしてもらうように」と門前払いされるリスクが減ります。

(3)いわゆる「ゴースト・ライティング」は倫理上問題であることを認識している方が多いと思いますが、メディカルライターや翻訳者らに英文を作ってもらったら、その旨を「謝辞」に明記すれば「ゴースト・ライティング」を回避できます。

したがって、「謝辞」に論文作成の貢献者を書かないのはむしろ勿体ないと思います。このような点からも、貢献者の記載を論文著者に勧めています。

4. 英語論文作成の教育の必要性

JMCAサロンのQ&Aセッションでは、Woolley教授に、上述のような日本独特の問題・原因が存在することを説明し、意見を伺ったところ、やはりメディカルライターや翻訳者、英文校閲者などの貢献者は「謝辞」に書くべきであり、そのためには医師や研究者に対する英語論文作成の「教育」が重要だとおっしゃっていました。

5. 翻訳者らへの謝辞の書き方

医師・研究者が翻訳会社などに論文の和文英訳や英文校閲を外注した場合は、誰が翻訳・校閲したのかわからないことが多いですが、外注先の組織名を「謝辞」に書けばOKです(例:We thank Clinos for translating the early version of manuscript.)。翻訳者や校閲者がわかる場合は、貢献者の氏名(+所属先)を書きましょう(例:We thank Yukie Uchiyama, MD of Clinos for editing the manuscript.)。

6. 論文翻訳・校閲側の問題

世界に通用する英語論文を作成できる知識とテクニックを持つ日本人メディカルライター・医学翻訳者・校閲者は、残念ながら依然として極めて少ないです

英語論文の作成に携わるメディカルライター・翻訳者・校閲者は、「謝辞」に名前が載るほど責任ある仕事を任されていることを自覚し、それに値する実力のない人は英語論文関連の受注を慎むべきだと思います。英語論文の書き方や作法を知らないどころか、日本語の医学論文さえ読んだことのない駆け出しの翻訳者が、仕事欲しさに論文の和文英訳を引き受けるなど言語道断です。このようなフリーランスに論文の英訳を発注する翻訳会社やCROなども再考が必要だと思います。

7. まとめ

前回のブログでご紹介した「剽窃」の問題などもあり、単に日本語を英語に置き換えただけでは、海外の医学雑誌に論文を投稿しても受理されにくい時代になっています。また、研究や論文の「透明性」が一層求められていますので、英語論文の作成を依頼する側も引き受ける側も、意識改革と日々の学習が必要と言えるでしょう。

RECOMMEND こちらの記事も人気があります。
独学可能!英語医学論文の書き方をマスターする4つの方法
英借文では英語表現の盗用に要注意!
論文のパブリケーション・マネジメント

 

著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
→ 詳しいプロフィールはこちら

ページの先頭へ戻る

英借文では英語表現の盗用に要注意!

前回、今年4月25日に日本メディカルライター協会(JMCA)主催のセミナー「国際的な医学雑誌への論文アクセプトのための戦略」に参加したことを書きましたが、今回はその続きです。

スタットコム株式会社の戸梶亜弥氏がパブリケーション・マネジメントについて概要を説明して下さった後、Karen Woolley教授が同僚のJason Khoh氏と「国際的な医学雑誌への論文発表:成功への5つの鍵」というテーマでお話し下さいました。その後のQ&Aセッションでは、講師全員が様々な質問に答えて下さいました。その中で、英文MWや論文執筆・英訳に携わる方々にぜひお伝えしたい内容を2つ選び、今回はその1つ目をご報告します。

他人の論文からの英語盗用に要注意!

他人の文章や表現を無断で借りて、出典を明示しないことを「剽窃(ひょうせつ)」や「言葉・文章の盗用(とうよう)」と言い、英語ではいずれも「plagiarism」と言います

最近、欧米では多くの医学雑誌が剽窃・盗用の検出ソフト(例:CrossCheck)を使い、投稿論文の剽窃の有無をチェックしています。剽窃は不正行為であり、「著作権侵害」になることも多いため、著者がインターネット上の情報や他人の論文の英語表現を盗用していないかを編集者が確認する目的で、剽窃検出ソフトが使われるようになりました。日本でも、剽窃検出ソフトを導入する医学雑誌が増えていますし、大学・大学院では学生のレポート評価などに利用され始めています。

そこで、剽窃検出ソフトの利用の実態をJMCAセミナーで尋ねたところ、Woolley教授がCEOを務めるメディカルライティング会社(ProScribe Medical Communications)では、投稿前の論文に専用ソフトを使って剽窃の有無を確認しているとのことでした。このことより、投稿論文を受け取る医学雑誌側のみならず、論文の作成に携わるメディカルライティング会社やパブマネも剽窃検出ソフトを使って、論文の剽窃防止に努めていることがわかりました。

