AMA Manual of Styleオンライン版の国内利用

※2024年3月28日更新

ご存知の方も多いかと思いますが、欧米でしか使えなかった『AMA Manual of Style』オンライン版が、第10版から、日本を含む全世界で利用可能になりました(現在の最新版は第11版です)。個人でも、企業でも、アカデミアでも利用可能です。料金や購入方法は『AMA Manual of Style』ホームページ「Purchase」セクションをご覧下さい。

国内の問い合わせ先:オックスフォード大学出版局株式会社
〒108-8386 東京都港区芝4-17-5 相鉄田町ビル3F
TEL:03-5444-5454
日本語ウェブサイトはこちら

オンライン版の特長は主に3つあります。

  1. 誤字・脱字の修正や、改訂後の変更箇所(マイナーチェンジ)などが反映された最新バージョン
  2. 検索が早くて楽
  3. ネット環境があれば、どこでも利用可能(リモートワーク時に便利)

『AMA Manual of Style』のホームページには、改訂後のマイナーチェンジ一覧「Updates」や、スタイルに関する練習問題「Style Quizzes」など、有用なコーナーもありますので、ぜひ一度ご覧になってみて下さい。練習問題は、オンライン版利用者だけでなく誰でも利用可能ですので、自習だけでなく勉強会などにも幅広くご利用になれると思います。

国内の製薬業界では、メディカルライターや社内翻訳者の間でスタイルガイドの利用や『AMA Manual of Style』が普及し、社内で英語文書を作成する際だけでなく、英語文書作成を外注する際にもスタイルガイドを指定することが増えています。

しかし、CRO・翻訳会社やフリーランスのメディカルライター・医薬翻訳者の間では、スタイルの統一などの必要性があまり認識されておらず、スタイルガイドの利用や『AMA Manual of Style』の普及が十分進んでいないようです。そのため、製薬企業からは以下のようなご不満の声を時々耳にいたします。

  • 英語文書作成の外注時に社内の英文スタイルガイドを外注先に提供しても従わず、スタイルも統一されていない納品物が多い。
  • 翻訳会社に英訳を外注した際に英文スタイルの統一などを要請したら、多額の追加料金を請求された。
  • 契約しているネイティブ翻訳者が「自分のスタイルのほうが良い」と言って、指定のスタイルガイドに従ってくれなかった。

英語論文でも、投稿規定に従ってスタイルを統一することが欠かせませんから、文書の種類を問わず、スタイルの統一は英文ライティング・英訳作業の極めて重要な要素です。

今後は製薬企業やアカデミアだけでなく、CRO・翻訳会社やフリーランスのライター・翻訳者の間でもスタイル統一の必要性がもっと認識されること、そして医薬分野の英文スタイルガイドの「グローバル・スタンダード」と呼ばれ、多くの論文投稿規定や企業内スタイルガイドの基礎となっている『AMA Manual of Style』に精通する方が増えることを願っています。

追記1:『AMA Manual of Style』第11版が2019年に発行される予定です。

追記2:『AMA Manual of Style』第11版の発行時期が2020年1月末に延期されました。

追記3『AMA Manual of Style』第11版が2020年2月に発刊されました。「ハードカバー版」、「オンライン版」、「ハードカバー版+オンライン版」セットの3種類があります。購入方法など詳細はホームページをご覧下さい。

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英文メディカルライティング通信講座
AMWAの英文ライティング自学教材

著者:内山 雪枝(クリノス 代表)
元医師、医学翻訳者、メディカルライター、セミナー講師。
明の星女子短期大学英語科卒業。東海大学医学部卒業。
大学病院勤務後、国内翻訳学校と米国大学院で翻訳を学び、
医学翻訳を30年以上手掛ける。
英文メディカルライティングの教育活動も20年以上継続中。
所属団体:米国メディカルライター協会(AMWA)(1996年~現在)
著書:『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』I~IV巻(完売)
→ 詳しいプロフィールはこちら

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ICH E3ガイドライン公式Q&A

すでにご存知の方も多いかと思いますが、治験総括報告書の書き方に関するICH E3ガイドラインの公式Q&Aが昨年7月に発表されました。下記のサイトで無料閲覧・ダウンロードが可能です。

