【CORE Reference Newsとは】
治験総括報告書(CSR)のユーザーマニュアル『CORE Reference』を作成・公開している欧米のメディカルライターらから成るCORE Reference Teamが、無料配信しているニュースレター(英語)。メディカルライティングなどに役立つ医薬業界情報を欧米・アジアなどから集めて月1~2回配信。
※本ブログ記事は、クリノスがCORE Reference Teamの許諾を得て参考用として日本語に翻訳したものです。正確な内容や解釈は英語原文と各ニュース中のリンク先でご確認下さい。本ブログ記事の無断転載・転用は堅く禁止いたします。
【略語リスト】(アルファベット順)
- CBER:Center for Biologics Evaluation and Research(米国FDAの生物製剤評価研究センター)
- CDER:Center for Drug Evaluation and Research(米国FDAの医薬品評価研究センター)
- CIOMS:Council for International Organizations of Medical Sciences(国際医学団体協議会)
- CTIS:Clinical Trials Information System(EU臨床試験情報システム)
- CTR:Clinical Trials Regulation(EU臨床試験規則)
- EMA:European Medicines Agency(欧州医薬品庁)
- EU/EEA:European Union/European Economic Area(欧州連合/欧州経済領域)
- FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
- HMA:Heads of Medicines Agencies(欧州医薬品規制当局首脳会議)
- ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)
- MHRA:Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(英国医薬品医療製品規制庁)
- RWD:real-world data(リアルワールドデータ)
- RWE:real-world evidence(リアルワールドエビデンス)
1. EU CTRとCTIS
1.1 改正透明性規則と、アップデートされたCTISパブリックポータルによる変更とを反映するため、CTISオンライン研修プログラムのモジュール02、07、10、11が更新されました。
1.2 EMAのニュースレター「CTIS Newsflash」最新号(2024年6月28日付)には、CTISに関する最新情報と、改正透明性規則に関する有用な参考資料(治験依頼者向けリソースなど)へのリンクが掲載されています。
- 「Quick guide for users」(ユーザー向けクイックガイド)
- 「Guidance document on how to approach the protection of personal data and commercially confidential information while using the Clinical Trials Information System (CTIS) Version 2」(CTIS利用時に個人情報と営業機密情報 [CCI] を保護する方法に関するガイダンス文書バージョン2)
- 本ガイダンスの「Annex I」(付録I)
- 「Q&A on the protection of Commercially Confidential Information and Personal Data while using CTIS, version 2.1」(CTIS利用時のCCIと個人データの保護に関するQ&A:バージョン2.1)
また、2024年6月20日に開催されたCTISショート説明会「Revised transparency rules and the new CTIS public portal」(改正透明性規則と新たなCTISパブリックポータル)のビデオ録画が公開されています。
1.3 「CTCG Best Practice Guide for sponsors of multinational clinical trials with different Part I document versions approved in different Member States under the Directive 2001/20/EC that will transition to the Regulation (EU) No. 536/2014」(EU臨床試験規則No.536/2014に移行するEU臨床試験指令2001/20/ECの下、異なるEU加盟国で承認されたPart I文書のバージョンが異なる国際共同試験の治験依頼者向けCTCGベストプラクティス・ガイド)が、バージョン5(2024年6月19日付)に更新されました。
本バージョンでは、「迅速な移行手続きは、EudraLex Volume 10で発行されたガイダンスに沿い、CTD承認文書の最小限の書類の評価ではなく検証に重点を置いている。治験依頼者は、移行期間が数か月しか残されていないことを踏まえて、まだ決定していないCTD substantial amendment application(大幅変更申請)を取り下げ、代わりに、統合されたPart I文書を直接提出することを推奨する」と明記されています。
1.4 HMAのCTCG(Clinical Trials Coordination Group:臨床試験調整グループ)は、安全性に関する新たな文書「CTCG’s Questions and Answers on safety related issues in amendment of the Commission’s QnA section 7 on safety, Eudralex Volume 10」(EudraLex Volume 10のQ&A文書のセクション7の改訂における安全性関連問題に関するQ&A)を発表しました。本書では、EudraLex Volume 10のQ&A文書のセクション7に加えて、CTIS関連のトピック(年次安全性報告書 [ASR]、安全性関連の通知、安全性参照情報 [RSI]、ad hocワークフロー内で送信される情報提供依頼 [RFI])についても、具体的に説明されています。
訳注)EudraLex:European Union Drug Regulatory Authorities Legislation。EUの医薬品規制の法規集で、全10巻から成る。Volume 10(第10巻)は「Guidelines for clinical trial」(臨床試験に関するガイドライン)。
