CORE Reference News 2024年8月31日号

CORE Reference Newsとは】
治験総括報告書(CSR)のユーザーマニュアル『CORE Reference』を作成・公開している欧米のメディカルライターらから成るCORE Reference Teamが、無料配信しているニュースレター(英語)。メディカルライティングなどに役立つ医薬業界情報を欧米・アジアなどから集めて月1~2回配信。

※本ブログ記事は、クリノスがCORE Reference Teamの許諾を得て参考用として日本語に翻訳したものです。正確な内容や解釈は英語原文と各ニュース中のリンク先でご確認下さい。本ブログ記事の無断転載・転用は堅く禁止いたします。

【略語リスト】(アルファベット順)

  • CBER:Center for Biologics Evaluation and Research(米国FDAの生物製剤評価研究センター)
  • CDER:Center for Drug Evaluation and Research(米国FDAの医薬品評価研究センター)
  • CIOMS:Council for International Organizations of Medical Sciences(国際医学団体協議会)
  • CTIS:Clinical Trials Information System(EU臨床試験情報システム)
  • CTR:Clinical Trials Regulation(EU臨床試験規則)
  • EMA:European Medicines Agency(欧州医薬品庁)
  • EU/EEA:European Union/European Economic Area(欧州連合/欧州経済領域)
  • FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
  • HMA:Heads of Medicines Agencies(欧州医薬品規制当局首脳会議)
  • ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)
  • MHRA:Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(英国医薬品医療製品規制庁)
  • RWD:real-world data(リアルワールドデータ)
  • RWE:real-world evidence(リアルワールドエビデンス)

 

1. ICH

2024年8月21日、ICHはE11Aガイドライン「Paediatric Extrapolation」(小児用医薬品開発における外挿)の採択を発表しました。本ガイドラインは、成人の臨床試験データを小児集団へ外挿するために、統一された枠組みを確立するものです。この程、ICHガイドライン作成プロセスのステップ4に到達し、規制当局が各々の国・地域で本ガイドラインを実装する準備が整いました。

ICH E11Aガイドラインは、ICH E11(R1)「小児集団における医薬品開発の臨床試験に関するガイダンスの補遺」(2017年)を補完・発展させ、小児用医薬品開発の最適化において小児集団へ外挿するための、より包括的な枠組みを提供することを目的としています。ICH E11「小児集団における医薬品開発の臨床試験に関するガイダンス」(2000年)とICH E11(R1)は、両者合わせて1組のガイドラインとみなすのが望ましいです。

2. EU CTRCTIS

2.1 EMAは、EU臨床試験指令(CTD)から臨床試験規則(CTR)への試験移行について、ユーザーの質問に答えるCTISショート説明会を2024年9月18日に開催します。参加者は質問を2024年9月11日まで提出できます。

2.2 EMAは「EU CTIS Sponsor Handbook, Version 4.0」(EU CTIS治験依頼者用ハンドブック、バージョン4.0)を発表しました。また、研修モジュールとFAQも一部更新されましたので、「Guide to CTIS Training Catalogue, Version 1.3」(CTIS研修カタログの手引き、バージョン1.3)をご確認下さい。

3. 英国とMHRAのニュース

3.1 英国国民保健サービス(NHS)の医療研究機構(HRA)は、医薬品承認申請前の助言について概説した「Guidance on Pre-submission Advice & Support」(申請前助言・支援に関するガイダンス)を発出しました。申請前助言は、ステークホルダーに対して、申請書やその裏付けとなるエビデンスの作成・提出のプロセスが自社製品にどのように適用されるかを理解する方法を提供するものです。これは、MHRAが提供している科学的助言(Scientific Advice)とは別の助言制度です。

3.2 英国政府は、臨床試験を促進し、NHSの患者が新たな治療法に迅速にアクセスできるようにするため、最大4億ポンドの官民投資プログラム「Voluntary Scheme for Branded Medicine Pricing, Access and Growth (VPAG) Investment Programme」(先発医薬品の価格設定、アクセス、進歩に関する自主的制度 [VPAG] 投資プログラム)を立ち上げました。これにより、新たに18の臨床試験ハブも設立されます。

3.3 MHRAは、医薬品承認申請前の助言・支援へのアクセスに関するガイダンスを提供していますが、この程、将来の承認申請に関する情報提供について、ガイダンス「Medicines Pipeline data」(医薬品開発パイプラインのデータ)を発出しました。現在の医薬品販売承認保持者(MAH)や今後予定されるMAHは、情報提供用スプレッドシートのテンプレートを本ガイダンスのウェブサイトからダウンロードし、現在計画中または将来の承認申請に関する情報を可能な限り詳細に記入して、MHRAに提出する必要があります。MHRAへの承認申請と新規適応症の予定について、MHRAは申請の5年前までにすべて把握することを目指しています。

