CORE Reference News 2024年3月30日号

CORE Reference Newsとは】
治験総括報告書(CSR)のユーザーマニュアル『CORE Reference』を作成・公開している欧米のメディカルライターらから成るCORE Reference Teamが、無料配信しているニュースレター(英語)。メディカルライティングに役立つ医薬業界情報を欧米・アジアなどから集めて月1~2回配信。

※本ブログ記事は、クリノスがCORE Reference Teamの許諾を得て参考用として日本語に翻訳したものです。正確な内容や解釈は英語原文と各ニュース中のリンク先でご確認下さい。本ブログ記事の無断転載・転用は堅く禁止いたします。

【略語リスト】(アルファベット順)

  • CDER:Center for Drug Evaluation and Research(米国医薬品評価研究センター)
  • CIOMS:Council for International Organizations of Medical Sciences(国際医学団体協議会)
  • CTIS:Clinical Trials Information System(臨床試験情報システム)
  • CTR:Clinical Trials Regulation(臨床試験規則)
  • EMA:European Medicines Agency(欧州医薬品庁)
  • EU/EEA:European Union/European Economic Area(欧州連合/欧州経済領域)
  • EudraCT:European Union Drug Regulating Authorities Clinical Trials
  • FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
  • HMA:Heads of Medicines Agencies(欧州医薬品規制当局首脳会議)
  • ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)
  • MHRA:Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(英国医薬品医療製品規制庁)
  • RWD:real-world data(リアルワールドデータ)
  • RWE:real-world evidence(リアルワールドエビデンス)

1. CORE Reference Teamからのお知らせ

欧州メディカルライター協会(EMWA)の第57回総会が、2024年5月7~11日にスペインのバレンシアで開催されます。この総会でCORE Reference Teamは、5月9日(木)午前9:00~10:30に対面式の無料オープンセッションを開催します。

本セッションでは、CORE Reference Teamが提供しているContinuous Professional Development(CPD:生涯スキル開発)のリソースを紹介するとともに、『CORE Reference』が治験総括報告書(CSR)のコンテンツについて提示しているガイダンスが、適切で世界的に通用する根拠を説明します。また、医薬品の臨床データ公開に関するEMA Policy 0070の新たな「Anonymisation Report」(匿名化報告書)テンプレートのレビューなど、規制当局への臨床試験結果報告や試験情報開示の状況全般に関して重要な最新情報を紹介します。さらに、2023年12月に実施した「CORE Reference 2023 Utility Survey」(CORE Reference 2023年利用調査)の最新情報もお知らせする予定です。

EMWA総会に参加される方は、ぜひCORE Reference Teamのオープンセッションにもご参加下さい。なお、医薬品開発を取り巻く規制状況は急速に変化しているため、本セッションの内容は、試験報告の規制に関する重要な最新情報などを反映して変更される場合があります。

2. EU CTRCTIS

2.1 HMAのCTCG(Clinical Trials Coordination and Advisory Group:臨床試験調整諮問グループ)は、「CTCG Best Practice guide for sponsors of multinational clinical trials with different Part I document versions approved in different Member States under the Directive 2001/20/EC that will transition to the Regulation (EU) No. 536/2014」(EU臨床試験規則No.536/2014に移行するEU臨床試験指令2001/20/ECの下、異なるEU加盟国で承認されたPart I文書のバージョンが異なる国際共同試験の試験依頼者のためのCTCGベストプラクティス・ガイド)のバージョン4(2024年3月7日付)を発表しました。今回の主な改訂点は以下のとおりです。

  • 治験依頼者は、臨床試験指令(EU CTD)から臨床試験規則(EU CTR)への移行をCTISに申請する際に臨床試験のカテゴリーを提案する必要があるが、「low-intervention clinical trials」(低介入試験)には申請しないこと。
  • 特定の状況におけるCTIS申請の詳細:(1)治験依頼者が治験薬(IMP)の製品所有者ではない場合、(2)IMPと補助薬(AxMP)に対する推奨事項、(3)EU CTDの下、一部のEU加盟国では介入試験とみなされていたが、他のEU加盟国では非介入試験とみなされていた場合。
  • EU CTDに基づく臨床試験について、EU加盟国すべてではなく一部が移行に含まれる場合のEU CTRアーカイブ規則と試験終了届。