2. 欧州医療データスペース(EHDS)
欧州委員会は「2024 Digital Decade eHealth Indicator Study Annex – Country Factsheets」(2024デジタル10年eHealth評価指標調査付属書:国別ファクトシート)を発表しました。これは、EUに加盟している27ヵ国各々について、eHealthデータへのアクセスに基づくeHealth成熟度スコアなど、eHealth評価指標をまとめたものです。
3. 米国FDAのガイダンスとニュース
3.1 FDAは、リアルワールドエビデンス(RWE)を含むCBER/CDER提出物に関する報告書「Real-World Evidence Submissions to the Center for Biologics Evaluation and Research & the Center for Drug Evaluation and Research」を、2024年6月27日に発表しました。
これは、医薬品・生物学的製剤の有効性や安全性に関して規制当局の意思決定を支援することを目的としたRWE創出のためのリアルワールドデータ(RWD)分析を含む、CBER/CDERへの提出物に関するFDA初の年次報告書です。
本書によると、CBERへのRWE提出物には治験プロトコル4件が含まれており、CDERへのRWE提出物には治験プロトコル10件と新薬承認申請書(NDA)/生物学的製剤承認申請書(BLA)4件が含まれています。
従来の臨床試験に依存していた医薬品・生物学的製剤開発プログラムの効率を向上させるためにRWDを活用することは、FDAによって十分に確立され、奨励されています。
3.2 FDAはガイダンス案「Diversity Action Plans to Improve Enrollment of Participants from Underrepresented Populations in Clinical Studies」(臨床試験で社会的マイノリティ集団の被験者登録を促進するためのダイバーシティ・アクションプラン)を発表しました。本案は、医薬品や生物学的製剤、医療機器の特定の臨床試験を実施する治験依頼者が、多様性アクションプランの提出要件を満たすのを支援することを目的としています。2024年9月26日までパブリックコメントを募集しています。
4. 欧州EMAのガイダンスとニュース
4.1 EMAは、新たに開始した統合助言パイロットプログラムに関するウェビナー「ACT EU consolidated advice pilots: information and training for applicants」(ACT EUの統合助言パイロットプログラム:申請者のための情報と研修)を、2024年7月17日に開催し、本プログラムの範囲と利点について概説します。本プログラムは臨床試験申請(CTA)や販売承認申請(MAA)の品質向上を目的としています。
4.2 EMAは「Concept paper on the revision of the COVID-19 vaccines guidance documents」(新型コロナワクチンのガイダンス文書の改訂に関するコンセプトペーパー)を公開し、パブリックコメントをこちらで2024年9月30日まで募集しています。
提案されたガイドラインは、「EMA considerations on COVID-19 vaccine approval」(新型コロナワクチン承認に関するEMAの検討事項)(EMA/592928/2020)と、「Reflection paper on the regulatory requirements for vaccines intended to provide protection against variant strain(s) of SARS-CoV-2」(SARS-CoV-2変異株に対する予防を目的としたワクチンの規制要件に関するリフレクションペーパー)(EMA/117973/2021)に代わるものです。
5. リアルワールドデータ
5.1 Prillaらはレビュー論文「Real-World Evidence to Support EU Regulatory Decision Making — Results From a Pilot of Regulatory Use Cases」(EU規制当局を支援するためのRWE:規制当局のユースケースのパイロット活動の成果)を発表しました。この論文は、EMAが規制当局の意思決定のためのRWE創出・活用に適した経路とアプローチを模索するために、2021年9月~2023年2月に実施したパイロット活動の成果を紹介しています。
5.2 EMAは「ICH reflection paper on pursuing opportunities for harmonisation in using real-world data to generate real world evidence, with a focus on effectiveness of medicines」(医薬品の有効性に焦点を当て、RWE創出にRWDを利用する際の調和の機会を追求することに関するICHリフレクションペーパー)を発表しました。
本書は、課題に対処するための戦略的アプローチを概説し、規制当局への申請や規制当局のタイムリーな意思決定にRWEを組み込む方法について論じています。このリフレクションペーパーは、規制当局によるRWEガイダンスの調和に向けた段階的アプローチの第1歩であると、著者らは述べています。
6. 透明性・情報開示のリソースとニュース
6.1 米国の非営利オープンアクセス出版社PLOS(Public Library of Science)は、オープンサイエンスの進捗を評価する指標(OSI: open science indicator)に関して、ブログ記事「A new Open Science Indicator: measuring study registration」(新たなOSI:研究登録)を発表しました。この記事でPLOSは、従来のOSIに、「研究の事前登録」を重要なOSIとして新たに追加したと述べています。
OSIの目的上、「研究の事前登録」の定義は、「偏りのない結果報告を保証し、計画された研究と計画されていない研究の方向性の区別をサポートするために公開されている研究計画(研究の疑問・仮説、研究デザインの詳細、データ分析の計画などを含む)」としています。
OSIの最新の結果によると、全体的な事前登録率は依然として低いものの、事前登録された研究の割合は増加しており、登録に最もよく利用されているレジストリはClinicaltrials.govとなっています。PLOSは、最近の結果だけでなく、2018年までさかのぼった分析の完全なデータセットも公開しています。
