今年も米国メディカルライター協会(AMWA)年次総会に参加するか否かが話題に上る時期になり、知り合いのメディカルライター数人がすでに「申し込んだ」とおっしゃっていました。私も申し込みましたが、毎年、初参加の方から申込・参加の注意点やコツを聞かれるので、AMWA年次総会の参加に関するアドバイスを、3段階(参加申込、出発前の準備、出発後)に分けて以下にまとめました。年次総会の基本情報はAMWAホームページの「Annual Conference」サイトをご覧下さい。
1. 参加申込
1.1 まず宿の確保
年次総会の参加申込の前に、まずホテルを予約することをお薦めします。毎年、年次総会の会場として利用されるホテル、もしくは会場となるコンベンションセンターに隣接するホテルが「conference hotel」として指定され、AMWA参加者は割引料金で泊まれます。このホテルに泊まるのが便利ですし、日本人参加者の多くが泊まっていて安心です。
しかし、AMWAが確保している部屋数は限られているので、予約が一杯になってしまうことがしばしばあります。その場合、会場周辺の別のホテルも「conference hotel」として追加指定されることがありますが、会場から徒歩数分~10分ほど離れていることもあります。
また、追加の「conference hotel」が用意されない年もあり、その場合は自分でホテルを探すことになります。しかし、ビジネスシティの秋は大きなイベントや学会などの開催が多いので、AMWA年次総会開催間近にホテルを予約しようとしても、会場周辺は軒並み満室だったり、宿泊料が高騰していたりすることが多いです。
ホテルの予約変更・キャンセルはチェックインの1~7日前まで無料で可能な場合が多いので、AMWA年次総会に参加する可能性が出て来たら、とりあえず「conference hotel」の部屋を予約しておくと安心でしょう。予約の時点で宿泊日数が決まっていない場合は、念のため長めに予約しておき、必要に応じて後日調整するのが得策です。
1.2 ワークショップの申込は早めに
長年定番のワークショップや有名講師のワークショップは人気が高く、早々に申し込みが定員に達して、受付が締め切られることも珍しくありません。お目当てのワークショップがある場合は早めに申し込むと良いでしょう。受付状況はAMWAサイトの年次総会申込ページで確認できます。
1.3 Golden Apple賞を受賞した講師がお薦め
どのワークショップを選べば良いか迷ったら、教え方が上手な講師のワークショップを選ぶのも1つの手です。その際に参考になるのが、「Golden Apple賞」(Golden Apple Award)の受賞の有無です。「Golden Apple賞」とは、各ワークショップの受講者全員を対象に毎年行われるアンケート調査の結果、高い評価を長年得ている講師に与えられる賞で、授与される講師は毎年1人だけです。日本でも有名なTom Lang氏らが過去に受賞しています。
年次総会の申込プログラム(registration brochure)やワークショップのリストを見て、講師名に金色のリンゴのマークが付いていたら、その講師は「Golden Apple賞」を受賞しています。プログラムやリストにマークが表示されていない年もあるので、その場合はAMWAホームページのこちらで過去の受賞者をご確認下さい。
2. 出発前の準備
2.1 ワークショップ事前課題提出後の確認
ワークショップには必ず事前課題(assignment/homework)があります。certificate取得に必要な単位を取得するには、事前課題の解答を締切までに提出しなければなりません。メールで講師に提出するのが通例ですが、先方のサーバーにブロックされてメールが戻って来たり、迷惑メールのフォルダに振り分けられて講師が気付かなかったりすることがあります。念のため、事前課題の解答提出時に講師に受領確認の返信を要請すると良いでしょう。
通例、数日以内に講師から返信が来ますが、返信がない場合は講師に再度メールを送ってみましょう。それでも返信がない場合は、AMWA事務局にメールで問い合わせることをお薦めします。AMWA事務局は、アメリカでは珍しく対応が速くて親切なので、わからないことやトラブルなどがあった場合は事務局に問い合わせてみて下さい。いずれにしても、ワークショップの単位を取得できないと勿体ないですから、メールなどのトラブルに備えて早めに事前課題の解答を提出するのが無難でしょう。
2.2 ワークショップ配布資料の受領
AMWAの経費削減のためか、ワークショップの配布資料(handout)が会場で提供されないことが多くなりました。通例、年次総会の数日前に、指定のサイトからダウンロードするよう指示が書かれたメールが届くので、メールを見逃して配布資料の準備を忘れないよう気を付けましょう。日本を発つ前に印刷して持って行けば、宿泊先や会場で慌てなくて済みます。なお、ワークショップにラップトップやタブレットなどを持ち込む場合は、配布資料を印刷せずに電子媒体で持参・参照することも可能です。
2.3 英語の自己紹介
ワークショップやmeal event、ホテルなどで外国人参加者らに自己紹介しなければならない機会があるので、予め英語で自己紹介を考えて、スラスラ言えるように練習しておくと安心です。名前と職種を2~3文で簡潔に説明できると良いでしょう。例えば「I’m Taro Suzuki from Japan. I do regulatory writing at a pharmaceutical company in Tokyo.」や、「I’m Hanako Sato from Japan. I’m a freelance medical translator.」のような感じです。名刺をたくさん持って行くこともお忘れなく!