2.2 2024年2月29日に開催されたCTISショート説明会「How to submit transitional trial in CTIS」(CTISでの移行試験の申請方法)の録画ビデオが公開されました。

2.3 CTCGは勧告書「Recommendation paper on principles of Good Laboratory Practices (GLP) for clinical trial applications under the EU Clinical Trials Regulation」(CTRに基づく臨床試験申請のためのGLPの原則に関する勧告書)を発表しました。また、必要なGLP遵守情報を治験依頼者が記載する表のテンプレートも公開されました。

2.4 EMAは「Clinical Trials Information System Webinar: Last Year of Transition」(CTISウェビナー:移行最後の年)と題したinformation dayを2024年3月25日に開催しました。本イベントのビデオ録画がこちらで近日公開予定です。

2.5 EMAは「EMA Management Board: highlights of March 2024 meeting」(EMA経営委員会:2024年3月開催の会議のハイライト)を公開しました。EU CTRについては、以下のように述べています。「EMAは、EUにおける臨床試験の今後のマイルストーンに関する最新情報を経営委員会に提供しました。欧州委員会は、EU加盟国と治験依頼者がCTISを効率的に利用できるよう、CTISに関するEMAの重要な近代化・簡素化作業を承認しました。CTISの改正透明性規則は、CTISに技術的に実装された後に適用されます。CTRの適用開始時に始まった3年間の移行期間は、2025年1月30日に終了します。CTISに移行予定の臨床試験のうち20%が移行済みです。治験依頼者には、承認手続きに最大3ヶ月要することを考慮して可能な限り早く申請書を提出するよう強く勧めます。」

2.6 「CTCG Best Practice Guide for sponsors – first substantial modification Part I after CTR transition」(治験依頼者用のCTCGベストプラクティス・ガイド:CTR移行後の最初の大幅な変更Part I)(2024年3月19日付、バージョン1.0)が新たに発表されました。本ガイドは、CTR移行後の臨床試験の「substantial modification (SM)」(大幅な変更)に関して、どの文書を更新すべきか、従来よりも詳しいガイダンスを示しています。また、SM申請用カバーレターのテンプレートSM説明書用のテンプレートなど、SM申請に必要な情報をまとめるのに役立つテンプレートが提供されています。

3. EUの規制

3.1 EU薬事法の改正

3.1.1 2024年3月19日、欧州議会の環境・公衆衛生・食品安全委員会は、EU薬事法の改正に関する見解を採択しました。提案されている新たな規制は、以下のような主要な現行法を改正または廃止するものとなっています。

  • 規制(EC)No 1394/2007(先端医療医薬品 [ATMP])
  • 規制(EU)No 536/2014(EU CTR)
  • 規制(EC)No 726/2004(医薬品の承認)
  • 規制(EC)No 141/2000(オーファン医薬品)
  • 規制(EC)No 1901/2006(小児用医薬品)

国会議員は2024年4月10~11日の本会議でこの見解について討議し、採決を行う予定です。

欧州製薬団体連合会(EFPIA)はこの進展を歓迎し、声明「Research based pharmaceutical industry calls on European Commission to develop comprehensive health and life science strategy」(研究を基盤とする製薬業界は欧州委員会に対して、包括的な医療・ライフサイエンス戦略の策定を求める)を発表しました。「この目的は、欧州が医療の研究開発の中心地としての地位を取り戻し、革新的な治療法や医療技術を欧州の患者が真っ先に利用できるようにすることであるべき」と述べています。