6.2 グローバルヘルスに取り組む非営利団体Health Information For All(HIFA)は、プレスリリース「Global health advocates call on the World Health Organization to explicitly champion the goal of universal access to reliable healthcare information」(グローバルヘルスの唱道者らは、世界保健機関 [WHO] に対し、信頼できる医療情報への普遍的アクセスという目標を明確に支持するよう求める)を発表しました。HIFAは2024年7月30日にオンラインイベント「Towards universal access to reliable healthcare information」(信頼できる医療情報への普遍的アクセスに向けて)を開催します。
7. EMAの臨床試験データ公開(EMA Policy 0070)
EMAは、EMA Policy 0070の臨床データポータルのユーザー満足度と使いやすさを調べるため、「Clinical Data Publication Survey」(臨床データ公開調査)を開始しました。
8. 開発戦略ニュース
8.1 2017年にFDAのCDERは、「New Drugs Regulatory Program (NDRP)」(新薬規制プログラム)の近代化に着手しました。これは、CDERオフィスの効率と効果を高めるための、複数年にわたる枠組みです。NDRPの近代化は、過去20年間における医薬品開発の複雑さと量の急激な増加に対応するとともに、遺伝子科学における最近のブレークスルーや、個別化医療の進歩、希少疾患や疾患サブタイプへの注目の高まりなどに後押しされた今後の成長への期待に応えるものです。CDERは継続的にレギュラトリーサイエンスと医薬品審査プロセスを改善していくため、NDRPの近代化を開始しました。
FDAの公式サイトに掲載されている、CDERの専門家へのインタビュー・シリーズ「CDER Conversations」の最新記事「Modernizing the New Drugs Regulatory Program」で、CDER新薬審査部(Office of New Drugs: OND)のYoni Tyberg氏がNDRPの近代化や、その成果、公衆衛生への影響について説明しています。近代化の成果の包括的なリストは、「NDRP Modernization — Impact Narrative Update 2023」(NDRPの近代化:影響の最新情報2023)でご覧頂けます。
8.2 非営利のシンクタンクEuropean Forum for Good Clinical Practice (EFGCP)(欧州GCPフォーラム)と、欧州製薬団体連合会(EFPIA)が共同で主導する「EU-X-CT Cross-Border Clinical Trials Initiative」(EU-X-CT越境臨床試験イニシアチブ)は、欧州で国境をまたぐ臨床試験アクセスの向上に取り組んでいます。2024年4月にベルギーのブリュッセルで、EU-X-CTイニシアチブの第1回ステークホルダー・フォーラムが開催されました。そのレポートはこちらでご覧頂けます。
EFPIAのニュース記事「Breaking down the barriers: Making cross-border access to clinical trials a reality」(障壁の克服:国境を越えた臨床試験アクセスの実現)によると、EU-X-CTイニシアチブは現在、ステークホルダー・フォーラムでの議論やアンケート調査からのフィードバックに基づき、ボーダレスな臨床試験アクセスに関する推奨事項の草案を作成中です。草案は、パブリックコメント募集のため2024年末までに公開される予定です。
9. 人工知能・機械学習
9.1 国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)は、ドラフト文書「Good machine learning practice for medical device development: Guiding principles」(医療機器開発における機械学習の実施基準 [GMLP]:基本原則)を発表しました。このドラフトは、2021年に米国、英国、カナダの各規制当局が共同で発出した同名のガイドラインと同じ内容で、安全・有効かつ高品質なAI搭載医療機器の開発を促進するための基本原則を10項目定めています。2024年8月30日までこちらでパブリックコメントを募集しています。
9.2 FDAとClinical Trials Transformation Initiative(CTTI)は共同で、無料のハイブリッド式公開ワークショップ「Artificial intelligence in drug & biological product development」(医薬品・生物学的製剤の開発におけるAI)を、2024年8月6日10:00~17:30(米国東部夏時間)に開催します。参加申込はこちらで受け付けています。
訳注)CTTI:2007年に米国デューク大学とFDAが共同で設立した、臨床試験の品質・効率の向上を目指す産学官連携組織。
9.3 Alkhalafらは論文「Applying generative AI with retrieval augmented generation to summarise and extract key clinical information from electronic health records」(検索拡張生成 [RAG] 機能を備えた生成AIを利用した、電子健康記録 [EHR] の主要な臨床情報の要約・抽出)を発表しました。この論文は、生成AIモデルにゼロショット学習を適用し、電子健康記録データの構造化された要約を自動生成させ、主な臨床情報を抽出させた際の成果と限界について報告しています。
9.4 Kastrupらは論文「Landscape and challenges in economic evaluations of artificial intelligence in healthcare: a systematic review of methodology」(医療AIの経済的評価の現状と課題:方法論のシステマティックレビュー)を発表しました。本論文で著者らは、「このシステマティックレビューは、AI技術の医療経済評価(HEE)の一般的な方法の品質に関するエビデンスをマッピングし、品質改善を期待できる領域を特定することを目指している」と述べています。
翻訳:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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