【CORE Reference Newsとは】
治験総括報告書(CSR)のユーザーマニュアル『CORE Reference』を作成・公開している欧米のメディカルライターらから成るCORE Reference Teamが、無料配信しているニュースレター(英語)。メディカルライティングなどに役立つ医薬業界情報を欧米・アジアなどから集めて月1~2回配信。
※本ブログ記事は、クリノスがCORE Reference Teamの許諾を得て参考用として日本語に翻訳したものです。正確な内容や解釈は英語原文と各ニュース中のリンク先でご確認下さい。本ブログ記事の無断転載・転用は堅く禁止いたします。
【略語リスト】(アルファベット順)
- CBER:Center for Biologics Evaluation and Research(米国FDAの生物製剤評価研究センター)
- CDER:Center for Drug Evaluation and Research(米国FDAの医薬品評価研究センター)
- CIOMS:Council for International Organizations of Medical Sciences(国際医学団体協議会)
- CTIS:Clinical Trials Information System(EU臨床試験情報システム)
- CTR:Clinical Trials Regulation(EU臨床試験規則)
- EMA:European Medicines Agency(欧州医薬品庁)
- EU/EEA:European Union/European Economic Area(欧州連合/欧州経済領域)
- FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
- HMA:Heads of Medicines Agencies(欧州医薬品規制当局首脳会議)
- ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)
- MHRA:Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(英国医薬品医療製品規制庁)
- RWD:real-world data(リアルワールドデータ)
- RWE:real-world evidence(リアルワールドエビデンス)
1. EU CTRとCTIS
1.1 2024年12月13日、以下の3文書の各更新版がACT EUの公式サイトで発表されました。
- 「Q&A on protection of Commercially Confidential Information and Personal Data while using CTIS」(CTIS使用時の営業機密情報 [CCI] および個人データの保護に関するQ&A)バージョン2.2
- 「Guidance document on how to approach protection of personal data and CCI while using CTIS」(CTIS使用時の個人データおよびCCIの保護へのアプローチ方法に関するガイダンス文書)のAnnex Ⅰの表Ⅰ(実質的にはQ3.2の更新)
- 関連するクイック・ユーザーガイド「Revised CTIS transparency rules and historical trials: quick guide for users」(改正CTIS透明性ルールと過去の臨床試験:ユーザー向けクイックガイド)バージョン1.8
ヒト用医薬品の製造販売承認申請(MAA)におけるCCIと個人情報の特定と開示の原則が更新されました。これにより、医薬品承認後に情報を一般公開する際、EMA文書の開示請求への対応とデータの積極的な開示の両面において、広範な透明性が確保されます。
今回のガイダンス更新は、2012年のガイダンス発出以来、規制当局が進めてきた透明性の向上と歩調を合わせるものです。更新版では、個人を特定できるような個人データがどのように保護されるかも規定されています。
訳注)ACT EU(Accelerating Clinical Trials in the EU):欧州での臨床試験の開始・設計・実施方法を革新して、高品質で有効・安全な医薬品の開発を促進することや、臨床研究を医療制度へさらに組み込むことなどを目的として、欧州委員会とEMAとHMAの三者が共同で始めた取り組み。
1.2 EMAは次回のCTISショート説明会を2025年1月29日16:00~17:00(アムステルダム時間)に開催します。事前の質問は、2025年1月6~22日にSlidoからコード「#clinic249」を使用して提出可能です。
1.3 EMAは以下の4文書について各々更新版を発表しました。
- 「CTIS public portal: Trial Results」(CTISパブリックポータル:臨床試験結果)(2024年12月10日付)
- 「CTIS public portal: Full trial information」(CTISパブリックポータル:臨床試験の詳細情報)(2024年12月10日付)
- 「CTIS Structured data form instructions – initial application, additional MSC, substantial and non-substantial modifications」(CTIS構造化データフォームの記入方法:初回申請、実施加盟国 [MSC] 追加申請、substantial modification [SM] 申請、non-SM申請)(2024年12月11日付)
- 「FAQs How to create, submit and withdraw a CTA — CTIS Training Programme — Module 10, v 1.7」(臨床試験開始申請 [CTA] の作成、提出、取り下げ方法に関するFAQ:CTIS研修プログラム、モジュール10、バージョン1.7)(2024年12月付)