3.1.2 EMAは「Guideline on quality, non-clinical and clinical requirements for investigational advanced therapy medicinal products in clinical trials」(臨床試験における治験用先端医療医薬品 [ATMP] の品質要件、非臨床要件、臨床要件に関するガイドライン)の改正案を発表しました。本案は遺伝子治療医薬品、体細胞治療医薬品、組織工学医薬品、combined ATMP(訳注:医療機器と組み合わせたATMP)を対象としています。パブリックコメントは2024年5月31日まで受け付けています。(訳注:後述のセクション4.2にも同ガイドライン改正案の情報があります。ご興味のある方は併せてご覧下さい)

3.2 欧州医療データスペース

2024年3月15日、欧州理事会と欧州議会は、欧州医療データスペース(EHDS)に関して政治合意に達しました。この新しい法律により、EU全域で医療データの交換とアクセスが可能になるとともに、匿名化された特定のデータを研究やイノベーションに利用できるようになります。特筆すべきは、EHDSが、研究やイノベーション、公衆衛生の目的で医療データを再利用するための強力な法的枠組みを構築する点です。EHDSに関する新しいファクトシートはこちらからダウンロード可能です。

3.3 ACT EU

EMAは「Accelerating stakeholder collaboration to enhance the clinical trials environment in the EU」(EUの臨床試験環境強化に向けたステークホルダーの協力促進)と題するニュースを発表しました。「Accelerating Clinical Trials in the EU (ACT EU)」(EUの臨床試験の加速化)イニシアチブは、EUの臨床試験環境の強化に向け、主要な関係者(欧州委員会とEMAとHMA)を集めたマルチステークホルダー・プラットフォーム(MSP)を確立しました。MSPが検討するテーマは臨床試験のデザインと実施、統計解析、規制の最適化の提案、データの透明性、患者の参加などです。

訳注)ACT EU:欧州での臨床試験の開始・設計・実施方法を革新して、高品質で有効・安全な医薬品の開発を促進することや、臨床研究を医療制度へさらに組み込むことなどを目的としたイニチアチブ。2022年1月に欧州委員会とEMAとHMAの三者が共同で開始。詳細はこちらをご覧下さい。

4. 欧州EMAのガイダンスとニュース

4.1 Tavridouらは、ゲノム編集医薬品について、EUの医薬品規制上の留意点を掘り下げた論文「Genome-editing medicinal products: the EMA perspective」(ゲノム編集医薬品:EMAの視点)を発表しました。本論文はゲノム編集医薬品の種類と数、開発段階(前臨床、臨床前期、臨床後期)、申請者(大手製薬企業、中小企業 [SME])、規制当局とのコミュニケーションでよくある質問など、貴重な情報を提供しています。なお、本論文はオープンアクセスではありません。

4.2 EMAが2024年3月11日付で発表したガイドライン改正案「Guideline on quality, non-clinical and clinical requirements for investigational advanced therapy medicinal products in clinical trials」(臨床試験における治験用先端医療医薬品 [ATMP] の品質要件、非臨床要件、臨床要件に関するガイドライン)は、治験用ATMPを用いる探索的試験と検証的試験の臨床試験開始申請(CTA)の構成とデータ要件に関するガイダンスを提示しています。本案は治験用ATMPの開発から製造、品質管理、非臨床開発、臨床開発まで包括的に対応しています。(訳注:前述のセクション3.1.2にも同ガイドライン改正案の情報があります。ご興味のある方は併せてご覧下さい)

5. 英国とMHRAのニュース

HRA(Health Research Authority:医療研究機構)は、2022年に研究倫理委員会(REC)から好意的な意見(favourable opinion)を得た臨床試験をすべて掲載したリストと、これら試験の登録状況を「Clinical trial registration report 2022」(臨床試験登録報告書2022年版)で公開しています。治験依頼者は、RECから好意的な意見を得た後、WHOに準拠した臨床試験レジストリに試験を登録し、その詳細をHRAに報告することが望まれています。