4. 米国FDAのガイダンスとニュース

4.1 臨床試験登録サイトClinicalTrials.govのProtocol Registration and Results System(PRS:治験プロトコル登録・結果システム)は、2024年8月28日から新版(ベータ版)がメインのサイトになりました。PRSベータ版の詳細については、米国国立医学図書館(NLM)のニュースレター「NLM Technical Bulletin」(NLM技術速報)2024年8月7日号と、「Release Notes」2024年8月28日号をご覧下さい。また、リニューアルしたClinicalTrials.govとPRSの利用方法について解説したショートビデオ・シリーズが、「Fast Forward from ClinicalTrials.gov」で公開されていますので、併せてご覧下さい。

4.2 FDAは初回小児試験計画(iPSP)の提出およびiPSPの改訂に関して、治験依頼者向けに推奨事項を記載したガイダンス「Pediatric Study Plans: Content of and Process for Submitting Initial Pediatric Study Plans and Amended Initial Pediatric Study Plans」(小児試験計画:iPSPおよびその改訂版の内容と提出プロセス)を発出しました。本ガイダンスにはiPSPのテンプレートも含まれています。

4.3 FDAのCDER Center for Clinical Trial Innovation (C3TI)(CDER臨床試験イノベーションセンター)は、医薬品開発の効率向上のために臨床試験への革新的アプローチを支援する中枢です。C3TIに関する最新のFAQをご覧下さい。

4.4 FDAは、最終ガイダンス「Product-Specific Guidance Meetings Between FDA and ANDA Applicants Under GDUFA」(ジェネリック医薬品ユーザーフィー改正法 [GDUFA] に基づくFDAと簡略新薬承認申請 [ANDA] 申請者との製品別ガイダンス会議)を発出しました。

5. リアルワールドデータ

FDAのポッドキャスト「Q&A with FDA」シリーズに、FDAのChief Medical Officer(CMO:最高医学責任者)Hilary Marston氏が出演し、RWD・RWEの生成について一般から寄せられた質問に答えました。Marston氏は、FDA長官Robert Califf氏に対して主席臨床アドバイザーの役割を担っています。Q&AではRWDとRWEについて論じるとともに、FDAが臨床試験をどのように継続的に進化させ、医薬品を含む医療製品の安全性と有効性を裏付ける信頼できるエビデンスをどのように推進し続けているか説明しています。詳細は「Real-World Data and Evidence Generation with Dr Hilary Marston」をお聞き下さい。

6. 透明性・情報開示のリソースとニュース

6.1 PHUSEが主催する、データ透明性に関するオンラインイベント「PHUSE Data Transparency Autumn event」は、こちらで参加申込を受付中です。開催日は2024年9月17~19日で、参加費は無料です。イベントで取り上げるトピックは、自律的なセキュリティや透明性の高いデータ共有における最先端のアプローチから、AIを活用したデータ保護や臨床文書作成における最新の進歩まで多岐に渡ります。アジェンダはこちらをご覧下さい。

訳注)PHUSE:Pharmaceutical Users Software Exchange。製薬企業やIT企業などのデータマネージメント、生物統計、電子臨床データ、毒性、病理、薬理などの各専門家ボランティアから成る国際的非営利組織。FDAやEMA、CDISCなどの規制当局・機関に対する業界代弁者。

6.2 欧州データ保護監督機関(EDPS)とスペインデータ保護局(AEPD)は、2021年に共同文書「10 misunderstandings related to anonymisation」(匿名化に関する10の誤解)を発表しています。この文書は、個人データの匿名化に関して代表的な誤解を10個取り上げ、それらに対して正しい事実を説明するとともに、理解を深めるための参考文献を紹介しています。本書の目的は、(1)匿名化にまつわる誤解について一般の人々の認識を高めること、(2)匿名化技術に関する主張を鵜呑みにせず確認するよう促すことの2つです。