1.4 2024年12月18日、EMAとHMAはガイダンス「HMA/EMA guidance document on the identification of personal data and commercially confidential information within the structure of the marketing authorisation application (MAA) dossier」(販売承認申請 [MAA] 書類の構造内での営業機密情報 [CCI] と個人情報 [PPD] の特定に関するHMA/EMAガイダンス文書)の改訂版(全53頁)を発表しました。
本ガイダンスは、国内手続きや相互承認手続き、地方分権手続き、中央集権手続きの下で規制上の手続きが完了したヒト用医薬品の情報・文書を適用対象としています。本ガイダンスには、PPDまたはCCIと見なされる場合がある情報に関するAnnex(付属書)が添付されています(後述の記事No.1.5参照)。
EMAは、本ガイダンスの改訂に伴い、「A common EU approach to data transparency in medicine regulation」(医薬品規制のデータ透明性に対するEUの共通アプローチ)を発表しました。今回の改訂については、RAPSのレビュー記事「EMA, HMA overhaul guidance on data transparency in MAAs」(EMAとHMAがMAAのデータ透明性に関するガイダンスを全面的に見直し)もご参照下さい。
訳注)RAPS(Regulatory Affairs Professionals Society:薬事専門家協会):医薬品や生物製剤、医療機器、デジタルヘルスなどの規制に携わる専門家の世界最大の組織。1976年に米国で設立され、国内外の規制当局やアカデミア、製薬・医療機器業界などの専門家により、レギュラトリーサイエンスの情報交換や教育を実施。
1.5 EMAはガイダンス「HMA/EMA guidance document on the identification of personal data and commercially confidential information within the structure of the marketing authorisation application (MAA) dossier」(販売承認申請 [MAA] 書類の構造内での営業機密情報 [CCI] と個人情報 [PPD] の特定に関するHMA/EMAガイダンス文書)のAnnex I(付属書I)を、2024年12月13日付で発表しました。Annexには、臨床試験でコンプライアンスと透明性を担保するための開示ルールや構造化データ、文書の種類、開示のタイムラインが詳述されています。
1.6 EMAは、EUにおける医薬品の電子製品情報(ePI)の導入に向けた次のステップと、導入のための推奨事項をまとめた報告書「ePI pilot report: Experience gained from creation of ePI during regulatory procedures for EU human medicines」(ePIパイロットプロジェクト報告書:EUのヒト用医薬品の規制手続き中にePIを作成した経験)を発表しました。医薬品の製品情報には製品特性概要(SmPC)、ラベリング、医薬品添付文書が含まれます。
報告書の背景などについては、EMAの「Successful pilot paves the way for implementation of ePI」(試験的導入の成功によりePI実装へ前進)をご覧下さい。
2. 英国とMHRAのニュース
英国の新たな臨床試験規則が、2024年12月12日に英国国民保健サービス(NHS)の医療研究機構(HRA)とMHRAによって英国議会に提出されました。新たな規則は2025年に審議され、12ヶ月の実施期間を経て2026年初頭に施行される見通しです。
新たな規則では、世界保健機関(WHO)が指定する治験・臨床研究登録機関(レジストリ)に臨床試験を登録し、試験終了から12か月以内に結果の概要を公開することが初めて法的に義務付けられます。規則の主な変更点については、「New clinical trials regulations laid in parliament today」をご覧下さい。
3. 米国FDAのガイダンスとニュース
3.1 米国国立衛生研究所(NIH)は、NIHが資金提供した研究の成果をできるだけ早く利用できるようにするため、新たに「NIH Public Access Policy」を発表しました。
また、NIHは、研究者や臨床医、学生、一般の人々が研究結果を簡単に見つけて利用できるようにするための計画「NIH Plan to Increase Findability and Transparency of Research Results Through the Use of Metadata and Persistent Identifiers」(メタデータと永続的識別子 [PID] の利用により研究結果の検索性と透明性を高めるNIH計画)も発表しました。この計画に対するパブリックコメントを2025年2月21日までこちらで受け付けています。
3.2 2024年12月26日、FDAは全13頁のガイダンス案「Protocol Deviations for Clinical Investigations of Drugs, Biological Products, and Devices」(医薬品、生物学的製剤、医療機器の臨床試験におけるプロトコル逸脱)を発出し、パブリックコメントを2025年2月28日までこちらで募集しています。プロトコル逸脱に関するFDA規制の既存の問題に対処するため、ガイダンス案には以下の内容などが含まれています。
- 「プロトコル逸脱」と「重要なプロトコル逸脱」の各定義
- 治験依頼者が医薬品や医療機器の治験総括報告書(CSR)でFDAに報告すべきプロトコル逸脱の種類に関する推奨事項
