少し前の話ですが、2014年10月に「医薬分野における英文校閲:効果的な方法とコツ」というセミナーを開催したところ、ほぼ満員という盛況ぶりで、英文校閲のニーズの高さを実感いたしました。
このセミナーを開催しようと思った理由は、「英文チェックは英文ライティング未経験者・初心者にもできる」という世間の誤解を正したかったからです。
医薬分野の英文チェックの現状
製薬企業から社内英文メディカルライティング研修をお引き受けする際に、受講者の方々の英文ライティング業務の頻度・種類などをお聞きすると、「英文を書くなんてとんでもない!ライティングはまだできないので、外注した英訳や英語文書をチェックしているだけです」など、あたかも英文チェックが英文ライティングより簡単なことのようにおっしゃる方が多くて驚きます。
また、翻訳会社では、翻訳家志望者や翻訳初心者に訳文チェックを担当させていることが多く、ひどい場合は、翻訳とは全く関係のない事務員がチェックしていることさえあります。いわゆる「ネイティブチェック」も、医薬知識やメディカルライティングのスキルを持たないネイティブスピーカーに任せている翻訳会社もあります。
しかし、正確かつ適切な英文メディカルライティングができない方が、果たして他人の医薬英文の良し悪しを正しく判断できるでしょうか?英文の間違いや不適切な英語表現を見つけられたとしても、正しく直すことができるでしょうか?
日本語に置き換えて考えてみて下さい。日本語でも他人の文章を直すのは、自分で書くより難しくありませんか?日本語の医学論文や医薬品承認申請資料のチェックを、片言の日本語しか書けない外国人に任せられますか?
そもそも「チェック」とは?
英文の「チェック」には、「校閲」(editing)と「校正」(proofreading)の2種類がありますが、いずれもライターや翻訳者と同等かそれ以上の「語学力」と「専門知識」と「メディカルライティング能力」が必要です。それだけでなく、校閲・校正の「適性」、「知識」、「技術」、「訓練・経験」も必要です。つまり、チェックはライティングや翻訳と同じくらい、あるいはそれ以上に難しいのです。
誰がチェックすべき?
欧米で校閲者(editor)や校正者(proofreader)はライター・翻訳者とは別の「スペシャリスト」とみなされており、ネイティブのメディカルライターや医薬翻訳者でも校閲・校正は引き受けないという方が大勢います。
英文チェックは英文ライティングと同じくらいかそれ以上に難しく、校閲・校正のスキルも必要ですから、英文メディカルライティングや和文英訳の未経験者・初心者ではなく、上級者に任せるべきだと思います。もし未経験者・初心者にチェックを任せるなら、その後に必ず上級者が確認するほうが良いでしょう。そうでないと、英文を修正できる確率より「改悪」するリスクのほうが高くなってしまいます。改悪してしまっては元も子もありませんので、「改悪」は校閲・校正で一番やってはいけないことです。
何回チェックすべき?
チェックの回数を増やせば英文の質が上がると考えて、翻訳会社に数回の訳文チェックを要請する製薬会社もあるようですが、チェックの回数よりチェック能力のほうが結果を大きく左右します。
チェッカーの英文メディカルライティング能力が低いと、何度チェックを繰り返しても、数字の入力ミスや初歩的な文法ミス程度しか確認できず、英文の質は大して上がりません。それどころか、チェックを重ねる度に「改悪」のリスクが増します。一方、英文メディカルライティング能力の高いチェッカーなら、たった1回のチェックでも高い効果を期待できます。
まずは、直せるレベルの英文を作ろう!
言うまでもなく、「直せるレベル」の英文に仕上がっていることが、チェックの大前提です。悪文は、いくら手を加えても良い文章になりませんから、全面的な「リライト」や「再翻訳」が必要になります。実際、このようなケースは珍しくありません。英文校閲を外注する場合は、直せるレベルの英文になっているか否かを、まず確認すると良いでしょう。
これらのことを多くの方々にお伝えしたくて、英文校閲に関するセミナーを開催した次第です。セミナー参加者の方々からリクエストの多かった、より具体的な校閲テクニックに関するセミナーは、今後の開催を検討したいと思います。