7. 開発戦略ニュース

7.1 (訳注:FDAは、ある抗癌剤の公式サイトに掲載されている有効性情報に、虚偽や誤解を招く主張・表現が認められるとして、同剤を製造販売している製薬企業に書簡を送り、公開しました。)この書簡について、Rose氏は次のようなコメントをLinkedInに投稿しています。「FDAの書簡は、有効性の主張の裏付けとなる質の高い適切なデータの重要性を強調しており、同社の特定のデータがその基準に達していなかった理由を説明しています。免責事項や開示事項、制限事項は言うまでもなく有用であり、状況によっては必須ですが、これらの事項は信頼できる適切なデータの要件を緩和するものではなく、さもなければ主張全体が誤解を招く恐れがあることを書簡は明確にしています。特にプールデータや単群試験、事後解析などの潜在的な限界といった問題が、書簡で取り上げられています。さらに、この書簡は、販促資料の表現や提案を裏付けられないデザインの研究に基づく表現や提案を、販促資料に含めることは誤解を招くと規制が明示していることを再確認させてくれます。この書簡は、臨床試験をデザインする人々のみならず、販促資料・プログラムの作成やレビューに携わるすべての専門分野の人々も読むべきです。」

7.2 HuangとParikhの論文「Towards Generalizing Inferences from Trials to Target Populations」(臨床試験から対象集団へ推測の一般化に向けて)は、臨床研究から得られるデータや推測について、実臨床へのgeneralizability(一般化可能性)とtransportability(移転可能性)を検討しています。

7.3 Daher氏とVilimelis-Piulats氏は、レビュー記事「The EU Paediatric Regulation: Current status, future outlook」(EU小児用医薬品規制:現状と今後の展望)を発表しました。著者らは、小児用医薬品の開発に関して、EUの法改正で計画されている変更と、開発の制限が緩和される可能性について概説しています。

8. 人工知能・機械学習

8.1 Fazaeli氏のLinkedIn記事「The Double-Edged Sword of AI in Healthcare: Why We Need More Than Just LLMs」(医療におけるAIの両刃の剣:大規模言語モデル [LLM] だけでは不十分な理由)は、特に臨床データの要約に焦点を当て、AIモデルのハルシネーションに関する知見を提供しています。

8.2 英国国立医療技術評価機構(NICE)は、ポジションペーパー「Use of AI in evidence generation: NICE position statement」(エビデンス生成におけるAIの利用:NICEの立場表明)を発表しました。この声明は、NICEが検討するエビデンスのあらゆる側面に、AIの手法をどのように適用できるかを検討して作成されており、医療技術評価関連の目的で適用または研究されているとNICEが認識しているAIの手法も取り上げています。

8.3 Katherらは論文「Large Language Models could make Natural Language again the Universal Interface of Healthcare」(LLMにより自然言語が再び医療のユニバーサルインターフェイスになる可能性)を発表し、医療分野の文書作成とコミュニケーションの簡素化におけるLLMの活用について論じています。

8.4 Lenharo氏の記事「The Testing of AI in Medicine is a Mess. Here’s How it Should be Done」(医療におけるAIテストの混乱:AIをどうテストすべきか)は、医療におけるAIアプリケーションの現状を確認し、アルゴリズムの開発と臨床的検証との間にギャップが存在することや、標準化された厳格なテスト方法が早急に必要であることを指摘しています。

8.5 Freyerらは論文「A Future Role for Health Applications of Large Language Models Depends on Regulators Enforcing Safety Standards」(LLMの医療用アプリケーションの将来の役割は、安全基準を施行する規制当局次第)を発表しました。この論文は、医療目的で使用される(したがって医療機器として規制されるべき)医療用アプリケーションについて、規制の曖昧さとリスクを浮き彫りにしています。

8.6 欧州委員会は、調査報告書「Cyber security in the health and medicine sector: a study on available evidence of patient health consequences resulting from cyber incidents in healthcare settings」(医療分野のサイバーセキュリティ:医療現場で患者の健康に影響を及ぼすサイバーインシデントの事例の調査)を発表しました。この調査では、EU域内で、治療の延期や手術の遅れなど、健康に悪影響を与えた疑いのあるサイバーインシデントの事例を検証した結果、サイバーセキュリティ上の脆弱性が複数判明しました。

8.7 欧州データ保護監督機関(EDPS)とスウェーデンのKarlstad大学は、2024年9月3日にInternet Privacy Engineering Network(IPEN)のイベント「Human supervision of automated decisions」(自動意思決定に対する人間による監督)を開催します。

9. アジア規制当局のニュース

シンガポール保健科学庁(HSA)は、「Regulatory Updates for Therapeutic Product Registration (effective 01 Aug 2024)」(治療製品の登録規制の最新情報:2024年8月1日発効)を発表しました。以下の情報などが含まれています。

  • 新薬承認申請(NDA)や他の標準申請・簡略申請に関して、主な評価に要する日数を推測するための新たなウェブツール
  • 承認申請書類提出用の新たなクラウドベースのプラットフォーム
  • 承認後の変更に関するガイドライン
  • eCTD実装の最新状況
  • バイオシミラーのリスク管理計画(RMP)の要件緩和

 

翻訳:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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