- 治験責任医師が治験依頼者と治験審査委員会(IRB)に報告すべきプロトコル逸脱の種類に関する推奨事項
- IRBによるプロトコル逸脱評価に関する推奨事項
本ガイダンス案でFDAは、ICH E3(R1)ガイドラインの「プロトコル逸脱」と「重要なプロトコル逸脱」の各定義を採用しています。
4. 透明性・情報開示のリソースとニュース
4.1 Khaled El Emamらは論文「Perspectives of Canadian privacy regulators on anonymization practices and anonymized information: a qualitative study」(匿名化の実施と匿名化情報に関するカナダのプライバシー規制当局の見解:定性的研究)を発表しました。
この論文は、匿名化の実施や匿名化情報の定義に関する規制の精度と一貫性がカナダ全土で欠けていることや、データ匿名化の方法に関して一般的に受け入れられる国のガイダンスが存在しないことを示しています。このような状況は、法域を超えて匿名化データを共有するための国の技術的解決策や政策の策定を阻んでいます。
著者らは匿名化の実施と匿名化データの規制方法に関してプライバシー規制当局の見解を理解するため、カナダのプライバシー規制当局者の93%を対象に定性的インタビュー調査を実施しました。この論文に関するウェビナー「How Canadian Regulators Approach De-Identification: An Interview Study」(カナダ規制当局は匿名化にどのように取り組んでいるか:インタビュー調査)が、2025年2月11日に開催されます。
4.2 Real Life Sciences社は、新たにポッドキャスト「Which Methodology Should I Choose? Qualitative & Quantitative Anonymization for Policy 0070 and PRCI Disclosure Submissions」(匿名化の方法はどちらを選ぶべきか?EMAのPolicy 0070およびカナダ保健省のPRCI [Public Release of Clinical Information] の開示提出における定性的匿名化と定量的匿名化)を公開しました。
規制の専門家やデータ透明性の専門家が利用可能な臨床データ匿名化の方法は、現在2つあります。このポッドキャストでは、定性的なプロジェクトを完了するためのベストプラクティスを深く掘り下げるなど、匿名化の定性的手法と定量的手法の違いを検証しています。
5. 開発戦略ニュース
5.1 Kooらは論文「Review of the European Union Clinical Trials Regulation: Key Early Learnings from the United Kingdom Drug Information Association Medical Writing Committee」(EU臨床試験規則 [CTR] のレビュー:英国DIAメディカルライティング委員会が得た知見)を発表しました。CORE Reference TeamのメンバーVivien Faganもこの論文の共著者の1人です。論文はこちらから全文無料でご覧頂けます。
同委員会は治験薬概要書(IB)や治験プロトコル、plain languageによるプロトコル概要、中間解析、補助医薬品(AxMP)、plain language summaryなどに関して得られた知見を論文にまとめています。
治験プロトコルの作成に関する留意事項としては、開示に向けたアプローチや、TransCelerate社提供の治験プロトコルの変更(例:治験終了の定義)、1年間に実施可能な修正(改訂)回数、情報提供依頼(RFI)に対するアプローチなどが挙げられています。
5.2 2024年12月5日にTransCelerate社とCDISCが共同開催したウェビナー「Digital Data Flow (DDF) Solution Showcase: December 2024」(デジタルデータフロー [DDF] ソリューションの紹介:2024年12月」のビデオ録画とスライドが公開されました。このウェビナーでは、複数のソリューションプロバイダーが治験プロトコルのデジタル化の革新的なソリューションを紹介しました。
訳注1)TransCelerate BioPharma Inc.:世界のバイオ医薬品企業約20社が協力して、新薬の効率的・効果的かつ高品質な提供を促進する方法を探求する非営利団体。日本の製薬企業も数社参画。治験総括報告書(CSR)や治験プロトコルのテンプレートなどを作成・提供。
訳注2)CDISC:Clinical Data Interchange Standards Consortium。臨床試験データなどの電子的収集・交換・申請に関して業界標準を策定している国際的な非営利組織。1997年に米国で設立され、国内外のアカデミアや製薬企業、CRO、IT企業などが参加。CDISCが規定する標準規格は「CDISC standard」(CDISC標準)と呼ばれている。
6. アジア規制当局のニュース
以下の臨床試験レジストリはクリスマス・年末から年始にかけて休止となります。
- 日本臨床研究等提出・公開システム(jRCT):2024年12月27日(金)16時~2025年1月5日(日)。問い合わせは2025年1月6日(月)から順次対応。
- オーストラリア・ニュージーランド臨床試験レジストリ(ANZCTR):2024年12月20日(金)~2025年1月6日(月)。レジストリ再開は2025年1月7日(火)。
翻訳:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
→ 詳しいプロフィールはこちら
※メールマガジン「クリノス通信」(無料)
国内外の業界情報や、英文ライティングのワンポイントレッスンなど
医薬翻訳・メディカルライティングに役立つ情報をお届けしています。
→ 購読申込はこちら