<http://www.ich.org/products/guidelines/efficacy/article/efficacy-guidelines>

まだご覧になっていない製薬翻訳者やメディカルライターの方は、同サイトで一緒に発表された「Concept Paper」と併せて一度目を通しておくよろしいかと思います。

ついでに、治験総括報告書の翻訳に関して、翻訳者やメディカルライターの方々の和訳や英訳を拝見して気付いた点をご参考までに述べさせて頂きます。

1. ICH E3ガイドラインは必携

ICH E3ガイドラインは、Q&Aにも記載されているとおり強制力はなく、治験総括報告書のテンプレートではありません。しかし、英語の治験総括報告書はICH E3ガイドラインの英語オリジナル版を、日本語の治験総括報告書は同ガイドラインの日本語版をテンプレートとして利用している製薬企業が非常に多いので、同ガイドラインのオリジナル版と日本語版は、治験総括報告書の翻訳に携わる翻訳者・英文校閲者にとって必携と言えます。オリジナル版は前述のサイトで、日本語版は下記のサイトで無料ダウンロード可能です。

<http://www.pmda.go.jp/ich/efficacy.htm>

2. 治験総括報告書の見出しの訳し方

見出し(セクション名)は、同ガイドラインに準拠している製薬企業が多いですが、同ガイドラインに準拠せずに勝手に翻訳者が訳したり、校閲者が変更してしまったりしているケースが時々見られます。(翻訳依頼者はネイティブチェックを盲信しないよう注意しましょう)

同ガイドラインの見出しには不適切な英語表現があったり、日本語版には誤訳があったりしますが(例:11.2項「人口統計学的及び他の基準値の特性」)、同ガイドラインの見出しをそのまま治験総括報告書の見出しに使っている製薬企業が多いので、翻訳者や校閲者は、翻訳依頼者や翻訳会社から指示がない場合や翻訳依頼者に確認できない場合、独自に訳すより、同ガイドラインの見出しをそのまま使うほうが無難だと思います。

3. 「他の重要な有害事象」の英訳

「other important adverse events」と訳す方が結構いらっしゃいますが、同ガイドラインの12.3項の見出しで「other significant adverse events」という表現が使われているため、治験総括報告書ではimportantではなくsignificantを使うのが一般的です。逆に和訳時には「他の有意な有害事象」などと訳さないよう注意が必要です。

4. 被験者背景

和訳時に「baseline subject/patient characteristics」を、前述の11.2項「人口統計学的及び他の基準値の特性」の誤訳に合わせて、本文中でも「基準値の特性」と訳す方が時々いらっしゃいますが、「baseline subject/patient characteristics」はいわゆる「被験者背景、患者背景」のことですから、見出し以外では「被験者背景」、「患者背景」、「背景因子」などと訳したほうが適切でわかりやすいと思います。逆に英訳時には「other characteristics of baseline values」などと誤訳しないよう注意が必要です。

なお、製薬企業やCROが作成した日本語の治験総括報告書やプロトコルで、「人口統計学的及び他の基準値の特性」という表現を見出しのみならず本文中でも使用しているものを時々見掛けますが、そこまでICH E3ガイドライン対訳版の誤訳を使う必要性や、誤訳で統一する必要性があるのでしょうか。製薬企業で英文メディカルライティングの研修を実施していますと、この日本語表現が誤訳であることを知らず、英訳時に「other characteristics of baseline values」などと誤訳する社内メディカルライターが意外に多くいるので、外注した英訳の社内チェックなどでも誤訳と気付かずに見逃している場合が結構あるのではないかと思います。「英訳しやすい日本語」という観点から見ても、日本語の治験総括報告書やプロトコルで「人口統計学的及び他の基準値の特性」という表現を使うことは好ましくありません。特にプロトコルは、治験責任医師らが読者ですから、彼らに通じない表現は避けたほうが良いと思います。製薬企業やCROのメディカルライターの方々はぜひご一考下さい。

5. 他のICHガイドラインも必携

他の種類の製薬文書に関してもICHガイドラインが作成されている場合が多いので(例:CTD、IB)、製薬分野の翻訳者・英文校閲者の方は、関連するICHガイドラインについて、あれば日本語版も含めてすべて入手して、内容・構成や表現に精通しておく必要があります。まだ入手なさっていない方は、お時間のある時に前述のICHガイドラインのサイトをご覧になってみて下さい。

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