【CORE Reference Newsとは】
治験総括報告書(CSR)のユーザーマニュアル『CORE Reference』を作成・公開している欧米のメディカルライターらから成るCORE Reference Teamが、無料配信しているニュースレター(英語)。メディカルライティングなどに役立つ医薬業界情報を欧米・アジアなどから集めて月1~2回配信。
※本ブログ記事は、クリノスがCORE Reference Teamの許諾を得て参考用として日本語に翻訳したものです。正確な内容や解釈は英語原文と各ニュース中のリンク先でご確認下さい。本ブログ記事の無断転載・転用は堅く禁止いたします。
【略語リスト】(アルファベット順)
- CDER:Center for Drug Evaluation and Research(米国医薬品評価研究センター)
- CIOMS:Council for International Organizations of Medical Sciences(国際医学団体協議会)
- CTIS:Clinical Trials Information System(臨床試験情報システム)
- CTR:Clinical Trials Regulation(臨床試験規則)
- EMA:European Medicines Agency(欧州医薬品庁)
- EU/EEA:European Union/European Economic Area(欧州連合/欧州経済領域)
- EudraCT:European Union Drug Regulating Authorities Clinical Trials
- FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
- HMA:Heads of Medicines Agencies(欧州医薬品規制当局首脳会議)
- ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)
- MHRA:Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(英国医薬品医療製品規制庁)
- RWD:real-world data(リアルワールドデータ)
- RWE:real-world evidence(リアルワールドエビデンス)
1. EU CTRとCTIS
1.1 改正透明性規則と、アップデートされたCTISパブリックポータルが2024年6月18日に開始されました。両者に関する情報はこちらをご覧下さい。
1.2 「EMA Guidance document on how to approach the protection of personal data and commercially confidential information while using the Clinical Trials Information System (CTIS)」(CTIS利用中に個人データと営業機密情報 [CCI] を保護する方法に関するEMAガイダンス)のバージョン2(2024年6月18日付)が発出されました。旧バージョンからの主な変更は、①改正透明性規則への対応(適用されなくなった第5章の削除など)、②「historical trial」(訳注:2024年6月18日以前にCTISに提出された臨床試験)の公開原則に関するセクションの追加、③移行試験に関するセクションの追加の3点です。個人データとCCIの保護の原則に変更はありません。本ガイダンスの「Annex I」(付録I)と「Q&A on the protection of commercially confidential information and personal data while using CTIS」(CTIS利用中の個人データとCCIの保護に関するQ&A)も併せてお読み下さい。
2. EUの医薬品規制
2.1 欧州委員会医療技術評価(HTA)事務局とEMAは、「Joint clinical assessment of medicinal products: Submission of early information by health technology developers」(医薬品の共同臨床評価:医療技術開発者による早期情報提出)に関する通知を発行しました。EMAとHTA事務局は、申請提出の意思通知に同じ書式を使用することに合意しました。この連携により、2機関間の情報交換の効率が向上します。
2.2 Caponeらの論文「Accelerating clinical trials in the EU (ACT EU): transforming the EU clinical trials landscape」(ACT EU:EU臨床試験環境の変革)は、ACT EUと、「欧州での臨床試験に最適な環境を作り、患者に医薬品をより早く届ける」という取り組みについて説明しています。
訳注)ACT EU(Accelerating Clinical Trials in the EU):欧州での臨床試験の開始・設計・実施方法を革新して、高品質で有効・安全な医薬品の開発を促進することや、臨床研究を医療制度へさらに組み込むことなどを目的として、欧州委員会とEMAとHMAの三者が共同で開始したイニチアチブ。