このように海外では剽窃に対するチェックが厳しくなっていますので、「英借文」をすることの多い日本人著者・翻訳者は注意が必要です。医薬分野でよく使われる定型表現(例:at a dose of X mg)や定型文(例:The drug was administered orally to the patients.)を使うことは剽窃にはなりません。しかし、それ以外の文章や表現を借りる場合は、引用のルールに従って適切に引用するか(例:引用符で括り、出典を明示する)、十分な言い換え(paraphrasing)を行わなければ「剽窃」や「盗用」と見なされてしまいますので、細心の注意が必要です。

剽窃の防止策は?

JMCAセミナーでは剽窃の効果的な防止策についても尋ねたところ、Woolley教授は著者らを教育することが重要とおっしゃり、Khoh氏は具体的に類義語のボキャブラリーを増やし、paraphrasingの練習を積むことを提案なさっていました。お二人のご意見に全く同感です。

私からのお勧めは、今年6月に発売された書籍『英文ライティングと引用の作法:盗用と言われないための英文指導』(著:吉村富美子、発行:研究社、定価:2,200円)をお読みになり、「引用」と「剽窃」の違いや引用の正しい方法を知ることです。

この本は大学・大学院で論文などの英文ライティングを指導する教員向けに書かれたものですが、指導者以外にも役立つ内容が盛り沢山で、引用と剽窃の文化的背景から剽窃の防止策まで体系的に学べます。また、剽窃を疑われないようにするための英文ライティング能力を学生に身に付けさせる指導法は、そのまま英文メディカルライティングの学習法に応用でき、効果的な学習法を知ることができます。英語のみならず日本語のライティングにも共通する概念や対策も含まれていますので、論文執筆者やメディカルライター、医薬翻訳者らには必読の本だと思います。ぜひご一読下さい。(次回に続く)

RECOMMEND こちらの記事も人気があります。
独学可能!英語医学論文の書き方をマスターする4つの方法
論文のパブリケーション・マネジメント
英語論文では翻訳者らへの謝辞が必要
メディカルライティング・医薬翻訳と著作権

ページの先頭へ戻る

論文のパブリケーション・マネジメント

少し前の話になりますが、今年4月25日に日本メディカルライター協会(JMCA)主催のセミナー「国際的な医学雑誌への論文アクセプトのための戦略」に参加しました。その理由は、医学論文の英訳を長年手掛けているということもありますが、講師の1人がオーストラリアの有名メディカルライターKaren Woolley教授(クイーンズランド大学)だったからです。

Woolley教授は、2009年10月に開催された米国メディカルライター協会(AMWA)の年次総会で、北米人以外では初めて基調講演の演者に抜擢され、グローバルな視点から今後のメディカルライティングについてお話しをされました。ほぼ毎年日本からはるばる参加して苦労している私にとっては、まさに代弁して下さっているような提案もあり感動したので、講演後に声を掛け、少しお話しさせて頂きました。(私が書いた2009年AMWA年次総会レポートはこちら⇒http://www.jmca-npo.org/link/201001.html

そのWoolley教授に日本で再会でき、講義も聞けるとあっては、セミナーに参加しない手はありません。JMCAからセミナーの案内を受け取るとすぐに申し込みました。

セミナーでは、まずスタットコム株式会社メディカルコミュニケーション部長の戸梶亜弥氏が)「パブリケーション・マネジメント」(publication management)ついて概要を説明して下さいました。

「パブリケーション・マネジメント」という言葉を聞いたことがない方が多いかもしれませんが、これは論文投稿を計画的に行うことであり、欧米ではパブリケーション・マネジメントを専門に手掛け、論文の著者を手助けする「パブリケーション・マネジャー」(略称:パブマネ)も存在します。日本ではまだ馴染みの薄い概念と職業ですが、論文の作成・翻訳に携わる方は覚えておくと良いでしょう。

欧米では「パブリケーション・マネジメント」が普及してきていますから、日本人が英語で論文を書いたり、日本語の論文を英訳したりしただけでは、海外の医学雑誌にアクセプトされるのが難しくなってきています。今後は研究や臨床試験の計画時からパブマネと協力して計画的・戦略的に投稿の準備を進めていかなければ、欧米の論文と同じ土俵で戦えないかもしれません。

そのような状況下、戸梶氏はInternational Society for Medical Publication Professionals (ISMPP)のcertified medical publication professionalであり、すでにパブマネの国際的な資格を取得している日本人が存在するというのは大変心強いです。(次回に続く)