2.4 服装
年次総会のドレスコードは「ビジネスカジュアル(スマートカジュアル)」なので、服装がラフになり過ぎないように気を付けましょう。
また、開催地・開催時期を問わず、会場は寒いことが多いので暖かい服装を持って行くことをお薦めします。ちなみに私はスカートでは足が冷えるので、いつもパンツスーツで出席しています。それでも会場は寒くて、ボトムの下にタイツを履いたり、ストールを膝掛けにしたり、ジャケットの下にカーディガンやセーターを着たりします。他の日本人参加者も薄手のダウンジャケットやカイロを持参するなど、会場の防寒対策をしている方が多いです(特に女性)。
せっかく年次総会に参加しても寒くて講義に集中できないと勿体ないですから、温度調節しやすい服装をご準備下さい。
3. 出発後
3.1 アメリカ国内の時差に注意
アメリカ本土には4つの時間帯がある上に、時期や州によっては「夏時間」が採用されているので、日本からAMWA開催地に直行しない場合は経由地の時間帯や、経由地と開催地との時差、「夏時間」の有無に注意が必要です。「夏時間」は11月上旬に終わるので、年次総会が11月上旬に開催される場合は「夏時間」の終了日にも要注意です。
時間を間違えて、飛行機の経由地で乗継便に乗り遅れたり、開催地で初日の基調講演やワークショップなどに遅れたりする日本人参加者が時々いらっしゃいます。ワークショップは遅刻すると入室できず単位を貰えないので、開催地に着いたら現地時刻を必ず確認しましょう。
3.2 オリエンテーション
例年、会期初日か2日目に、初参加者を対象にオリエンテーション(無料)が開催されるので、事前にプログラムで日時を確認して参加することをお薦めします。
3.3 Meal event
会期中にレセプションやSablack luncheon/dinnerなどの「meal event」が開催され、追加料金なしで参加できるeventが年々増えています。日本人参加者で集まって同じテーブルを囲むことが多いので、英会話に自信のない方も怖がらずに参加して、各イベント会場で日本人参加者を探してみて下さい。
また、AMWA主催のmeal eventとは別に、日本人参加者のみで独自に非公式の「食事会」を開催して親睦を図っています。通例、常連の参加者が幹事となり、金曜または土曜の夜に開催されています。AMWA開催地に到着してから幹事が日時とお店を決めて、メールで他の参加者に知らせることが多いので、事前に常連参加者にAMWA参加の旨とメールアドレスを伝えておくか、AMWA会場で早めに日本人参加者を見つけて尋ねると良いでしょう。
日本人参加者については、AMWA開催数日前に事務局から送られてくるメールのリンク先にある「Attendee list」(参加者名簿)で確認できます。日本からの参加人数は毎年十数名です。
会期中はワークショップの休憩時間(beverage break)などに、無料の飲み物が用意されている部屋(hospitality roomやresource hallなど)に行くと、日本人参加者に会える確率が高いです。多くの日本人が1人参加のため、「食事会」以外でも数人で昼食や夕食に出掛けたりすることが多いので、AMWA初参加で心細い方は早めに日本人参加者を見つけて、積極的に声を掛けると良いでしょう。
4. その他
海外出張・旅行に慣れていない方や初めて渡米される方は、アメリカ旅行時の基本的な注意事項を旅行ガイドブックなどでご確認下さい。また、同僚やお知り合いに過去のAMWA参加者がいらっしゃる場合は、移動時の注意点やAMWAの様子などをお聞きになってみて下さい。
以上、初めてのAMWA参加でも実り多い経験ができるよう、少しでもお役に立てば幸いです。ご質問や追加事項などありましたら、コメント欄にお書き頂くか、お問い合わせフォームからご連絡下さい。
AMWA年次総会参加ガイド第2弾では、自費で参加する方のために、出来るだけお金を掛けずに参加する方法を紹介します。
次回
⇒AMWA年次総会参加ガイド2:自費参加者必見!航空券・ホテル代ゼロで参加する方法
著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
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内山先生、いつもお世話になっております。有益な情報をどうもありがとうございます。先生のブログを拝見して、来年からAMWAに参加する勇気がもてました。丁寧に解説いただき本当に感謝しております。これからまずはself-studyでクレジットを貯めようと思います。先生のお陰で決心できました。どうもありがとうございます。
伊藤さん、コメントありがとうございます。本ブログが伊藤さんの背中を押すことができたのなら大変嬉しく思います。AMWAの自習教材(self-study module)で学習する方が国内でも増えていますので、ぜひ挑戦なさってみて下さい。
教材はすべてご購入済みですか。購入割引キャンペーンが時々実施されていますので、まだ購入なさっていない教材がありましたら、AMWAのウェブサイトで割引案内の有無を確認なさってみて下さい。