2.3 欧州議会は、「Addressing challenges to European multicountry collaboration models for rare diseases」(希少疾患に関する欧州多国間協力モデルの課題への取り組み)に関する報告書を発表しました。
2.4 EMAは、ICH M14ガイドライン案「General principles on plan, design and analysis of pharmacoepidemiological studies that utilize real-world data for safety assessment of medicines」(医薬品の安全性評価においてリアルワールドデータを活用する薬剤疫学研究の計画、デザイン、分析に関する一般原則)について、パブリックコメントの募集を開始しました。コメントは2024年8月30日まで受け付けています。詳細はこちらをご覧下さい。(訳注:日本でも2024年7月28日までこちらでパブコメを募集しています)
3. 米国FDAのガイダンスとニュース
3.1 FDAの「14th Global Summit on Regulatory Science (GSRS24)」(第14回グローバル規制科学サミット)年次会議が、対面式で2024年9月18~19日にアーカンソー州リトルロックで開催されます。参加は無料ですが、事前の申込が必要です(2024年7月15日締切)。座席数には限りがあり、申込受付は先着順となります。プログラムはこちらをご覧下さい。
3.2 臨床試験登録サイトClinicalTrials.govは、最新化された同サイトで基本的なタスクを行う方法を解説したデモンストレーション動画「Fast Forward from ClinicalTrials.gov」シリーズを公開しています。ClinicalTrials.govとProtocol Registration and Results System (PRS)(プロトコル登録・結果システム)について、ユーザーから多く寄せられる質問に対応した短いデモ動画がさらに追加されていく予定ですので、今後もご注目下さい。
3.3 医療情報提供サイト「Clinical Leader」のゲストコラム「FDA Issues New Draft Guidances On Cancer Clinical Trial Eligibility Criteria」(FDAががん臨床試験の適格性基準に関して新たなガイダンス案を発表)で、著者のZettler氏は、がん臨床試験の適格性基準に関してFDAが最近発表した3つのガイダンス案(①ウォッシュアウト期間と併用薬、②performance status、③臨床検査値)を取り上げています。厳しい適格性基準の緩和を支持する最近のエビデンスも紹介しており、『NEJM Evidence』誌に掲載された研究によると、臨床試験の参加に適格ながん患者の割合は、ヘモグロビン、eGFR、クレアチニンクリアランス、ECOG performance statusなどについて厳しい適格性基準を適用した場合48%でしたが、これらの基準を緩和すると78%に増えました。
3.4 FDAは2023年11月29~30日に公開ワークショップ「Enhancing Clinical Study Diversity」(臨床試験の多様性向上)を開催しましたが、このレポートがこちらで公開されています。また、FDAはガイダンス案「Diversity Action Plans to Improve Enrollment of Participants from Underrepresented Populations in Clinical Studies」(臨床試験でマイノリティ集団の被験者登録を改善するためのダイバーシティ・アクションプラン)を発表し、パブリックコメントを募集しています(訳注:2024年9月26日締切)。
4. リアルワールドデータ
4.1 英国の医療データに関する国立研究機関Health Data Research UK(HDR UK)は、英国内の複数の情報源から収集した医療データを活用するため、Real-World Evidence Network Coordination Centre for the UK(英国RWEネットワーク調整センター)の試験的創設を発表しました。
4.2 Angusらは論文「The Integration of Clinical Trials With the Practice of Medicine: Repairing a House Divided」(臨床試験と実臨床の融合:分断された世界の修復)を発表し、研究と実臨床とのギャップを指摘しています。ランダム化比較試験(RCT)は「医療で何が有効かを見極める最も厳密な方法」ですが、RCTのエビデンスとその臨床応用との間には乖離があり、「これら2つの世界のより良い融合が、医療提供の改善を加速させる鍵である」と著者らは述べています。
5. 透明性・情報開示のリソースとニュース
5.1 米国ハーバード大学/ブリガム&ウィメンズ病院のMRCTセンターが作成した「Clinical Research Glossary」(臨床研究用語集)は、毎年6月に公開レビューが実施されており、今年は2024年7月5日までコメントを募集しています。レビューとコメント提出はこちらから可能です。詳細はウェビナー「Action and Influence: Implementing the Clinical Research Glossary and Your Critical Role in Public Review」(行動と影響:臨床研究用語集の実装と、公開レビューにおける皆様の重要な役割)をご覧下さい。
