説明同意文書向けの平易な英語表現

英文を書く際は、日本語同様に適切な「文体」を選び、選択した「文体」で文書全体を統一する必要があります。例えば「高血圧」の定訳は「hypertension」ですが、これは専門用語であり、専門家・医療従事者以外の人には通じないことが多いので、説明同意文書などで使うのは不適切です。実際、私がアメリカ人の友達に「hypertension」と言ったら、「hyperactivity」(多動性)と勘違いされて、話が通じなかったことがあります。したがって、一般・患者向けの文書で「高血圧」は、平易な英語(plain English)を使って「high blood pressure」と書かなければなりません。

しかし、日本人には英語の「文語と口語」や「専門用語と平易な表現」の区別がわかりにくく、英和辞典や医学辞典などを見てもこれらの区別は載っていません。それで私も長年苦労しており、自分の経験に基づいて「専門用語」と「平易な表現」を簡単な対比表にまとめて、拙著『薬事・申請における英文メディカル・ライティング入門』I改訂版に掲載していますが、数年前に米国メディカルライター協会(AMWA)で下記のサイトが紹介されていました。

Group Health Research Institute (GHRI)
Program for Readability in Science and Medicine (PRISM)
「The PRISM Readability Toolkit」(pdf)
<http://www.grouphealthresearch.org/capabilities/readability/readability_home.html#prism_toolkit>

GHRIが作成した「The PRISM Readability Toolkit」は、被験者向けの治験関連文書などを作成する際に必要な以下の情報が網羅されていて、大変有益なガイドブックだと思います。

・平易な英文とは
・平易な英文を書くコツ
・平易な英文の評価方法(計算式とチェックリスト)
・専門用語と平易な表現の広範な対比表
・専門表現を使った英文とその改善例
・わかりやすい説明同意文書の文例
・リンク集

説明同意文書の文例をつなげれば、英文テンプレートができてしまいそうですが、テンプレートのリンク集も掲載されています。説明同意文書は決まり文句が多いので、文例もリンク集も非常に有用だと思います。

また、専門用語と平易な表現の対比表をご覧になると、論文調の堅い表現も知ることができるので、和文英訳や英文ライティングを手掛ける機会のある方は、Toolkitをダウンロードして活用すると良いと思います。上記サイト右下の「Get the PRISM Readability Toolkit」をクリックすると、pdfファイルを無料でダウンロードできます(登録不要)

治験関連文書の書き方に関する世界初の指南書『Targeted Regulatory Writing Techniques: Clinical Documents for Drugs and Biologics』(編集:Linda Fossati Wood & MaryAnn Foote、出版:Birkhauser)の巻末には、短い説明同意文書のサンプルが掲載されているので、本書をお持ちの方はご参照下さい。説明同意文書のサンプルやテンプレートは、インターネット上にも多数ありますから、英語で書く前にぜひ検索してみて下さい。

説明同意文書は、書くべき内容がICH GCPガイドラインで推奨されていて、使われる表現・文章には一定のパターンがあるので、英文ライティングや英訳をする前に、インターネットや参考書などで定型表現・定型文を調べて活用すると良いでしょう。

某外資系製薬企業では、専門表現を多用した論文調で和文英訳した説明同意文書を海外本社に送ったところ、「日本ではこんな難しい表現で説明同意文書を書いているのか?」と外国人に誤解されてしまったことがあったそうです。逆に、論文を和文英訳した際に口語表現を多用していたため、投稿先から書き直しやネイティブチェックを求められたというケースも多々ありますので、「文体の統一」は英語でも重要です。特に英会話が上手な方や通訳者は、論文調の文書の英文ライティングや和文英訳で口語を多用しがちなので注意が必要です。訳語や文法の正確さやスタイルの統一などだけでなく、「文体」にも気を配りましょう。

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