RECOMMEND こちらの記事も人気があります。
独学可能!英語医学論文の書き方をマスターする4つの方法
英借文では英語表現の盗用に要注意!
英語論文では翻訳者らへの謝辞が必要

ページの先頭へ戻る

AMA Manual of Styleの勉強法

※第11版に合わせて記事をアップデートし、第11版の該当するセクションを赤字で示しました(更新日:2023年7月3日)

医薬分野の英文ライター、英文校閲者、英訳者にとって必携の医薬英文スタイルガイド『AMA Manual of Style』は百科事典のように厚く、内容が盛り沢山なので、「どこから読んで勉強すればいいのかわからない」といったお悩みをよく聞きます。そこで、下記の3ヵ所を下記の順序で勉強することをお勧めします。

1. 第11版 セクション7.0「Grammar」~セクション16.0「Greek Letters」
(第10版:セクション2「Style」)

文法やpunctuation(カンマ、セミコロン、コロン等)、略語の使い方など、いわゆる「医薬英文の書き方のルール」が書かれているのがこれらのセクションです。したがって、まずセクション7.0から読み始めて基本的なルールを身に付けるとともに、『AMA Manual of Style』がどのような英文スタイルを採用しているのかを知ると良いと思います。

また、セクション11.0「Correct and Preferred Usage」には、英語ネイティブのメディカルライターでも間違いの多い類義語の使い分けや、冗長な表現(redundant words)などが載っているので、正確かつ簡潔明瞭な医薬英文を書く基礎知識・テクニックを身に付けるのに役立ちます。

2. 第11版 セクション17.0「Units of Measure」~セクション20.0「Mathematical Composition」
(第10版:セクション4「Measurement and Quantitation」)

これらのセクションには数字、単位、%などの書き方や統計用語集(セクション19.5「Glossary of Statistical Terms」)が載っているので、研究・試験の結果・データ統計記述を英語で書く際に必要な基礎知識が得られます。

3. 第11版 セクション4.0「Tables, Figures, and Multimedia」
(第10版:セクション1「Preparing an Article for Publication」中の4「Visual Presentation of Data」)

ここには図表の書き方が、多くの実例とともに載っています。アカデミアや製薬企業などでは、図表は統計担当者が作成することが多いので、「メディカルライターや医薬翻訳者、英文校閲者に図表の書き方は関係ない」と思うかもしれません。

しかし、英語の図表には様々なルールがあり(例:脚注の書き方)、日本語の図表と異なる点もあるので(例:表に縦線は引かない)、統計担当者が英語の図表のルールを知らない場合は、英語文書作成時にメディカルライターや医薬翻訳者、英文校閲者が図表をチェック・修正したり、統計担当者に助言したりする必要があります。

また、英訳の外注時には図表の英訳も含まれていることが多々あるので、翻訳者は図表のタイトルや項目名などを英語に置き換えるだけでなく、日本語の図表全体を英語の図表の形式に適宜直せなければなりません。

ところが、英語の図表は日本語の図表と異なる点があることを知らない翻訳者が多いせいか、英語の図表の形式に直していないケースが多く見られます。

したがって、メディカルライターや医薬翻訳者、英文校閲者も英語の図表の基本的な書き方日本語の図表との違いを知っておくと良いでしょう。

まとめ
分量の多い『AMA Manual of Style』で、メディカルライターや医薬翻訳者、英文校閲者が最低限読むべき箇所は上記の3つだけです。それでも、頁数にすると結構多くて大変だと思うかもしれませんが、例文が非常に多く載っているので、実際に読むべき説明文はそれほど多くありません。恐れずに、まずセクション7.0から読み始めてみて下さい。「千里の道も一歩から」です。

英語の文法用語やライティング用語などがわからなくて読みにくいという方は、「英文ライティング用語の日本語訳リスト」をご活用下さい。

また、『AMA Manual of Style』のホームページに練習問題「Style Quizzesがあるので、上記の各セクションを読みながら練習問題に挑戦して習熟度をチェックすると、達成感が得られて勉強を続けやすいと思います。

追記1:『AMA Manual of Style』第11版が2019年に発行されることが、2018年秋の米国メディカルライター協会年次総会で発表されました。

追記2:『AMA Manual of Style』第11版の発行時期が2020年1月末に延期されたことが、2019年秋の米国メディカルライター協会年次総会で発表されました。