訳注)MRCTセンター:Multi-Regional Clinical Trials Center of Brigham and Women’s Hospital and Harvard(ハーバード大学とブリガム&ウィメンズ病院の多地域臨床試験センター)。ブリガム&ウィメンズ病院は、米国ハーバード大学医学部の附属病院としての役割を担う医療・研究・教育機関の1つ。MRCTはハーバード大学とブリガム&ウィメンズ病院に属しており、国際共同治験の改善を目的とする研究・政策センター。
5.2 PHUSEはデータの透明性に関するオンラインイベント「PHUSE Data Transparency Autumn event」を、2024年9月17~19日の15:00~17:30(英国夏時間)/10:00~12:30(米国東部夏時間)に開催します。参加は無料ですが、事前の申込が必要です。詳細は後日発表予定です。
訳注)PHUSE:Pharmaceutical Users Software Exchange。製薬企業やIT企業などのデータマネージメントや生物統計、電子臨床データ、毒性、病理、薬理などの各専門家ボランティアから成る国際的非営利組織。FDAやEMA、CDISCなどの規制当局・機関に対する業界代弁者。
6. 開発戦略ニュース
6.1 TransCelerate BioPharma社は2024年7月11日午前9時~10時30分(米国東部時間)に、ウェビナー「Vulcan UDP (Utilizing the Digital Protocol): Collaborating to Accelerate ICH M11 and End User Value」(Vulcan UDP [デジタルプロトコルの活用]:ICH M11ガイドラインとエンドユーザー価値の促進に向けたコラボレーション)を開催します。VulcanのUDPは、複数のイニシアチブを統合して治験プロトコルのデジタル表現を開発する包括的なプロジェクトです。ウェビナーで取り上げる主な内容は、①Vulcan UDPの目標、②2024年5月に初めて実施されたUDPコネクタソンの概要(フィードバック、得られた学び、フォローアップ計画など)と今後のコネクタソンの予定、③ICH M11 EWG(expert working group:専門家作業部会)の観点から見たICH M11の意図と想定される影響です。質疑応答も実施されます。参加申込はこちらから可能です。
訳注1)TransCelerate BioPharma Inc.:世界のバイオ医薬品企業約20社が協力して、新薬の効率的・効果的かつ高品質な提供を促進する方法を探求する非営利団体。日本の製薬企業も数社参画。治験総括報告書(CSR)や治験プロトコルのテンプレートなどを作成・提供。
訳注2)Vulcan:米国の非営利標準化団体であるHL7(Health Level 7)協会が2019年に立ち上げた、マルチステークホルダーによる国際プロジェクト。HL7協会が開発した医療データ交換の標準規格FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)を活用して、医療と臨床研究のギャップを埋めることを目指している。
6.2 Niuらは論文「Application of estimand framework to the design and analysis of multi-regional clinical trials」(国際共同治験の設計とデータ分析におけるestimandフレームワークの適用)を発表し、国際共同治験(MRCT)におけるestimandの定義の概要を示しています。著者らはestimandを5つの構成要素に分け、各要素について詳しく解説しています。セクション2では、主要評価項目と主な副次評価項目に注目しており、estimandに関する考察は、治験実施国・地域間で想定される(相違点ではなく)共通点に焦点を当てています。セクション3では実施国・地域に焦点を当て、感度分析における推定量や、実施国・地域での推定の一貫性などについて述べています。セクション4では、ケーススタディとしてRAISE試験とLEADER試験を取り上げており、これにより実例を理論に結び付けることができます。
7. 人工知能・機械学習
Mathiasらは、2部構成の記事の第1部「Digital health technologies need regulation and reimbursement that enable flexible interactions and groupings」(デジタルヘルス技術には柔軟な相互作用とグループ化を可能にする規制と償還が必要)を発表しました。著者らは「デジタルヘルス技術(DHT)には、ウェアラブルデバイスやモバイルヘルス(mHealth)デバイス、医療情報通信技術(IT)、遠隔医療(telehealthとtelemedicine)、個別化医療などが含まれる」と述べ、「これらのデバイスと、デバイスとリンクする新たなケアパス(care pathway)に関して、規制や医療技術評価、償還の枠組みの限界と実装上の課題」を説明しています。
翻訳:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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