6. 米国FDAのガイダンスとニュース

UAEM(Universities Allied for Essential Medicines、必須医薬品のための大学連合)の北米部会は2023年2月に、ClinicalTrials.govでの臨床試験結果開示の改善を求める市民嘆願をFDAに提出していました。この嘆願に対してFDAが回答書「Response letter from FDA OC to Morningside Heights Legal Services, Inc. (On behalf of Universities Allied for Essential Medicines North America)」を発表しました。UAEMの主な要請は、(1)試験結果の開示義務の強化、(2)強化措置の序列化に関するガイダンスの策定、(3)開示義務違反の事前通知書を公開するダッシュボードの導入の3点です。

(訳注:このうち、事前通知書の公開ダッシュボード導入の要請をFDAは受け入れ、2023年12月までに事前通知書の発行対象となった臨床試験責任者・組織131件の一覧表「Pre-Notice of Noncompliance」を公開しました。今後は四半期ごとに情報を追加するとしています)

訳注)UAEM:2001年に米国イェール大学の学生らが設立した非営利組織で、医薬品や医療技術への公平なアクセスなどを求めて活動する世界的な学生ネットワーク。20ヵ国100大学以上が参加し、北米部会以外に欧州部会とラテンアメリカ部会あり。

7. リアルワールドデータ

FDAはガイダンス案「Real-World Evidence: Considerations Regarding Non-Interventional Studies for Drug and Biological Products」(リアルワールドエビデンス:医薬品および生物学的製剤の非介入研究の留意事項)を公開しました。本案は、非介入研究(観察研究)を申請する治験依頼者に対し、薬剤の有効性の実質的なエビデンス(substantial evidence)や安全性のエビデンスの提示に役立つ推奨事項を提示することを目的としており、非介入研究で考慮すべきデザインと分析について解説しています。パブリックコメントは2024年6月20日まで受け付けています。

8. 透明性・情報開示のリソースとニュース

わかりやすい研究資料の作成に関心のある人や、臨床研究の被験者のために、一般向け医薬文書で使用する平易な言葉遣い(plain language)のグローバルスタンダードを、MRCTとCDISCが共同で作成しました。2024年4月2日12~13時(米国東部時間)に両者が共催するウェビナーでは、「MRCT Center Clinical Research Glossary: New Words New Opportunities」(MRCTセンター臨床研究用語集:新しい言葉、新しい機会)を取り上げ、患者向け資料用の用語160語、画像、リソースを紹介します。無料の参加申込の詳細はこちらをご覧下さい。

訳注)MRCT:Multi-Regional Clinical Trials Center of Brigham and Women’s Hospital and Harvard(ハーバード大学とブリガム&ウィメンズ病院の多地域臨床試験センター)。ブリガム&ウィメンズ病院は、米国ハーバード大学医学部の附属病院としての役割を担う医療・研究・教育機関の1つ。MRCTはハーバード大学とブリガム&ウィメンズ病院に属しており、国際共同試験の改善を目的とする研究・政策センター。

9. 人工知能・機械学習

9.1 InteliNotion社がLinkedInで公開しているホワイトペーパー「Accelerating regulatory Submissions — AI augmented structured content」(規制当局への申請の加速:AIによる構造化コンテンツ)は、人工知能(AI)テクノロジーを導入するバイオ製薬企業へのガイダンスの提供を目的とした視点を提示しています。

9.2 FDAは、AIに対する取り組みについて、「Harnessing the Potential of Artificial Intelligence」(人工知能の可能性の利用)と題する見解と、7頁の文書「Artificial Intelligence & Medical Products: How CBER, CDER, CDRH, and OCP are Working Together」(人工知能と医療製品:CBER、CDER、CDRH、OCP共同の取り組み)を発表しました。

(訳注:この文書は、AIを利用した医療製品とその開発・製造のイノベーション推進と、患者や医療従事者などの安全確保を両立させることに、FDAの4つの組織がどのように協調して取り組んでいるか説明しています)

訳注)CBER:Center for Biologics Evaluation and Research(生物学的製剤評価研究センター)
CDER:Center for Drug Evaluation and Research(医薬品評価研究センター)
CDRH:Center for Devices and Radiological Health(医療機器・放射線保健センター)
OCP:Office of Combination Products(コンビネーション製品部)

 

翻訳:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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