追記3:『AMA Manual of Style』第11版が2020年2月に発刊されました。

【補足情報】
『AMA Manual of Style』は米国医師会(AMA)の学術誌『JAMA』の論文投稿規定であり、日本人が間違いやすい点などは考慮・記載されていませんので、拙著『薬事・申請における英文メディカル・ライティング入門』シリーズI巻改訂版(絶版)を併用して、日本人が気をつけるべき点を知って頂くと学習効果が上がると思います。拙著には『AMA Manual of Style』第10版の参照頁も記載されていますので、ぜひご活用下さい。書籍情報はこちら
(追記:『薬事・申請における英文メディカル・ライティング入門』I巻改訂版は好評につき完売し、2019年1月に販売終了・絶版となりました。あしからずご了承下さい)

関連記事
AMA Manual of Styleオンライン版の国内利用
英文ライティング用語の日本語訳リスト
英文メディカルライティング通信講座
AMWAの英文ライティング自学教材

RECOMMEND こちらの記事も人気があります。
英文ピリオド後のスペースは何個にすべき?
英文を速く読む方法
速くて楽な語彙力強化法:医薬用語の接頭語と接尾語を知る
独学可能!英語医学論文の書き方をマスターする4つの方法

著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
→ 詳しいプロフィールはこちら

ページの先頭へ戻る

AMA Manual of Styleオンライン版の国内利用

※2024年3月28日更新

ご存知の方も多いかと思いますが、欧米でしか使えなかった『AMA Manual of Style』オンライン版が、第10版から、日本を含む全世界で利用可能になりました(現在の最新版は第11版です)。個人でも、企業でも、アカデミアでも利用可能です。料金や購入方法は『AMA Manual of Style』ホームページ「Purchase」セクションをご覧下さい。

国内の問い合わせ先:オックスフォード大学出版局株式会社
〒108-8386 東京都港区芝4-17-5 相鉄田町ビル3F
TEL:03-5444-5454
日本語ウェブサイトはこちら

オンライン版の特長は主に3つあります。

  1. 誤字・脱字の修正や、改訂後の変更箇所(マイナーチェンジ)などが反映された最新バージョン
  2. 検索が早くて楽
  3. ネット環境があれば、どこでも利用可能(リモートワーク時に便利)

『AMA Manual of Style』のホームページには、改訂後のマイナーチェンジ一覧「Updates」や、スタイルに関する練習問題「Style Quizzes」など、有用なコーナーもありますので、ぜひ一度ご覧になってみて下さい。練習問題は、オンライン版利用者だけでなく誰でも利用可能ですので、自習だけでなく勉強会などにも幅広くご利用になれると思います。

国内の製薬業界では、メディカルライターや社内翻訳者の間でスタイルガイドの利用や『AMA Manual of Style』が普及し、社内で英語文書を作成する際だけでなく、英語文書作成を外注する際にもスタイルガイドを指定することが増えています。

しかし、CRO・翻訳会社やフリーランスのメディカルライター・医薬翻訳者の間では、スタイルの統一などの必要性があまり認識されておらず、スタイルガイドの利用や『AMA Manual of Style』の普及が十分進んでいないようです。そのため、製薬企業からは以下のようなご不満の声を時々耳にいたします。

  • 英語文書作成の外注時に社内の英文スタイルガイドを外注先に提供しても従わず、スタイルも統一されていない納品物が多い。
  • 翻訳会社に英訳を外注した際に英文スタイルの統一などを要請したら、多額の追加料金を請求された。
  • 契約しているネイティブ翻訳者が「自分のスタイルのほうが良い」と言って、指定のスタイルガイドに従ってくれなかった。

英語論文でも、投稿規定に従ってスタイルを統一することが欠かせませんから、文書の種類を問わず、スタイルの統一は英文ライティング・英訳作業の極めて重要な要素です。

今後は製薬企業やアカデミアだけでなく、CRO・翻訳会社やフリーランスのライター・翻訳者の間でもスタイル統一の必要性がもっと認識されること、そして医薬分野の英文スタイルガイドの「グローバル・スタンダード」と呼ばれ、多くの論文投稿規定や企業内スタイルガイドの基礎となっている『AMA Manual of Style』に精通する方が増えることを願っています。

追記1:『AMA Manual of Style』第11版が2019年に発行される予定です。

追記2:『AMA Manual of Style』第11版の発行時期が2020年1月末に延期されました。

追記3『AMA Manual of Style』第11版が2020年2月に発刊されました。「ハードカバー版」、「オンライン版」、「ハードカバー版+オンライン版」セットの3種類があります。購入方法など詳細はホームページをご覧下さい。

関連記事
『AMA Manual of Style』の勉強法
英文ライティング用語の日本語訳リスト
英文メディカルライティング通信講座
AMWAの英文ライティング自学教材

著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
→ 詳しいプロフィールはこちら

ページの先頭へ戻る